チャーリーXCXの歌には、強い態度を見せた次の瞬間、弱さが顔を出す面白さがあります。
『BRAT』の「I think about it all the time」では、私生活の迷いを気軽な独白のように歌い、その前後には激しいダンス曲が置かれています。
大きな声だけで引き込むのではなく、相手との距離を変えながら歌う人なのです。
ハスキーな声を、曲の性格に合わせて使う
初期の『True Romance』から、彼女の声にはハスキーな質感がありました。
「Take My Hand」や「Black Roses」の温かさ、「You (Ha Ha Ha)」の噛みつくような表情。
同じ声のざらつきでも、包み込む方向に働く場合と、言葉に棘をつける場合があります。

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声の細部では、低く小刻みにきしむようなボーカルフライも特徴の一つに挙げられます。
「party 4 u」の終盤は、その細かな質感と加工の関係を考える例です。
声に電子的な和音を重ねるヴォコーダーを使い、フレーズを反復する中にも、語尾のざらつきが残ります。
この部分では、声の質感が打楽器のような役目も持つと分析されています。
滑らかな旋律だけでなく、声が途切れたり粒立ったりする感触も、曲のリズムを作る。
録音で拾われる小さな発声の特徴が、人工的な音の中に親密さを残すのです。
「Vroom Vroom」で、ラップと高いメロディーを切り替える
「Vroom Vroom」では、強気に言葉を並べるラップの後に、高いメロディーが現れます。
言葉を前へ出す部分と、音の高さで印象を変える部分があるため、一曲の中に硬さと甘さが生まれます。
荒っぽい声だけを続けないことが、かえって反抗的な態度を際立たせています。
声の勢いは、歌詞を最初から一字ずつ完成させる作り方だけから生まれるものでもありません。
チャーリーは、まずマイクに向かって声を出し、そこからメロディーを形にする方法を話しています。
言葉を発する勢いと、歌のフレーズを作る作業が近い。
そのため、歌詞の意味に加えて、口から出たときのリズムも歌の中心になります。
2021年にも、最初にメロディーを録り、言葉らしく聞こえる音へ後から歌詞を当てると説明していました。
文章をそのまま音符に乗せるだけでなく、先に生まれた声の形を言葉にする。
歌と話し言葉が近づいたり離れたりする表現は、こうした制作の入口からも考えられます。

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Auto-Tuneは、歌った後だけの飾りではない
彼女は、音程補正ソフトのAuto-Tuneについて、歌う自由や自信を与えてくれるものとして語っています。
音程を整える働きだけでなく、声が作る雰囲気にも魅力を感じているのです。
加工を前提に歌う場合、どんな声が返ってくるかも表現の一部になります。
完成音のなめらかさや不自然な高さを、発声だけの技術に置き換えて説明することはできません。
同じ加工を、全曲へ同じ強さでかけているわけでもありません。
『Pop 2』でクックが行ったのは、弱める曲と、思い切り効かせる曲を作ることでした。
「Lucky」の終わりの高い声や「Track 10」は、その実験を考える具体例です。
声の変形も、曲ごとに選ぶ表情になっています。
ただ、加工された声を使うからといって、歌の内容まで遠くなるとは限りません。
『BRAT』の「I might say something stupid」は、自分の居場所への不安を扱う、短くロボット的な質感の曲です。
人工的な響きと、ためらいのある内容が一緒に置かれる。
声が人間らしく整っているかとは別のところで、聴き手に弱さが伝わります。
言葉の近さを作る「Girl, so confusing」
「Girl, so confusing」では、メッセージを送り合う感覚が考えられ、最初のテイクが残されました。
今、相手に話しかけているような近さを生かした録音です。
『BRAT』で本人が目指したのは、友人との間で実際に言いそうな言葉でした。
一方、「So I」では、SOPHIEへの気持ちをAuto-Tuneのあるバラードで歌っています。
会話の近さを出す曲と、加工を含んだ歌声で喪失に向き合う曲。
感情を伝えるための声は、一つの「素直な歌い方」に限定されていません。
大きく見せる声と、生活の中の声を使い分ける
『CRASH』の「Baby」は、自信と性的な魅力を前面に出す曲として作られました。
本人も、録音した日の気分と、曲が与えてくれる自信を語っています。
一方、同じアルバムの「Every Rule」では、かつての恋愛で実際に起きたことを、そのまま歌にしたと説明しました。
同じ作品の中にも、相手を引きつける人物像を押し出す曲と、過去を私的に語る曲があります。
生活の声をそのまま作品へ持ち込む例が、『how i’m feeling now』の「enemy」です。
曲の題材には想像の要素があるため、本人は、実際の自分が迷っているボイスメモを入れることで、現実へつなぎ留めたと説明しています。
歌として整えた声と、歌うためではない声を隣に置く。
その違いが、心情の見え方を変えています。
このアルバムの録音では、自分で居間にマイクを置き、送られてきた曲へ歌を重ねていました。
豪華なスタジオを使うかどうかより、今の気持ちをすぐ声にできる環境が大きかったのです。
彼女が当時重視していた、生活の変化を速い制作で残す姿勢は、歌に私的な距離を持ち込む背景にもなっています。
他の声が入ると、チャーリーの歌も違う役目を持つ
「Blame It on Your Love」について、チャーリーはリゾが加わって初めて完成したと話しています。
強い個性を持つ相手の参加によって、自分だけでは想像できなかった曲になる。
ここでは、誰が高く歌えるかを競うより、二人の組み合わせでしか生まれない性格を作ることが大切にされています。
「House」のジョン・ケイルは、言葉を演劇的に進める朗読で参加しました。
同じ曲の中に、歌う人とは違う時間の使い方をする声がいる。
チャーリーの歌声の役目を考えるときも、本人だけを切り離さず、前後にどんな声が置かれているかを見ると、作品の立体感が分かりやすくなります。
声を、もう一つの楽器として動かす
2026年の『Music, Fashion, Film』にも、声が変形していく面白さは残っています。
「I’m Afraid」の歌声は、音程を滑らかに曲げる鍵盤の操作を思わせるものとして評されています。
歌詞を運ぶだけでなく、曲の中を動く音として声を扱う視点が、ここでも役に立ちます。
チャーリーの声を聴くときは、言葉が前に出る瞬間と、音の変化そのものが前に出る瞬間を追ってみたいところです。
声を楽器の一つとして楽しめば、整った歌声だけを基準にしたときには見えにくい、彼女の表現の広さに気づけます。

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