芹澤優の歌声の変遷|甘い声を広げてきた人が、低音に求めた強さ

芹澤優(『YOUr No.1』発表期/2022年) シンガー
芹澤優(『YOUr No.1』発表期/2022年)

甘い声の印象が強い芹澤優が、ユーロビートでは低く力強い声を選ぶ。
そこへ至る歩みには、ソロになって自由に使えるようになった声と、自分で課題を見つけて鍛えてきた声の両方があります。

2017年のソロデビューから、2026年の「TIMELESS POWER feat. MOTSU」まで。
変わってきたのは曲のジャンルに加え、声の甘さをどこまで出すか、強さを何で作るかという、歌う本人の判断でした。

2017年、ひとりになって使えた弱さと甘さ

i☆Risで歌っていた芹澤にとって、最初のミニアルバム『YOU&YOU』は、声の強弱を一人で決められる場所でした。
当時のグループでは六人の中で声が埋もれず、同時に飛び出しすぎないことが必要だったと振り返っています。

ソロではその加減を大きく動かせる。
「WAGA-MA-MA-MAGIC」では優しく囁く歌唱を試し、太田雅友に普段の癖も出してよいと促されると、「Kiss! Kiss! Kiss!」などではグループ以上に甘く歌いました。
自分らしさを整える出発点で、まず個性を強める自由を得たのです。

同年の二作目『only you? only me!』では、本人が好きな自分を作品へ反映する意識が強まります。
太田との会話も、最近見たライブや好きな音楽へ広がり、歌詞への希望も自ら伝えるようになりました。
歌手として与えられた曲に応える段階から、自分が何を届けるかを考える段階へ踏み込んでいます。

芹澤優(ソロデビュー期の取材/2017年)
芹澤優(ソロデビュー期の取材/2017年)。
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恋の歌で、言葉に合わせて声を変える

2018年の「最悪な日でもあなたが好き。」は、ソロで初めてのアニメタイアップでした。
自ら演じる『異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術』のシェラの恋心を出発点に、HoneyWorksと作った曲です。
作品の人物に寄り添うことと、自分名義で歌うことが重なる仕事になりました。

録音ではGomから、歌い出しの切なさやかすれ、囁く箇所の弱さについて細かな提案を受けます。
同じ恋心でも場面ごとに声を変える。
ソロ初期に広げた甘さや弱さが、今度は一曲の感情の流れを描くために使われました。

一方、翌2019年の「デビきゅー」では、繰り返す言葉の一つひとつへ全力を注いだと語っています。
子どもにも覚えてもらいたいという願いを持った、テレビアニメ『魔入りました!入間くん』のエンディング曲です。
繊細な恋の表現を身につけても、声で勢いよく巻き込む持ち味は手放していません。

2021年、知らない音楽へ踏み出す

DJ KOO、MOTSUと組んだ2021年の「EVERYBODY! EVERYBODY!」では、また別の難しさに出会いました。
初めてに近い曲調で、歌入れを何度もやり直したと本人は話しています。
MOTSUは声優としての経験を生かす方向で歌を導き、芹澤もその指示を受け取りながら形にしていきました。

同じシングルの「YOU YOU YOU」には、恋の気持ちを可愛く表す世界があります。
DJ KOOが評価したのは、そこで声を前へ出し、曲の勢いを背負えたことでした。
甘い歌とダンスミュージックの間には、声をどう前面へ届けるかという接点があったのです。

この時期は客席から声を出せない状況でもあり、2021年のソロツアーでは朗読やバラードを増やしました。
芹澤は、ファンが楽しさ以外の感情も受け止めてくれると感じたといいます。
にぎやかに盛り上げる曲を増やす一方で、静かに届ける時間も作っていました。

2022年、歌いやすくなった声で飾らずに歌う

2022年の『YOUr No.1』へ至る間には、声そのものを見直す転機もありました。
2018年に喉を痛めたことをきっかけに、ボイストレーニングで発声を一から変えたと本人は振り返っています。
仕事の前にも早く起きて声を出し、準備して現場へ向かうようになりました。

