ポスト・マローンの歌声の変遷|揺れる歌声が、ラップからギターとカントリーへ広がるまで

2021年12月15日、ソルトレイクシティで撮影されたポスト・マローン/写真:Eric Ryan Anderson シンガー
2021年12月15日、ソルトレイクシティで撮影されたポスト・マローン/写真:Eric Ryan Anderson

ポスト・マローンは、ラップと歌の間を行き来する声で登場し、ポップ、ロック、カントリーへと活動を広げてきました。
ただ、作品のジャンルだけを並べると、初めから持っていた歌の要素や、後に変わった声の使い方が見えにくくなります。
転機ごとの制作過程をたどると、ギター、声の揺れ、歌う言葉を、少しずつ違う形で中心に置いてきたことが分かります。

「White Iverson」で知られる前から、歌とギターがあった

2015年、「White Iverson」が注目を集めると、ポストはラッパーとして知られるようになりました。
しかし、当時の本人は、ギターも弾き、さまざまな音を取り入れたいと話しています。
ラップだけに自分を限定するつもりは、最初からなかったのです。

本人によれば、16歳頃には、友人の前でギターを弾きながらザ・ウィークエンドの曲を歌い、褒められた経験もありました。

2016年のデビュー作『Stoney』では、その考えが生楽器の導入にも表れます。
本人は制作中に、アルバムでギターを弾き、生の楽器を使った音楽を探っていると説明しました。
「Go Flex」の映像にも、ギターを弾く姿が登場します。
後年のアコースティックな歌は、ヒット後に突然付け加えた趣味ではなく、初期の作品作りから続く要素でした。

2017年のライブでも、「Feeling Whitney」とニルヴァーナの「All Apologies」を、アコースティックのコーナーで披露していました。
会場を巻き込むヒット曲と並んで、歌声そのものを聴かせる時間を持っていたのです。
「White Iverson」で知った人にも、ギターを背景に歌う別の姿が、ステージでは届いていました。

『beerbongs & bentleys』で、声の個性を大きな音にする

2018年の『beerbongs & bentleys』では、「rockstar」「Psycho」などを収め、歌声を中心にした音作りがさらに広がります。
制作を支えたルイス・ベルによれば、このアルバムには『Stoney』の終盤から取り組み、完成まで約2年をかけました。
本人が自宅で作るビートも受け取りながら、ベルが音楽を発展させています。

このアルバムにも、ギターを中心にした「Stay」があります。
初期の「Feeling Whitney」に続いて、少ない音で歌を聴かせる方向を、作品の中に残した曲です。
ラップとメロディーの融合を広げる一方で、静かな歌でも感情を伝える。
この二つを同時に育てていたと見ると、『Austin』へのつながりも見えてきます。

2016年の取材時のポスト・マローン/写真:Rachel Kaplan for iHeartRadio
2016年の取材時のポスト・マローン/写真:Rachel Kaplan for iHeartRadio。
画像出典:画像掲載元

2019年、同じ声がポップにもロックにも入っていく

『Hollywood’s Bleeding』の「Circles」では、アコースティックギターとベース、耳に残るサビの旋律が前に出ます。
沈んだ感情を残したまま、曲の形はよりポップに開かれました。
初期の曇ったビートの中で漂う声から、はっきりした旋律を担う歌へと、聴かせ方が広がる一曲です。

同じアルバムには、オジー・オズボーンとトラヴィス・スコットを迎えた「Take What You Want」も収録されています。
制作にはベルとアンドリュー・ワットが携わり、ボーカルの制作はベルが担当しました。
一枚の作品の中で、歌声を置く音楽の環境が大きく変わるようになったのです。

さらに2020年には、ニルヴァーナの楽曲を演奏するチャリティー配信も行いました。
後に本人は、カート・コバーンへの敬意から、娘のフランシスに事前の了承を求めたと振り返っています。
ロックの要素を自作曲に取り入れるだけでなく、敬愛する歌い手の曲をまとまった形で歌う機会にもなりました。

