Chageの高い声は、前へ出て歌う時にも、別の声と重なる時にも存在感があります。
けれど、いつも同じ強さで響かせている、と考えると、その工夫を見落としてしまいます。
音の高さ、メロディの役割、相手との距離。
曲の中で声をどう生かすかを、具体的な制作の話から見ていきましょう。
「恋人はワイン色」の高音は、もう一つの歌になる
西寺郷太は「恋人はワイン色」に長く親しんできましたが、実際にカバーを録音すると、Chageのハーモニーパートの高さに苦戦したと語っています。
鼻歌でなぞる時と、録音で一つの声として成立させる時では、難しさが違ったのです。
ASKAはこの曲の頃から、ハーモニーの一つひとつがメロディとして成り立つことを意識していたと話しています。
主旋律の上へ同じ形の線を足すだけではなく、重なる側にも歌としての流れを持たせる考え方です。
Chageの声を知るなら、この「重なる側の流れ」に耳を向けると面白くなります。
主旋律だけを追っていると、もう一方がどんな動きをしているかは意外に意識しません。
一度そちらを追ってから二人の歌へ戻ると、高い声が曲の表情を作る働きを捉えやすくなります。
高音の価値は、目立つ一音を出すことだけで決まらないのです。
「PRIDE」は、声が入る場所を絞って景色を変える
1989年の「PRIDE」では、Chageのハーモニーを、曲の後半のDメロに絞って入れる判断がありました。
ASKAは、ツアー中で録音時間にも限りがある中、そこで急に別の世界へ変える考えだったと振り返っています。
最初から二人の声を重ね続ける構成とは、声が加わる意味が違います。
一つの声を聴いていたところへ、もう一つの声が現れる。
歌う人数が増えるだけでなく、それまで聴いてきた時間との対比が生まれます。
Chageの声が持つ効果を考える時には、その声がある部分と、まだ入っていない部分を続けて捉えることも大切です。
高さを残したい理由は、曲の明るさにある
2019年の『feedback』で、Chageは「好きさ 好きさ 好きさ」と「悲しき願い」をつないだカバーを歌いました。
スタッフが高いキーを心配したところ、本人はすっと声が出たと振り返っています。
キーを下げると曲が暗くなると感じたことが、その高さを残す理由でした。
同作のカバーでは、子どもの頃にテレビの前で歌っていた感覚に戻れたといいます。
録音はおおむね二度ほどの歌唱でまとまり、自分で聴き返しても力が入っていなかったと話しています。
高い声を出すことと、力んで歌うことは、本人の中では同じではなかったのです。
その曲らしい気分を残そうとしたことが、この選択のポイントです。
高くすれば何でも明るくなるわけではありませんが、歌い手がキーを選ぶ時には、出せるかどうかに加え、その高さで言葉や曲調がどう感じられるかも関わります。
Chageの説明は、高音を楽曲の性格と結びつけて考える手がかりになります。

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声の強さを保ちながら、響かせ方を選ぶ
Chageは自身の歌い方を、速い球で勝負してきた投手が、コントロールを大切にするようになることにたとえています。
2018年には、全身で歌い、身体を鳴らしていく感覚や、そのために体幹を意識していることを話していました。
一方で、声は自分の財産であり、楽器のように大事にしているとも語っています。
生まれ持った喉の強さへの感謝とともに、年齢を重ねれば負担もかかるため、ケアを続ける意識を持っていました。
持ち味を生かすために、出せる声をどう制御するかも大切にする。
投手にたとえた説明からは、その意識が伝わってきます。
次に見るハーモニーの録音では、その調整が、マイクとの位置関係にも表れています。
よく通る声だから、壁へ向かって歌うこともある
2025年の「One Love ~二人だけの軌跡~」のコーラスでは、Chageと河野健太郎、三木だいすけが、立つ場所やマイクとの距離を変えながら声を重ねました。
Chageは自分の声がよく通るため、後ろを向いて壁へ歌うこともあったそうです。
よく通る声を持っているからこそ、合唱では周りとなじませる方法も考える。
声の厚みは、複数の人の歌と、録り方の工夫が合わさってできているのです。
「もうひとつのLOVE SONG」では、声が曲の遊びになる
2016年の「もうひとつのLOVE SONG」について、Chageはビートルズの「ツイスト・アンド・シャウト」をハーモニーのイメージにしたと説明しています。
途中のコーラスにもビートルズを意識した歌い方を取り入れ、楽しんで歌ったといいます。
好きな音楽は、声を重ねる発想にもつながっているのです。
Chageにとってビートルズは、制作で迷った時に、彼らならどうするだろうと考える存在でもありました。
主旋律の言葉を聞かせる声と、合いの手や短いコーラスとして入る声では、曲の中の役割が違います。
後者には、場面を切り替えたり、遊びを加えたりする働きもある。
ハーモニーの正確さだけでなく、声が入ることで曲の気分がどう動くかを見ると、Chageの歌への関わり方が立体的になります。

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相手と出会った時にしか生まれない響き
川島ケイジとの「夏の終りのハーモニー」は、ラジオのスタジオで即興的に一緒に歌ったことから、録音へつながった曲です。
選曲したのはChageでした。
それぞれ違う環境で歌ってきた二人の声が重なり、新しい響きが生まれたことに喜びを感じたといいます。
録音を振り返る言葉にも、ハーモニーができた瞬間の気持ちよさが出てきます。
自分の得意な声を披露するだけでなく、相手の声と一緒になった時に何が生まれるかを楽しんでいるのです。
高いメロディを担う時には曲の明るさを守り、声を重ねる時には相手との関係を整える。
そして、よく通る声だからこそ、前へ出す以外の方法も選ぶ。
Chageの歌い方を支えるのは、声の持ち味と、それを曲の中でどう働かせるかという判断の両方です。
主旋律の向こうで動く声や、短く加わるコーラスまで追うと、その判断を楽しむ入り口が増えていきます。
こうした歌への向き合い方の変化は、Chageの歌唱変遷でたどっています。







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