以前のように声をつぶすことがなくなり、仕事も楽しくなったといいます。
歌う表情を増やす一方で、声を仕事で使い続けるための土台も作り直していたのでした。

2022年には、以前より歌いやすくなったとも話しています。
初期の歌唱は、一つひとつのフレーズを懸命に歌っていたという振り返りでした。
こうした変化があった時期に、アルバムでは自分の声を飾り立てずに届ける方向も探りました。

「シンデレラストーリー」では、可愛くも格好よくも演出しようとせず、そのまま歌うよう求められます。
声優として身につけた表現を足したくなるところを、自然に出る感情へ任せたのです。
「Close to you」でも声を張らず、話すように歌いました。

同作のロック曲「Break My Tears」では、可愛さが乗らないよう声を変える挑戦もしました。
格好いい曲を歌う印象がないと言われ、歌えるところを見せたかったという本人の思いがあります。
自然体で歌う曲も、従来の印象を動かす曲も、一つのアルバムに並ぶようになりました。

芹澤優(「JUNGLE FIRE feat. MOTSU」発表期/2023年)
芹澤優(「JUNGLE FIRE feat. MOTSU」発表期/2023年)。
画像出典:画像掲載元

ユーロビートを重ねながら見つけた課題

2023年の「JUNGLE FIRE feat. MOTSU」は、『MFゴースト』のオープニング曲です。
芹澤は、最初に圧倒された「EVERYBODY! EVERYBODY!」も、ライブで重ねるうちに歌いやすくなったと話しています。
その経験を経て、新たな曲には歌えそうだという感触を持てました。

続く「ROCK ME KISS ME feat. MOTSU」は2024年発売ですが、録音自体は早い段階で行われていました。
芹澤は、歌い上げる箇所を試行錯誤しながら作り、MOTSUと同じブースで意見を交わせる関係についても話しています。
共演を重ねることが、提案しやすい環境を作っていました。

さらに2024年の本人は、同曲の歌唱について、録音時よりアニサマで披露したときに手応えを感じたと振り返っています。
完成音源を出発点に、ステージでも更新を続けていたわけです。
発売された順だけを追うと、この録音後の時間を見落としてしまいます。

その中で本人が持ち続けた課題が、低音の強さでした。
「JUNGLE FIRE」の完成時には、低い声の響きや厚みがまだ足りないと感じていたのです。
同曲と「ROCK ME KISS ME」は近い時期に録音され、次の「TIMELESS POWER」までは約2年。
この間、ライブでも意識して声を太くしていったと説明しています。

2026年、用意していた声を差し出す

「TIMELESS POWER」のBメロは低く、サビまでの音域も広い。
MOTSUは曲を調整する選択肢も伝えましたが、芹澤は低いままで歌いたいと答えました。
ちょうど、取り組んできた声を使いたい曲に出会えたのです。

録音前には、この曲をボイストレーニングへ持っていき、思い描く響きへ近づけるために調整を重ねました。
同じ音程でも、どんな声で出すかによって厚みが変わる。
それを本人が課題として捉え、準備した声を制作の場へ持ち込んでいます。

タイトルを歌うフレーズも複数の案を検討して、二通りを録音現場へ持参しました。
新しい曲が来たから急に変わったのではなく、積み重ねてきた選択を披露する機会が来たのでした。

同じシングルには、徳永暁人が手掛けた「Horizon」も収録されています。
ユーロビートで新しい声を示す作品にも、別の作り手による曲を並べる。
その幅を含めて、自分名義の音楽を届けています。

ソロになって強弱を動かす自由を得た声に、発声を見直す時間が重なった。
そこへ共演者との新しい課題が加わっていく。
芹澤の変化は、初期の自分を消す一本道より、必要な声を自分で増やしていく歩みとして捉えると見えてきます。

曲の中での甘さ、低音、声の切り替えについては、芹澤優の歌い方で詳しく扱っています。

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