オリビア・ニュートン・ジョンの歌を、優しい声という一言でまとめるのは簡単です。
けれども、近くへ打ち明けるバラードと、体を動かしたくなるポップでは、声の使い道が違います。
声量や音域の選び方、録音で残す歌、相手と声を重ねる場面。
具体的な選択を見ると、柔らかさが、ただ控えめに歌うことではないと分かります。
1974年の録音。
大きさを抑えるのは、声がよく響く場所を選ぶため
オリビアは1975年、もっと大きく歌うこともできるけれど、それではほかの人と同じようになってしまう、と話しています。
重視していたのは、自分の声が最もよく聞こえる音域です。
強さの足りない場所で無理に張り上げるより、声に合う範囲で歌を成立させる。
その判断が、彼女らしい柔らかさにつながっていました。
本人の言う柔らかな歌い方には、歌詞を読み取る力も含まれます。
同じ1975年には、一、二年前より言葉をうまく表現できるようになったと話していました。
大声で押す以外にも、歌には上達の道がある。
穏やかな声のまま、言葉の気持ちを深く届けることを目指していたのです。

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一人の聴き手を思い浮かべる、近い声
ファーラーから受けた助言に、小さなラジオで音楽を聴く少年を思い浮かべ、その一人に向けて歌う、というものがあります。
相手のいる場所を近くに感じられれば、声の大きさだけで伝えようとせずに済みます。
オリビアの親密な歌を考える手がかりになる言葉です。
「I Honestly Love You」では、ためらい、孤独、後悔といった、きれいに割り切れない気持ちが重なります。
愛を伝える歌でも、ただ晴れやかに言い切る場面とは違う。
柔らかな声には、強く断言しきれない気持ちを、そのまま相手のそばへ置く役割があります。
この曲では、最初のテイクが採用されました。
本人が後年にも覚えていた、初めて歌ったときの録音です。
「Let Me Be There」の高さは、低い声との対照でも際立つ
「Let Me Be There」では、オリビアの声に対して、マイク・サムズの低いハーモニーが重なります。
その低音を、オリビア自身が出している声と取り違えないことが大切です。
終盤の転調で歌が持ち上がり、彼女の高い声へ向かう流れも、低い声の支えがあることで際立ちます。
歌声の迫力は、一人の音域だけで決まらないのです。
1973年の原録音(2022年リマスター)。
また、カントリーを歌う際にも、本人はアメリカやナッシュビルのアクセントをわざと付けているのではないと説明していました。
歌うときの発音が話し言葉と変わることはあっても、誰かの土地の声をまねることが出発点ではなかった。
旋律に合う言葉を、自分の声で届ける姿勢です。
『グリース』では、人物の動きに合わせて強さを出す
「Hopelessly Devoted to You」と「You're the One That I Want」は、同じサンディの歌でも、恋を内側に抱える場面と、相手へ向かう場面を担っています。
声を前へ出す理由は、人物が行動へ移る場面にもあるのでしょう。
役を演じたことが力強い歌唱への入口になった、という本人の説明を踏まえると、歌の強さを音量だけで捉えずに済みます。
人物の気持ちが、声の出し方にもつながっていたのです。
キーと伴奏を決めてから、もう一度声を合わせる
ファーラーとの録音では、最初にキーと曲の感触を決め、ごく基本的な伴奏で歌って、うまくいくか確かめていました。
その歌に合わせて彼が伴奏を完成させ、オリビアが改めて声を録り直すことも多かったといいます。
先に出来上がった音へ歌をはめるだけでなく、歌と伴奏の両方を調整していたのです。
『Physical』のような強いポップでも、自分に合うキーや曲の感触を確かめる作業がありました。
どの高さで、どんな伴奏と歌うと、その声が生きるのか。
録り直しは、その組み合わせを探す作業でもあります。
『Hotel Sessions』でも、納得する歌を録り直す
甥のブレット・ゴールドスミスとの制作でも、オリビアは最初に録った声で済ませなかったことがあります。
「Best of My Love」を歌った後、別の歌唱で録り直したいと希望しました。
ホテルの限られた録音環境でも、欲しい歌の形を持っていたのです。
「Ordinary Life」では、歌を録る前に歌詞も変えました。
ゴールドスミスが自分について書いた内容を、オリビアの年齢や気持ちに合う視点へ二人で調整したのです。
声を整えるだけでなく、自分がどんな立場でその言葉を歌うのかも整える。
彼女の歌の説得力には、この準備も関わっています。
高い声を保つため、歌う前の準備をする
オリビアは2011年、若い頃と違って、発声のウォームアップを行っていると説明しました。
仕事がない時期には数週間休むこともあるものの、再び歌うときには準備をする。
本人が役立つと感じていたのは、そうした日常の取り組みでした。
翌年の取材では、共に歌うスティーヴ・リアルからレッスンを受け、声を保つための練習をしていることにも触れています。
高い音について聞かれると、今も届くことを本人自身が喜んでいました。
ただ、若い頃に当たり前だと思っていた声を、意識して扱うようになったことは確かです。

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一緒に歌う声には、相手を支える役目もある
『LIV ON』では、エイミー・スカイ、ベス・ニールセン・チャップマンと、互いの曲でバックボーカルを担当しています。
「Grace and Gratitude」も、三人の作品の中で歌い直されました。
自分の声を中心へ置く時間と、別の人の言葉を後ろから支える時間。
声の役割が、歌う相手との関係によって変わります。
本人は、この三人で歌う舞台を、一人で歌う場合と区別して捉えていました。
悲しみを扱う曲を届けるうえで、二人の存在が感情の支えになるというのです。
ハーモニーの美しさだけでなく、支えられて歌えることも、共演から得られるものです。
2016年『LIV ON』収録版。
娘のクロエは、母から受けた助言を覚えていました。
細かな技巧を並べるよりも、心から歌い、聴いた人に何かを感じてもらうことが大切だという言葉です。
母娘で歌った「Window in the Wall」は、声の違う二人が共に言葉を届ける例にもなっています。
柔らかく歌うことも、強く歌うことも、それ自体がオリビアの目的ではありません。
自分の声が生きる音域を選び、相手との距離を考え、その曲の人物や言葉に合う歌を残す。
その積み重ねが、静かな歌にも深く届く力を与えていました。
こうした選択が時代とともにどう変わったかは、オリビア・ニュートン・ジョンの歌唱変遷で詳しくたどっています。

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