2005年、代表作を録り直す際、アラニス・モリセットは声の変化を喜んでいました。
同じ曲への感情の向け方も、十年前とは違う。
その実感に至るまでと、その後の歌をたどります。
ポップ歌手の経験を、自分の言葉につなげるまで
1991年、カナダで発表した『Alanis』には「Too Hot」などのダンスポップが並んでいました。
続く1992年の『Now Is the Time』では「No Apologies」のようなバラードも取り上げています。
世界的な成功を収める前から、歌う仕事を積み重ねていた人です。
レコード契約がない時期に出会ったグレン・バラードとの制作では、誰かの注文を満たす必要もありませんでした。
バラードは、二人が何を作るかを自由に決められたと振り返っています。
曲を書き、その日のうちに歌ってみる。
出てきた声から曲を形にする関係が始まりました。
1995年、書いた直後の声が作品になる
『Jagged Little Pill』では、曲を書いた日のうちに声を録る方法が中心になりました。
バラードは「You Oughta Know」の歌を、一度のテイクで捉えたと振り返っています。
後から録り直すと自分の歌をまねているようになった、とアラニス自身も話しています。
完成形へ磨き直すことより、言葉が生まれた瞬間の切実さを残す。
その判断が、歌と告白の距離を縮めました。

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バラードによれば、レコード会社へ持ち込んだ際には、十分に磨かれていないという反応もありました。
転機は「Perfect」を聴いたマーヴェリックのガイ・オセアリーが、すぐに歌へ反応したことでした。
録り直さない選択も、すんなり受け入れられたわけではありません。
1998〜2002年、問いを自分へ向け、録音も自分で選ぶ
『Supposed Former Infatuation Junkie』の時期、アラニスは歌の視点の変化を説明しています。
以前は周囲の人や出来事へ反応する面が強かったのに対し、今度は自分の関わり方も引き受けたい。
「Are You Still Mad」も、相手を責めるだけの言葉として書いた曲ではありませんでした。
ツアー後、すぐに次の曲を書けたわけではなく、経験を整理する時間も必要だったといいます。
ここで起きたのは、怒りが消えて別人になったという変化ではありません。
感情を表へ出すことに、自分の側から関係を見直す問いが加わったのです。
2002年の『Under Rug Swept』では、自ら制作を指揮しました。
エンジニアのロブ・ジェイコブズによれば、バンドを録る段階で歌は大部分ができており、最初の歌唱が持つ感触を重視していたといいます。
共同制作者が変わっても、最初に出た声の勢いを大切にする姿勢は続いています。
一方で、その声を支える演奏を選び、作品全体を組み立てる裁量は広がっていました。
2005年、同じ曲を十年後の自分で歌う
『Jagged Little Pill Acoustic』では、バラードと再び組み、1995年の曲を録り直しました。
本人は、以前は届かなかった音にも届くようになったと話しています。
経験が同じ言葉に別の重みを与えたのです。
伴奏もアコースティック中心へ変わっています。
声と編曲、歌詞への距離がそれぞれ変わった録音であり、原版との違いを声域だけの話にはできません。
受け止め方も一様ではありませんでした。
当時の批評家ハンク・スチューヴァーは、再録を原版より抑えた表現として捉え、若い頃の切迫感との隔たりにも目を向けています。
本人にとって好ましい変化が、聴く人すべてに原版を超える変化となるわけではない。
この作品には、歌手が過去の自分をどう歌い直すかという面白さがあります。
重ねた声と、生活のそばで録る声
2008年の『Flavors of Entanglement』では、ガイ・シグスワースとの制作によって、電子音や重ねた歌声が大きな役割を持ちました。
当時の批評では、その声の層が音楽の広がりを作る点も取り上げられています。
一本の声の切迫感に加え、録音を組み合わせた表現へも目を向けると、この時期の作品がつながります。
2012年の『Havoc and Bright Lights』は、自宅の居間に作った録音環境から始まりました。
幼い子どものそばにいながら制作するためで、本人によれば歌の大半もそこで録っています。
「Guardian」は、子どもを守りたい気持ちと、自分にもそのいたわりを向ける必要を歌った曲でした。
声を録る場所が生活に近づき、歌で扱う関係も変わる。
その一方、音楽と言葉を同時に生み出す作り方は保たれました。
シグスワースの音に、ジョー・チッカレリが温かいロックの演奏を加えたことも、本人が重視した点です。

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2020年、強さの中に、支えを求める声を置く
『Such Pretty Forks in the Road』では、暮らしの変化や不調も歌の題材になりました。
「Smiling」には、外へ見せる笑顔と、内側で崩れていく感覚の隔たりがあります。
「Ablaze」は子どもたちへ残したい思いを込めた曲でした。
その時の難しさを歌にした作品です。
この時期、アラニスは年齢とともに狭くなると想像していた声域が、むしろ広がっていると話しています。
高い音だけでなく、低い音を探ることも面白い。
「Reasons I Drink」では、力強いサビから低い声へ落とす動きが、当時の批評で評価されました。
力強い高音だけでなく、低さも感情を運びます。
2022年の『The Storm Before the Calm』では、さらに歌声の役割が変わります。
瞑想のための長い音楽の中で、声は言葉を伴わず、楽器や電子音とともに空間を作るものにもなりました。
この作品の批評でも、言葉のない歌声が全体の音響の一部として捉えられています。
言いたいことを直接届けてきた歌手が、言葉を離れた声も作品にしているのです。
昔の歌を手放さず、今の自分で引き受ける
2024年、古い曲を歌う感覚について尋ねられたアラニスは、当時の価値観と今もつながっていると話しています。
人生の章は変わっても、中心にある自分は続いている。
そのうえで、今は共感や関係への余裕、見通しが増えたと説明しました。
昔の声へ戻ることと、昔の歌を歌い続けることは同じではありません。
歌詞に共感できる軸を残しながら、今の経験を持って向かい直す。
2005年の再録で語っていた考えが、長い活動の先にも続いています。
2024年放送の『Austin City Limits』でも、「You Oughta Know」の力強い歌唱と「Reasons I Drink」などの近作が同じステージに並びました。
声の切り替えや、曲の中で強さを選ぶ考え方は、アラニス・モリセットの歌い方で詳しく扱っています。
アイキャッチ:1995年の公演で歌うアラニス・モリセット/撮影:Al Seib/画像掲載元

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