Journeyの「Open Arms」を聴いたあとで、スティーヴ・ペリーの2018年のソロ曲「No Erasin’」に進むと、声の質感の違いが気になります。
若い頃の明るく伸びる声に対して、復帰作には、ざらつきを含んだ声があります。
復帰作では、その質感も含めて、久しぶりに人と会う歌の気持ちが伝わってきます。
長く伸びる声の魅力に、年齢を重ねてからの歌い回しは、何を加えたのでしょうか。
初期のライブ、長い空白を経た復帰作、そして昔の曲を別の歌手と歌う近年の仕事へとたどってみましょう。
1981年|「Open Arms」は、ライブでも歌い方が育っていた
1977年にJourneyへ加わったペリーは、1981年の『Escape』で「Don’t Stop Believin’」「Who’s Crying Now」「Open Arms」などを歌いました。
「Open Arms」は、離れていた相手を迎え入れ、もう一度心を開こうとするバラードです。
大きく歌うサビだけでなく、そこへ向かう静かな歌にも、相手に気持ちを伝えようとする緊張があります。
この時期の声には、高い音へ伸びたときにも、旋律の流れを追いたくなる魅力があります。
一つの高音を単発で聴かせるより、そこへ向かう言葉と、そのあとに続く声までが一続きに聞こえる。
「Open Arms」は、その長い歌の線を味わいやすい曲です。
ただし、当時の歌い方も、レコードの完成と同時に固定されたわけではありません。
ペリーは2020年の取材で、『Escape』のスタジオ版とヒューストン公演の「Open Arms」を比べ、ライブでは声に粗さやソウルの感触が増していったと振り返っています。
客席の前で歌うことが、録音後にも曲を変えていったのです。
ペリーが振り返ったヒューストン公演も、アルバムと同じ1981年です。
スタジオで曲を完成させたあとに、客席の反応を受けながら歌った「Open Arms」が残っています。
若い時期の中でも、ペリーは同じ旋律の歌い方を動かしていました。
「Don’t Stop Believin’」では、この声の伸びが、曲の最後に置かれたサビまで聴き手を引っぱります。
高音と曲の構成の関係は、スティーヴ・ペリーの歌い方で、冒頭の若者の描写から順に詳しく扱っています。
ソロの歌を作り、やがて長い空白へ
1984年には、ソロ・アルバム『Street Talk』から「Oh Sherrie」や「Foolish Heart」が生まれます。
「Foolish Heart」では、恋愛のためらいを、親しみやすい旋律で聴かせています。
1994年には『For the Love of Strange Medicine』を発表し、その後はJourneyの1996年作『Trial by Fire』にも参加しています。
ソロ活動もJourneyでの録音も続けたのちに、長い空白がありました。
2018年の『Traces』は、前のソロ・アルバムから24年ぶりの作品です。
ペリーは後年、成功の中で録音とツアーを繰り返すうちに、音楽への情熱を見失ったと説明しています。
復帰に必要だったのは、また声を出すことだけでなく、自分が本当に歌いたいと感じる曲を持つことでもありました。

2018年の復帰には、恋人だったケリー・ナッシュとの約束も関わっています。
彼女が亡くなる前に、ペリーは、彼女を失っても再び人や音楽から離れて閉じこもらないと約束していました。
悲しみがなくなってから歌うのではなく、その悲しみを抱えたまま曲を作り、音楽へ戻っていったのです。
2018年|「No Erasin’」の声を、きれいに整えすぎなかった
『Traces』の「No Erasin’」は、久しぶりに再会する二人の歌です。
本人は、同窓会で会った昔の恋人同士という場面を説明する一方で、長く会っていなかった聴衆との再会にも重なると話しています。
歌の相手を恋人だと思っても、待っていたファンだと思っても、再び顔を合わせる気持ちが伝わる作りです。
復帰を知らせる曲に、勢いのあるロックを選んだところは、Journey時代からのペリーを感じさせます。
一方、声の表面には、若い頃の録音とは違う粗さがあります。
伸ばす声の中にざらつきが残ることで、久しぶりの再会を歌う言葉も、何も変わらず戻ってきたというより、時間を過ごした人の言葉として受け取れます。
ペリーは2020年のUltimate Classic Rockの取材で、この曲の歌には、初期のスケッチのような生々しさがあったと説明しています。
もっと完璧にしたい気持ちはあっても、整えれば感情まで強くなるとは限らない。
そう考え、粗さを残すことを選びました。
この選択を知ると、声のざらつきも、再会までの長い時間を感じさせるものとして聞こえてきます。
歌の二人には、別々に暮らしていた年月がある。
ペリーと聴衆にも、長く新しい歌を待った時間があります。
滑らかさだけでは測れない、復帰曲としての味わいです。
2020年|伴奏を減らすと、歌の近さも変わる
ペリーは2020年に『Traces(Alternate Versions & Sketches)』を発表し、復帰作の曲を、より少ない音で聴かせ直しました。
これは、すべての歌を一律に録り直した作品というより、曲ごとに録音や伴奏を選び直したものです。
以前のデモから歌を取り出した部分も、新しく歌った部分もありました。
たとえば「Most of All」の簡素な版では、ピアノやチェロとともに、歌が近くに感じられる形になっています。
大切な人を失った気持ちを扱う曲なので、伴奏が大きく盛り上がるのを待つより、言葉がどう続くかに耳が向きやすい。
強く張るところだけでなく、小さく歌うところも、曲の中心として聴きやすくなります。
録音済みの歌を使う部分でも、周りの音を減らせば、言葉の終わりや小さな揺れに気づきやすくなります。
ペリーは、歌の魅力をもっと前に出すために、伴奏のほうを変えることも選んでいました。
新旧の歌を比べるときには、声だけが違うのか、歌を囲む演奏も違うのかを見ると、変化の理由が分かりやすくなります。

2025年|「Faithfully」に、ウィリー・ネルソンの声が加わる
2025年には、ウィリー・ネルソンと「Faithfully」を歌い直しています。
Journeyが1983年に発表したこの曲は、ツアーで離れた場所にいる音楽家が、愛する相手への思いを歌うバラードです。
新しい版には、スティールギターやハーモニカも加わり、カントリーの響きが入っています。
ペリーはJourneyでこの曲を録った頃から、ネルソンにも合う歌だと感じていたと説明しています。
長年歌ってきた曲を、昔の自分にどこまで似せられるかという目的だけで再録したわけではありません。
別の声が加わることで、もともとの歌の中にあった、旅先から相手を思う気持ちを、別の歌い方でも聴けるようにしたのです。
ネルソンの言葉の間の取り方を、ペリーは特別なものとして挙げています。
二人の声を聴くときも、一つの言葉をいつ歌い始め、どれくらい伸ばすかに注目すると面白くなります。
言葉を少し待って歌う場合と、長く伸ばして歌う場合では、相手への呼びかけ方も違って聞こえます。
共演者の歌い方によって、よく知っている旋律にも別の表情が生まれます。
昔の声を残しながら、今の歌も作る
1981年の「Open Arms」には、明るく伸びる声と、ライブで育った歌い回しがありました。
2018年の「No Erasin’」では、粗さのある声を、その曲に合う感情として残しています。
2020年には伴奏を減らし、2025年には共演者の声を迎えて、歌の聴こえ方を変えました。
ペリーは、声が変わったあとも、その声をどう聴かせるかを選び続けています。
力強く歌うロック、伴奏の少ないバラード、別の歌手と歌う昔のヒット曲。
それぞれの曲で、今の声に似合う聴かせ方を探すところまで含めて、彼の歌声の変遷なのです。
こちらの記事もおすすめ






コメント