スガシカオの歌声はどう変わった? 歌を主役にした転機と、15年後の「Progress」

2024年のスガシカオ シンガー
2024年のスガシカオ。撮影:筒井麻由/写真出典:anna

スガシカオは、デビュー20周年を迎えたあとで、歌が曲の主役になってきたと話しています。
「夜空ノムコウ」を書き、「Progress」を歌ってきた人が、そこから歌への意識を変えたというのです。

以前から歌を大切にしていたことと、歌を曲の中心に置くことは、本人の中では同じではありませんでした。
言葉、ギター、リズムと並ぶ一つの要素だった歌が、共演者との出会いや弾き語りを経て、曲全体を引っ張るものになる。

その変化がよく表れたのが、2021年に録り直した「Progress」です。
15年前と同じように歌おうとしても、昔の歌い方がしっくりこなかった。
長く歌ってきた本人にとっても、昔の録音をまねることが、納得できる歌につながるとは限りませんでした。

初期は、自分のリズムの中で歌っていた

1997年にデビューしたスガシカオは、初めから生のバンドの流れに自在に乗れていたわけではありません。
初期の作品では、自分の言葉に合うタイミングを細かく作れる、打ち込みのリズムを中心に使っていました。

変化を語っているのが、2000年の『4Flusher』の頃です。
他の人が作ったリズムでも、自分らしく歌えるようになった。
そこで、バンドのメンバーの発想を取り入れる余地が広がっていきます。

他の人の演奏が入れば、言葉を出すタイミングも、一人で作業していたときの予定どおりにはいきません。
そこで自分らしく歌えるようになることは、合わせる相手や伴奏を選べるようになることでもあったのでしょう。

2006年、「Progress」が歌い継ぐ曲になる

2006年には、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」の主題歌として、「Progress」が生まれました。
名義はスガシカオのソロではなく、武部聡志や小倉博和らと組んだkokuaです。

この曲は、番組を通して繰り返し聴かれ、その後のライブでも歌われていきます。
一度録音して完成した曲であると同時に、本人が何度も歌い直し、聴き手もそれぞれの経験と重ねる曲になりました。

だからといって、2006年から現在へ、ただ声が強くなっていったという話ではありません。
本人が、歌を曲の中でどう扱うかを考え直す転機は、さらにあとに訪れます。

2017年の共演で、歌手同士の違いに直面する

2021年のスガシカオ
2021年のスガシカオ。撮影:草場雄介/写真出典:音楽ナタリー

デビュー20周年の2017年に開いた「スガフェス!」では、佐野元春、大槻ケンヂ、Mr.Children、水樹奈々らと共演しました。
一緒に歌うと、相手が何を大切にして声を出しているのかが、間近で分かる。
本人は、刺激を受けるとともに、負けたくないという気持ちにもなったそうです。

続く2018年には、33公演に及ぶ弾き語りのツアーを経験します。
歌とギターを自分で担い、各地の客席と向き合う時間が続きました。

その後の2019年のアルバム『労働なんかしないで 光合成だけで生きたい』では、本人も、歌の位置づけが変わったと感じていました。
それまでは、歌も歌詞もギターもリズムも、曲を作る要素として並んでいた。
ここからは、歌を中心に曲を組み立てる感覚が強まったといいます。
楽器と声が合わさった全体の格好よさに加えて、歌そのものをどう聴かせるかが、以前より大きな課題になったのでしょう。

周囲の演奏家にも分かる変化だったそうです。
一人で歌う場数を増やしたことが、バンドと録音したときにも表れていたのでした。

2019年の作品では、通勤しながら音楽を聴く人など、受け取る相手を具体的に思い描いたことも語っています。
自分の作りたい音楽を作るだけでなく、その歌を誰がどんな毎日の中で聴くのかにも、意識が向いていきました。

2021年、昔の「Progress」を再現できなかった

2021年の『Sugarless III』では、kokuaのメンバーと「Progress」を録り直します。
ここで当初考えていたのは、大きく編曲を変えた新しいバージョンではありませんでした。
できるだけ15年前と同じ演奏、同じ歌に近づけようとしたのです。

ところが、昔の録音にあった少し心細そうな歌い方を再現してみると、うまく馴染まない。
何度も歌い、最終的には、今の自分の歌い方を受け入れることになりました。
音程や歌詞を知り尽くしていても、昔の自分に戻って歌うことは別の難しさがあったのです。

2006年版と2021年版は、同じ曲を同じバンドで録音した、15年を隔てた歌です。
本人の説明から分かるのは、昔の心細さを再現することより、今の自分に馴染む歌い方を選んだということです。

本人は、番組や被災地での演奏などを通じて、この曲が持つ意味が大きくなったことも話しています。
最初に曲を書いたときの思いだけではなく、歌ってきた場所や、そこで出会った人の記憶も加わっていたのでしょう。

昔の心細そうな歌声を好む人にも、新しい録音は、長く歌い続けてきた本人の変化を知る手がかりになります。
同じ言葉を歌っていても、2021年の本人がその言葉をどう受け止めているかは、2006年と同じではない。
録り直した「Progress」には、その時間の違いが残っています。

2024年から2026年、昔の仲間と今の音を作る

2024年のスガシカオ
2024年のスガシカオ。撮影:筒井麻由/写真出典:anna

2024年の『Acoustic Soul』では、バンドによる一発録りを中心とした作り方を選びました。
ここでいうアコースティックは、電気楽器を使わないという意味だけで捉えると、少し違います。
本人が重視したのは、コンピューターで細かく制御するより、人が一緒に演奏して音楽を作ることでした。

初期に、自分の言葉に合うリズムを一人で細かく作っていたことを思うと、面白い変化です。
歌のタイミングを自分で守るところから、演奏家同士で反応しながら歌うところへ、選べる方法が増えています。

そして2026年7月の『BEST SESSIONS!』では、初期を支えたThe Family Sugarと、昔の曲を新たに録音しました。
過去の音源を並べるベスト盤ではなく、13曲をスタジオで演奏し直した作品です。

本人によれば、当時のアレンジは、メンバーの体に残っていました。
一方で、音楽をどう聴かせるかという理解は、以前より深まっていたそうです。
慣れた曲を、慣れた仲間と演奏するからこそ、年月を経た今の変化も出てくるのでしょう。

2025年のライブを振り返ったファンの感想には、「サービス・クーポン」は昔の歌い方が好きだけれど、今の声とバンドの演奏には、体が動く強さを感じるというものもあります。
昔の声を好きなまま、今の演奏にも夢中になる。
過去の曲を歌い続けるスガシカオには、そんな楽しみ方もあるのでしょう。

歌を主役にしても、スガシカオらしさは続く

スガシカオの変化を追うと、声質が変わったという話だけでは足りないことが分かります。
自分のリズムで言葉を歌う。他人の演奏に乗る。共演者に刺激を受け、一人でも歌い続ける。
その経験が、歌を曲の中心に置く意識へつながっていきました。

そして、長く歌った「Progress」では、昔の歌い方を忠実に再現するより、今の自分として歌うことを選んだ。
その判断には、昔の録音を尊重しながらも、それだけを完成形にしない姿勢が表れています。

スガシカオらしい声がずっと続いているからこそ、同じ曲でも、何を強く伝えたいのかの違いが気になる。
年月を重ねた歌を聴く面白さは、そうした違いにもあるのでしょう。

言葉の細かなタイミングや、伴奏に合わせて声の鋭さを変える工夫は、スガシカオの歌い方で詳しく扱っています。

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