Machicoの歌い方|地声と裏声、言葉の響きで作る歌の勢い

Machico(2022年の「ENISHI」取材掲載写真) Machico
Machico(2022年の「ENISHI」取材掲載写真)

Machicoは、高い音を勢いよく歌うために、あえて裏声も交える。
「ワイルドカード」で本人が語ったこの選択は、力強さをどう作っているのかを考える手がかりになる。

さらに「ENISHI」では、言葉を柔らかくつなぎながら、リズムの引っかかりも残そうとした。
音を強く出す度合いに加え、声の種類や発音をどう選ぶかに、歌の工夫がある。

ワイルドカード — 『SOL』(2017年)・権利者提供音源

「TOMORROW」は最後のサビで地声の割合を増やす

2017年の「TOMORROW」で、Machicoは三つのサビに変化をつけようとした。
最後のサビは、はっきりした強さを出すため、地声の割合を多くして歌ったという。

同じ曲の中でも、サビに来るたび、すべてを同じ配分で歌うわけではない。
終盤にどんな声を増やすかまで考えて、盛り上がりを作っている。

また、録音ではリズムが前へ走りがちになり、つかむまで苦労したと話している。
低い部分も、疾走感が失われないよう何度も録り直した。
高い音にたどり着くまでの歌にも、曲の速度感を保つ仕事があった。

TOMORROW — 2017年発売・MV短縮版

「ワイルドカード」は裏声も勢いに変える

同じ2017年のアルバム『SOL』に入る「ワイルドカード」は、サビが高音から始まる曲だ。
この録音では、地声だけで歌い切ろうとせず、高い音に意識して裏声を交えたと本人は説明している。
その狙いが、歌い方でも勢いを出すことだった。

「TOMORROW」では最後のサビの地声を増やし、「ワイルドカード」では裏声も使う。
どちらも本人が、曲を前へ進めようとして選んだ歌い方だ。
地声の割合を増やすことと、裏声を使うことが、それぞれの曲で力強さにつながっている。

高い声をひとまとめにするより、どんな場面でどちらを使おうとしたのかを見ると、Machicoの選択が具体的になる。

「It’s so fine!」は、低い音にも挑む気持ちを乗せる

高い声をどう使うかに加え、低い音でどんな印象を作るかも考えている。
2020年のリアルサウンドの取材では、「It’s so fine!」のAメロを何度か歌い直したと話した。
本人は、声が高く、歌が暗くなりすぎないことを自分の強みと考える一方、低い音を出すことには苦手意識も持っていた。

この曲のAメロ前半では、挑戦的な感じを求められ、小生意気な表情を声に乗せたという。
低い音を出せたところで完成とせず、その音でどんな人物の態度を感じさせるかまで整えている。
同じ音域でも、優しく呼びかける声と、相手へ挑むような声では、曲への入り方は変わる。

同じ取材で話した「Happy Magic」は、気持ちの運びが異なる。
こちらは、うつむいたところから明るさへ向かう流れを、挿絵のある物語を朗読するような気持ちで歌い、全体に優しさを出そうとしたという。
どちらも前向きな印象の歌であっても、その明るさに至る道筋は同じではなかった。

Machico(2017年の『SOL』取材掲載写真)
Machico(2017年の『SOL』取材掲載写真)。
画像出典:画像掲載元

「ENISHI」は発音を柔らかくする場所を選ぶ

2022年にCDが発売された「ENISHI」では、別の難しさがあった。
壮大なバラードだが、Aメロの伴奏には音が少なく、本人はバックの音を聴きながらテンポを作るような感覚だったという。
最初は急いだ歌になり、この曲に合う落ち着いた進み方をつかむため、何度も録り直した。

柔らかく歌ううえでも課題があった。
Machicoは、バラードでも音を硬く発音しがちな癖があると話している。
そこで使ったのが、ガ行の子音を鼻へ響かせる鼻濁音と、通常の濁音の使い分けだった。

例えばBメロの二つの濁音は、最初だけを鼻濁音にした。
両方を同じように柔らかくすると、丸くなりすぎるためだという。
滑らかにつなぐ部分と、発音でリズムを感じさせる部分を、言葉の中で選び分けたのだ。

本人は、滑らかさとリズムの両立に苦戦したものの、ディレクターと歌を作ることで、自分だけでは見つけられなかった表現に出会えたと振り返っている。

ENISHI — 2021年先行配信・2022年CD発売・リリックビデオ

言葉を一つずつ聞かせる声と、吐息のある声

低い声の表現については、2016年の『Ambitious*』の取材にも具体的な話がある。
このアルバムでは、得意だと思っていた高音でも歌いづらい曲があり、自分の技術を見つめ直したと話していた。
声がもともと高いことと、どの曲でも思い通りに歌えることの違いを感じた録音だった。

マイナビニュースでMachicoは、「key of the future」では歌が流れてしまわないように考え、低く歌いながら、言葉を一つずつ大事にしたと説明していた。
メロディを滑らかにつなぐだけでなく、個々の言葉に気持ちを置くアプローチだった。

同じアルバムの「BRAND NEW WORLD~明日へのグラデーション~」では、吐息の感覚を大切にしたという。
Aメロ、Bメロ、サビで雰囲気が変わり、最初の怪しさから、光が差すような優しさへ向かう曲だった。
本人は、大人びた服を身につけているような気持ちで歌ったとも話している。

声に息を感じさせることも、その曲が求める人物像や空気感と結びついている。
「ENISHI」での子音の調整と合わせると、柔らかさには、言葉をつなぐ工夫も、声の質感を選ぶ工夫もあることが分かる。
どこを明瞭に聞かせ、どこに余韻を残すかを、曲ごとに探しているのである。

「World Is Mine!」は、可愛さと格好よさを一曲で使う

2023年の「World Is Mine!」では、力強く歌うこと自体が最優先の目標にはならなかった。
『王様戦隊キングオージャー』のイシャバーナのテーマソングで、Machicoはシリーズの先輩たちのようにパワフルに歌えるか、不安も感じていたという。
日本コロムビアの取材では、この曲は自分の持ち味を生かすことが大切だと伝えられ、自由に作品の世界を楽しもうと思ったと話している。

録音では、可愛い声と格好いい声の両方を意識した。
遊びのある部分と、きちんと締める部分を作り、その釣り合いを歌いながら保つことが難しかったという。
ヒメノ・ランの自由奔放さと、その奥の志の高さを思うと、一曲を可愛い調子だけで歌うわけにはいかなかったのだ。

声の勢いは、強さを増すことだけから生まれるわけではない。
高音の声の種類を選び、低音へ態度を乗せ、言葉の発音や吐息の印象を調整する。
Machicoの録音談には、曲に求められる表情から逆に考えて、声の使い方を決めていく面白さがある。

最後のサビに地声を増やす。
高音に裏声を交える。
二つの濁音の片方だけを柔らかくする。
Machicoが話す歌の工夫は、このように曲の中の小さな場所まで及んでいる。

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