カイ・ハンセンは、自分で歌うことと、別のシンガーに歌を任せることの両方を選んできた人です。
初期HELLOWEENの鋭いシャウト、GAMMA RAYでの主唱復帰、複数の声を生かす再結成期、そして自分の声を中心に据えたソロ作品。
その歩みには、歌声の個性を残しながら、何をどこまで自分で担うかを考え直してきた過程があります。
1985〜1987年、鋭い声で出発し、ギターへ重心を移す
『Walls of Jericho』の「Ride the Sky」では、冒頭の高いシャウトがカイの歌を象徴しています。
滑らかさよりも切迫感を伴う鋭い声が、速い演奏と一緒に飛び出してくる。
後のミヒャエル・キスクとは違う、荒々しい声の個性が初期からありました。
ただ、バンドが次の段階へ進むとき、カイは歌い続ける道だけを選びませんでした。
キスクは加入前、カイが歌よりギターを弾きたがっていると聞かされたことを振り返っています。
カイ自身も、『Walls of Jericho』からさらに洗練された方向へ進もうとしていたと説明しました。
歌い手が変わることと、曲の可能性を広げることがつながっていたのです。
ここで大切なのは、歌を離れたことを、その声の価値がなくなったと捉えないことです。
作りたい音楽の中で、自分の声を前に出す役目と、ギターや作曲を担う役目を分けた。
後の活動でも、この二つの間を行き来する姿が見えてきます。
1995年、自分の声でGAMMA RAYの曲を届ける
GAMMA RAYではラルフ・シーパーズが初期の主唱を務め、その後カイが歌を引き継ぎました。
1995年の『Land of the Free』は、カイがリード・ヴォーカルを担った同バンド最初のアルバムです。
力強く個性的な声が、希望や前向きさを持つ楽曲と結びついた作品になりました。
当時のベーシスト、ヤン・ルバッハは、カイが自分の言葉を歌うときの気持ちや姿勢を重視していました。
リハーサルでの熱意と、本人にしかない個性があったからです。
声の滑らかさを別の歌手と競うより、作った人の思いが、そのまま歌の表情になることを仲間は評価していました。
初期HELLOWEENへそのまま戻ったわけではありません。
今度は自分が中心となって育てたバンドで、歌も引き受けたのです。
カイの声が、過去の懐かしい響きだけでなく、GAMMA RAYの曲を聴く入口になりました。
2000年代、自分の声でできることを見定める
2003年のライヴ盤『Skeletons in the Closet』を語る際、カイは以前の『Alive ’95』と比べ、演奏だけでなく自分の歌も違っていると話していました。
このツアーでも、「Lust for Life」は自分の声にあまり合わないと判断し、外しています。
過去の曲を引き継ぐときにも、歌える曲をただ増やすのではなく、声との相性を考えていました。
『Land of the Free II』期には、長く歌ったことで、自分の声で何ができ、何をするべきでないかがわかってきたと説明しています。
上達を特別な秘訣ひとつで語るのではなく、経験によって自分の声を知るようになったという答えでした。
「Empress」では、ドラマーのダン・ツィマーマンが持ち込んだ曲を皆で作り直し、最後に歌を詰めました。
歌詞の案を受け取ったカイがマイクを持つと、サビの言葉が自然に出てきたといいます。
声は完成した曲の上に載せるだけのものではなく、曲を仕上げる過程にも入り込んでいました。
主唱へ戻った時期から、自分の声の使いどころを判断する時期へ。
歌の持ち味を知ることが、曲を選ぶ場面にも、曲を作る場面にも生きるようになっています。

