chelly/recheの歌い方|息を混ぜる声、張る声、揺らす声の使い分け

2021年12月配信の初ライブ、黒い衣装で歌うreche chelly/reche
2021年12月配信の初ライブ、黒い衣装で歌うreche

chelly/recheの歌を、儚い声という印象だけで捉えると、曲の中で選んでいる声の違いを見落としてしまいます。
息を多く混ぜることもあれば、重い言葉を強く置くこともあり、あえて声を揺らす場面もある。
しかも録音では、本人が出した声に編集や加工を加え、狙った音へ仕上げる場合があります。
具体的な曲の制作をたどると、同じ声質から異なる表情が生まれる理由が見えてきます。

「Fallen」の荒い声は、発声と加工の両方から生まれた

「Fallen」でchellyが目指したのは、無機質な印象と、曲が持つ熱い気持ちを一緒に表すことでした。
録音ではシャウト風の声を求められ、声を絞る感覚や、息を多く混ぜる方法を試したと説明しています。

さらに後年の説明では、録音した音を編集で絞り、エフェクトも加えて、シャウトのように聞かせたと明かしました。
完成した音の荒々しさを、そのまま生の声の出し方だと捉えることはできません。

ここで聴く側が受け取るのは、一人の身体から出た声だけでなく、曲に合わせて作られたボーカルの音です。
息の混ざる声そのものと、そこへ加工を重ねた音は、分けて考える必要があります。
生の声だけであの荒さを出していると捉えると、録音で行った工夫が抜け落ちてしまう。
静かな声か激しい声かという二択の間にも、録音ならではの作り方があります。

2021年12月配信の初ライブ、舞台に立つreche
2021年12月配信の初ライブ、舞台に立つreche。
画像出典:画像掲載元
写真:Taku Fujii/©c*take ©8ACHI6OCKS!!

ささやく声は、弱さではなく、誰に話すかで選ばれる

recheの「There Is Still Wonder Left To Behold」では、海辺に一人でいて、大切なペンダントを握り、自分へ大丈夫と言い聞かせる場面を想像しました。
そこで意識したのは、ささやくような歌です。

大勢へ呼びかける場面ではなく、自分の気持ちを落ち着かせようとする場面だから、声を近くにとどめる理由がある。
この前提が分かると、控えめな声にも、誰に向けているかという輪郭が生まれます。
遠くへ届く強さを競う歌とは、聴いてほしい距離が違うのです。

同じアルバムの「RAKUEN」ではラップを自宅で練習し、英語詞の歌と同じように聴き心地を大切にしたと話しています。
声を薄くするだけで一枚を統一するのではなく、言葉が流れる感触も変えています。

ささやきとラップは、どちらも話し言葉へ近づけられる歌い方ですが、注意が向く場所は異なります。
一人へそっと語る距離に耳を澄ますのか、言葉が連なるリズムを追うのか。
recheの声を聴く時には、柔らかさという共通点だけで、その役割まで同じにしないことが大切です。

強い声にも、重く置く歌と、語り出す歌がある

「リローデッド」では、重厚な音に合わせ、一文ずつ重みを持たせて歌い、序盤とサビの熱量にも差を付けました。
対して「Ghost of a smile」は、悲しい内容でも曲全体を悲壮感で覆わず、終わり近くで本音が漏れる部分の表情を変えています。

最初から最後まで同じ強さなら、言葉の重さも、本音が出てしまう瞬間も目立ちにくくなります。
一曲のどこで感情を押し出すかを決めることが、強い声を印象に残す準備になる。
この二曲では、重さを保って進む緊張と、最後に気持ちが表へ出る動きが、それぞれ別の歌の形を作っています。

「Gold」では、GigaとTeddyLoidのディレクションから、言葉の切り方やブレスを学びました。
本人が曲に感じたのは、自分の意志で進む強さです。
ただし、EGOISTとして歌う以上、本人の表現をそのまま出すだけでよいのかを考え、いのりとのバランスも調整しています。