『Twelve Carat Toothache』で、自分が歌う理由を取り戻す

成功の後も、制作意欲が途切れず続いたわけではありません。
2022年、ポストは一時期、ギターもビート作りも以前ほど楽しめなくなり、アイデアが尽きることを恐れていたと明かしました。
自宅を訪れたベルと気負わず作業するうちに、制作への感覚が戻ってきたそうです。
『Twelve Carat Toothache』では曲数を増やすことより、その時点の感情に合う作品を作ることを選びました。

収録曲「Reputation」についても、若い頃のツアーや責任の重さ、暗い時期を表現する必要があったと説明しています。
2022年6月には、ベルのピアノとともに、この曲を初めてライブで歌いました。
大きな成功を示す声から、その成功の中で抱えた感情を言葉にする声へ。
歌う内容に目を向けても、この時期の変化が見えてきます。

『Austin』で変わった、作曲の出発点と声の扱い

2023年の『Austin』は、当初アコースティック作品として始まりました。
短期間で曲ができ、その後にドラムなどを加えたことで、全編が弾き語りという形にはなりませんでした。
本人は冒頭曲「Don’t Understand」を語る中で、自信の揺らぎや、人前に立つことへの不安にも触れています。
音を軽くすることと、歌う感情まで軽くすることは、別だったのです。

この作品では、歌い方にも具体的な試みがありました。
長いツアーで声が疲れていたと話すポストは、ワットとベルとともに声をいたわりながら、裏声を以前より試しています。
マイクも替えました。
特徴的な揺れる歌声を残しつつ、常にそれを押し出すのではなく、表情を添える使い方へ進んでいたことがうかがえます。

制作には期限を置かず、音楽を作る楽しさへ戻ろうとしていたことも、当時の関係者が語っています。
ポスト自身にとっても、ギターを弾きながら新しいことを試す作業は、挑戦であり、やりがいのあるものでした。
『Austin』の変化には、編成やジャンルだけでなく、試す余裕を持てた制作環境も関わっています。

2023年の取材に掲載されたポスト・マローン/写真:Ryan McGinley
2023年の取材に掲載されたポスト・マローン/写真:Ryan McGinley。
画像出典:画像掲載元

同年のツアーにも、アコースティックな場面、トラップのビートで歌う場面、弦が活躍する場面がありました。
過去のヒット曲を残しながら、声を支える編成を広げていたのです。
録音作品の変化は、昔の歌を捨てることではなく、いくつもの歌い方を一つのステージに持ち込む形にも表れています。

同じ2023年の「Tiny Desk Concert」では、「Sunflower」や「Circles」を、生楽器とコーラスを交えて披露しました。
ツアーとは別の小さな会場でも、過去の曲を、その時点の編成で届けています。

カントリーで、仲間と声を交わす

2024年の『F-1 Trillion』では、カントリー作品を作る長年の希望が形になります。
本人は、ナッシュヴィルで約半年にわたり、滞在を重ねて曲を書いたと説明しました。
最初は現地の録音の進め方が分からなかったものの、演奏家たちが提案に応えて音を変える現場に、大きな喜びを感じています。
新しい伴奏を選ぶだけでなく、その音楽を作る人たちと曲を育てる経験でした。

「I Had Some Help」ではモーガン・ウォーレン、「Guy For That」ではルーク・コムズと共演しています。
さらに、シエラ・フェレルとの「Never Love You Again」や、ソロの「Right About You」も収録されました。
大きなサビを共に歌う曲と、少ない音の中で一人の声を聴かせる曲を、一枚に持っています。

2026年のグラミー賞では、オジーへの追悼で「War Pigs」を歌いました。
ワット、スラッシュ、ダフ・マッケイガン、チャド・スミスとともに立った舞台は、カントリーへ進んだ後も、ロックを歌う道が続いていることを示しています。
ポストの歩みは、ひとつのジャンルから次へ完全に入れ替わるものではありません。
ギターを背にした歌、揺れる声、強く押し出す表現を持ちながら、それを生かせる曲と仲間を増やしてきたのです。
曲ごとの声の使い方は、ポスト・マローンの歌い方で掘り下げています。

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