画像出典:画像掲載元
2015年、歌い続けるために声を分担する
2015年、GAMMA RAYはフランク・ベックを第二のリード・シンガーとして迎えます。
カイは、南米や日本を回った後に声の調子を崩していたことを明かしました。
自分の声に慣れたファンがどう受け止めるかという不安もありながら、分担へ踏み出しています。
バンド側の説明も、声の負担を減らすだけでは終わりませんでした。
歌を分ければ、カイがマイクの前から動き、ギターをより自由に弾ける。
さらに、新しい声が入ることで音楽の幅も広がる。
負担の調整と、ステージの楽しさを両立するための変更でした。
カイの声を残すために、カイだけが歌う形を変える。
この判断は、歌手としての存在を手放すこととは違います。
どの場面で自分の声を聴かせるかを選べるようにした、大きな転機でした。
2016年、異なる声との掛け合いを作品にする
ソロ企画HANSEN & FRIENDSの『XXX – Three Decades in Metal』では、曲ごとに異なる歌い手が加わりました。
「Making Headlines」ではトビアス・サメットと歌を交わし、「Left Behind」ではクレモンティーヌ・ドゥロネーの澄んだ声と組み合わさります。
力のある曲とバラードで、声の関係も変わる作品でした。
一人で全曲を押し切る代わりに、違う質感の声と並ぶことでカイの個性が見える。
GAMMA RAYでの実用的な分担とは別に、声の組み合わせそのものを楽しむ広がりも生まれています。
2017〜2025年、HELLOWEENの三つの声の一つへ
再び合流したHELLOWEENでは、キスク、アンディ・デリス、カイという三つの声が揃います。
2021年の「Skyfall」は、カイの作った大作を三人で歌う代表例です。
地球へ降り立った異星人と追跡劇を描く曲の中で、複数の声が物語を進めていきます。
2025年の「Giants on the Run」では、さらに具体的な共同作業がありました。
ドラマーのダニ・ルブレによると、アンディの曲へカイが新たなハーモニーの案を持ち込み、アンディがその部分をカイ自身に歌ってほしいと頼んだそうです。
展開が変わる箇所でリードを受け持つ役割が、制作のやり取りから生まれました。
カイは現在の歌唱分担について、複数の歌い方を試す曲もあり、曲に合う雰囲気を優先して皆で決めると説明しています。
自分に合う部分なら自分が歌う。
誰が一番多く歌うかより、曲のどこで声が生きるかを考える体制です。

画像出典:画像掲載元
2026年、今度は自分の声でソロ作を歌い通す
『Born With a Hammer』では、前のソロ作とは違う判断をしました。
自分の歌を入れたデモができた段階で客演を検討したものの、バンドの仲間から、カイの声で十分でありゲストは必要ないと言われたといいます。
異なる声を並べた2016年の作品から、自分の歌を中心に据える作品へ進みました。
その声を聴かせる場面も、高いシャウトだけではありません。
「Feeding the Beast」はピアノと歌による静かな導入から始まり、やがて重みのある演奏へ移ります。
アルバムの入口に穏やかな歌の時間を置くことで、荒々しい声の印象とは違う表情も示しています。
「Welcome to Life」にはパンクの勢いだけでなく、ゆったりした部分やレゲエの要素もあります。
カイは、いつもの自分の音だけではないことを示すために、この曲を先行して出したと説明しました。
自分らしさを保つことと、決まった曲調を繰り返すことを分けているのです。
一方で、カイは今も、歌とギターで二時間ずっとフロントを務めるのは負担が大きく、舞台では歌手を迎えてギターを弾きたいと話しています。
自分の声を使う経験は増えても、すべてを一人で背負いたいわけではありません。
録音とライヴ、それぞれに合う役割を考え続けています。
カイの歌声の変遷は、鋭さが弱まり、穏やかさに置き換わったという一本道ではありません。
自分の声を知り、歌う曲を選び、仲間と分担し、ときにはもう一度自分の歌を中心に戻す。
その選択を重ねたことで、初期の荒々しい声から始まった表現は、静かな歌や掛け合いまで受け持つようになりました。
曲ごとの声の選び方は、カイ・ハンセンの歌い方で掘り下げています。

こちらの記事もおすすめ

曲と仲間に合わせて声の出番を選ぶ、カイ・ハンセンの歌い方を掘り下げます。

ところが…

キスクとの共演で変わった、アンディ・デリスの歌の役割をたどります。



コメント