力強さは、長い音を大きく張ることでしか表せないものではありません。
どこで言葉を切り、次の言葉をどう始めるかにも、ためらいのなさや勢いを表す余地があります。
「Gold」の制作で本人が学んだことは、声量を増やすことよりも、言葉と息をどう配置するかという細部にありました。

「当事者」では、整えきらない声で迷いを残す

「当事者」の問いかける部分では、感情が我慢しきれずに漏れるイメージで、わざと声を揺らしました。
最初に考えていたのは、もっと狂気を感じさせる表現です。
けれど制作側と話し合ったことで、怖さだけにならず、主人公の迷いも出せたと振り返っています。

音を揺らさずに保つ歌が、いつでもその場面の正解になるわけではありません。
確信を持って言い切る人物なのか、問いながら自分も揺れている人物なのかで、必要な声は変わります。
ここでの揺れは、音程の正確さを採点するための材料というより、言葉を口にする人の状態を示す表現です。
本人が意図しているのは、声をきれいに並べることより、その問いが漏れ出す瞬間を伝えることでした。

2021年12月配信の初ライブでマイクに向かうreche
2021年12月配信の初ライブでマイクに向かうreche。
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同じ言葉を繰り返しても、同じ気持ちには固定しない

「星と翼のパラドクス」の作詞を担当した児玉雨子は、サビで繰り返される会いたいという言葉の歌い方が、毎回違うことに注目しています。
菅野よう子も、歌詞と旋律から表現へ移る反応の速さを評価しました。

繰り返しは、前と同じ意味をもう一度示すためだけにあるのではありません。
一度伝えたあとにも残る気持ちや、言い直すことで強まる願いを、別の表情で重ねることができます。
制作側がこの歌に見つけたのは、言葉を正しく置くことに加え、その言葉が毎回新しく発せられる感覚だったのでしょう。

同じ曲でも、伴奏に合わせて声の角を変える

2017年のベスト盤に収録した「Departures ~あなたにおくるアイの歌~」のアコースティック版は、テンポが速めで、少し生意気にも感じられる編曲でした。
chellyは嫌味な印象にならないよう、まろやかさを残し、ギターと息を合わせて録音したと話しています。

アコースティックという言葉から、声も伴奏も弱くなると決めてしまうと、この選択は見えにくくなります。
編曲が加えた軽快さに対し、声には角を立てすぎない柔らかさを残す。
両方を同じ方向へ強調するのではなく、組み合わせた時の人物像を整えているのです。

また「BANG!!!」のM2U Remixについては、原曲から音を引くことで声の細かな表情が分かりやすくなったという指摘に、本人も、より鮮明に聞こえると答えています。

歌い方を変えた録音と、周囲の音が変わって歌が違って聞こえるリミックスは、分けて聴きたいところです。
声の印象には、何を歌ったかだけでなく、その周りにどんな音があるかも関わっています。

「命に嫌われている。」で、叫ばずに気持ちを漏らす

「命に嫌われている。」のカバーでは、叫ぶより、気持ちを少しずつ吐き出すように歌いました。
本人が考えたのは、感情をためてから爆発する流れであり、爆発にもいろいろな形があるということです。
また「マフィア」では、原曲の歌い方や編曲を意識しつつ、プロデューサーの提案も受け、自分の声の持ち味をそのまま生かしました。

強い言葉だから常に強く発声する、原曲に加工感があるから同じ質感にする。
そうした対応だけでは、歌い手が読み取った気持ちまで決まりません。
「Fallen」では加工を使い、カバーでは自分の声を前へ出す。
方法が違っても、どんな感情を聴く人に残したいかを考えて選んでいる点は共通しています。

chelly/recheの歌い方には、儚さを生かす場面にも、強い言葉を押し出す場面にも、息や揺れ、言葉の切れ目を選ぶ細やかさがあります。
「当事者」の迷う声と、「There Is Still Wonder Left To Behold」の自分へ語る声では、控えめな声にも違う理由がある。
その違いを追うと、声質の魅力が、一曲の中でどのような人物の表情に変わるのかが見えてきます。
こうした選択がEGOISTからソロへどう広がったかは、chelly/recheの歌唱変遷でたどっています。

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