佐藤隆紀の声について考えるとき、大きな声量やロングトーンに目が向きます。
けれど本人が発声について語る言葉を追うと、力を加えること以上に、緩めることや、声の出し方を切り替えることが話題になります。
『レ・ミゼラブル』の高音で見つけた感覚と、『さくら(独唱)』で得意だったというファルセットの切り替え。
そこには、強く出せる声だけでは捉えきれない、佐藤の発声の手がかりがあります。
『彼を帰して』の高音|出せる声にも、さらに見直す余地があった
2019年の製作発表で佐藤が披露した『彼を帰して』は、本人も高いと感じていた曲です。
『レ・ミゼラブル』の初出演前のインタビューでは、もう一つの課題曲『独白』と比べると、こちらのほうが声をコントロールしやすいと話していました。
高音を含む曲だから、本人にとってすべての箇所が同じように難しかったということではありません。
一方で、バルジャンの歌を続ける中では、高音に不安を抱える時期もありました。
佐藤は以前、高音を出すには強く張る必要があると考えていたといいます。
その考えに、緩めて出すという別の感覚が加わりました。
きっかけは、2020年の『CHESS THE MUSICAL』で共演したルーク・ウォルシュの高音でした。
佐藤は、その感覚を手がかりにスタジオで発声を試し、2021年のバルジャンへ向けて調整しています。
本人の表現では、緩めながらも閉める場所を見つけた、というものです。
全体をただ脱力させるという説明ではなく、緩めることと、声を出すために保つ感覚を一緒に探していたことがうかがえます。
本人はその発声によって、高音が楽になり、声量も出せるようになったと語っています。
佐藤は、楽に歌えることと、十分な声を出せることが両立する感覚を得ています。
高音を聴く際にも、届いた音の高さだけでなく、その前後の言葉をどうつなげているかに目を向けると、曲としての歌い方を追いやすくなります。
この感覚を繰り返し試し、微調整して舞台に持っていったことで、歌っている最中の余裕も変わりました。
高音が楽になった分、芝居を深められるようになったという本人の話には、音を出すことと、言葉を届けることのつながりがあります。

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『独白』と『彼を帰して』|声に込める感情を、場面ごとに変える
二曲で違っていたのは、音域への対処だけではありません。
『独白』のオーディションでは、佐藤の優しさが歌に表れている一方、最初から改心した人物のように歌わないでほしい、と求められました。
虐げられ、周囲を敵だと思っているところから始まり、後半で気持ちが変わる。
その変化を、一曲の歌い方に入れる必要があったのです。
ところが、とげのある感情を意識すると、今度は楽譜の内容を正確に歌うことが難しくなりました。
佐藤は、音楽として歌い切ることと、人物の心情を表すことの両立を課題として挙げています。
最初から最後まで同じ美しい声で通すだけでは、その場面の変化を十分に表せないという難しさです。
一方、『彼を帰して』では、神の存在をはっきり感じ、そこへつながる意識で歌うように助言されました。
同じバルジャンの高音でも、怒りを抱えた言葉と、相手の命を願う祈りとでは、声に託す気持ちが違います。
誰に向かって何を伝えているのかが、歌の表情を考える出発点でした。
このオーディションでは、年長の人物らしく声を作っていたことにも助言がありました。
若いバルジャンでよいと言われ、無理に大人びた声を作るのをやめると、自然に自分を出せる感覚があったそうです。
役の状況を理解することと、自分の声の良さを生かすことを、同時に探っていました。
『さくら(独唱)』|ファルセットへ切り替えることが得意だった
佐藤の声を、強い声だけで捉えられない理由がもう一つあります。
高校時代によく歌った森山直太朗の『さくら(独唱)』について、本人は、ファルセットの切り替えが意外と得意で、よく歌えたと振り返っています。
ここで注目したいのは、高い音を出せたという話とは別に、声を切り替えることを挙げている点です。
同じ出し方で上まで歌い続けることだけが得意だったのではなく、ファルセットへ移る感覚にも、早くから手応えがあったのです。
この曲は、母が買ってきたCDを聴いたことから佐藤の愛唱曲になりました。
学校の音楽祭で全校生徒の前に立ち、大きな拍手を受けた曲でもあります。
声楽の勉強と並んで、ポップスを歌う楽しさにも、声の切り替えが結びついていました。
佐藤がこの曲の難しさとして触れたのは、ファルセットへの切り替えです。
聴くときも、声が切り替わる前後を続けて追うと、ひと続きのフレーズの中で声の出し方を選ぶ面白さがあります。
高い音に届くことに加えて、その途中で声をどうつなぐかにも、歌い手の得意な感覚が表れます。
ロングトーンと声量|伴奏や相手の声に合わせて、出す量を選ぶ
長く伸ばす声にも、佐藤の発声への関心が表れています。
本人は『オー・ソレ・ミオ』でロングトーンを歌うことに触れ、テレビで披露したGの音を、野口五郎が覚えていてくれたと話しています。
音の高さや長さまで気に留めてもらったことが、発声について語り合うきっかけになりました。
この曲は、LE VELVETSの2019年のコンサートツアーでも歌われています。
この曲を歌うLE VELVETSでは、複数の声が一つの曲を作ります。
本人はグループについて、旋律を分けて歌い、個人の色は弱まっても、複数人だから出せる音があると説明しています。
佐藤はデュエットについても、自分の声を聴かせようとするだけでは混ざりが悪くなるため、出したり引いたりするバランスを考えると語っています。
よく響く声を持っていることと、その声をいつも同じ量で出すことは、別の話なのです。
伴奏との関係にも、同じように調整があります。
ソロのオーケストラコンサートでは、壮大な音に負けまいと力を入れると、リハーサルで声が裏返ってしまったそうです。
そこでいつもどおり力を抜いて歌うと、オーケストラと合ってきたといいます。
繰り返し歌う中で、いかに力を抜いて歌えるかを意識することが、楽に歌う感覚につながりました。
響く声を作るために身につけた技術を、伴奏の大きさに合わせてさらに押し出すのではなく、その中に乗せていく感覚です。

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佐藤の発声には、高音で緩める感覚、ファルセットへ切り替える感覚、相手や伴奏に合わせて声を出し引きする感覚があります。
声量の大きさに加えて、その出し方を選べることにも歌の特徴がある。
本人の語る体感と曲を結びつけていくと、豊かな声をどう扱っているのかが見えてきます。







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