MINMIの歌い方|自分にも難しい「The Perfect Vision」を、客席へどう届けるのか

白い服と帽子を着用したMINMIの取材写真 MINMI
2024年のMINMI。撮影:石川真魚/出典:Mikiki

MINMIは2026年の取材で、自分はまず曲を作る人だと話しました。
歌の上手な人を思い浮かべて曲を書き、いざ自分が歌う段階で苦労することがある。
デビュー曲「The Perfect Vision」についても、歌うたびに難しさを感じているそうです。

それでもステージでは、自分が難しい歌を歌い切ることだけが仕事ではありません。
どこで客席の気持ちが動くか、みんなが声を出せるか、座ってじっくり聴きたいか。
MINMIの歌い方は、自作曲を歌う技量と、その場にいる人とのやり取りを一緒に考えるところに特徴があります。

作り手が書いた曲に、歌い手の自分が追いつく

「The Perfect Vision」は2002年に発表されたMINMIのデビュー曲です。
曲を作るときには、自分より歌の上手な人が歌う姿を思い描くといいます。
2026年の本人の説明では、その理想を歌い手として再現するのに苦労し、録音の場でも歌い方を考え込むことがあるといいます。

この難しさは、同じ曲を歌おうとしたシンガーソングライターの近藤夏子も語っています。
冒頭の英語に手間取り、早口で進む部分と高いキーが重なるところに驚いたそうです。
MINMI本人の悩みと、別の歌手が挑んだときの驚きは、同じ曲の別々の側面を照らします。
音や言葉の要求が多い曲を、自分で書いて、自分でステージへ持っていくのです。

デビュー前にはジャズのスタンダードを歌い、レゲエとヒップホップのクラブを行き来していました。
2003年の取材でも、一つのジャンルに収まらず、音楽的に自由でいたいと話しています。
作るときの自由さが、歌い手の自分には手強い曲も生んでいます。

初期の「強い自分」から、何を自分の言葉として歌うかを探した歩みは、MINMIの歌唱変遷の記事でたどれます。

「四季ノ唄」は、会えない寂しさだけを歌わない

歌をどんな表情で届けるかは、曲の中の人物をどう捉えるかにも関わります。
「四季ノ唄」について、MINMIは発売当時、会いたい人に会えない町娘の姿を思い描いたと説明していました。
ただし、その娘は暗く過ごすばかりではありません。
いつか会えると願いながら楽しく過ごし、着物で踊っている。
本人はこの曲を、そのイメージから作ったダンスチューンとして語っています。

会えない人への思いと、踊れる音楽であることが、同じ曲に入っています。
寂しい内容だから声も終始沈ませる、という一対一の対応では捉えられません。
言葉の切なさを追ったあと、歌のリズムへ耳を戻してみると、待ち続ける人物にも日々の動きがあることを感じ取りやすくなります。
MINMIの歌にある明るさは、歌詞の痛みを消すためだけのものではないのです。

イントロの歓声と、歌い終えた後の手応えは違う

有名な曲を持ってステージに立つと、イントロだけで客席から歓声が上がることがあります。
15周年の対談で、長くコーラスを務めるCHINOは「The Perfect Vision」が広まった実感を、まさにその反応から得たと話しました。

15周年の対談で笑い合うMINMIとCHINO
MINMIとCHINO。
15周年特集より/出典:MINMI公式サイト

一方でMINMIが覚えていたのは、発売前後に大阪のクラブで同じ曲を歌い、期待ほど反応を得られなかった夜でした。
CHINOが感じた「曲を知っている」という歓声と、ステージの前に立つMINMIが求めた手応えは、同じではなかったのでしょう。
本人はレゲエのイベントで自分の歌がどう受け止められているかを気にしていました。

この二人の記憶は、どちらかが間違っているわけではありません。
ヒットを知る人が増えることと、その日のパフォーマンスで客席を動かすことは別です。
「The Perfect Vision」を歌い続ける難しさは、言葉の速さや高さだけではなく、知っているはずの曲を今夜の歌にするところにもあります。

その後、MINMIは2014年の自身のブログで、ツアーで自分の歌を一緒に歌う人たちと出会い、歌う意味を教えられたと振り返っています。
声を返してもらうことは、盛り上がったかどうかを測るだけの反応ではありませんでした。
自分の作った言葉が、聴き手のものにもなっていると知る機会だったのです。
この経験を踏まえると、観客へ歌を渡す場面にも、単なる掛け声以上の意味が見えてきます。

「シャナナ☆」と「WINNER」では、客席も歌の続きを担う

2007年の「シャナナ☆」は、トリニダード・トバゴのカーニバルでの経験や、マシェル・モンターノとの制作から生まれました。
MINMIはソカという音楽の楽しみ方を日本へ持ち込み、タオルを回して体を動かす場を作っていきます。
曲をただ披露するのでなく、観客が参加できる形にするのも彼女の仕事です。

その考えがはっきり表れたのが、横浜F・マリノスの応援歌「WINNER」です。
依頼は「シャナナ☆」のようにみんなでタオルを回せる曲。
制作側から当時の流行に合う落ち着いたテンポの案が出たとき、MINMIは、スタジアムで歌う目的に合わないと反対しました。
ここで彼女が守ろうとしたのは、自分だけが気持ちよく歌う速さではなく、サポーターが一緒に盛り上がれる曲でした。

2018年の試合で披露すると、MINMIが歌い終えた後も、サポーターが同じフレーズを歌ってくれたそうです。
本人はその出来事を楽しかったと振り返っています。
デビュー曲でイントロの歓声を聞いたときとも違う、歌の続きを客席が受け取った瞬間でした。

着席の会場なら、盛り上がり方も変える

ただし、大勢で同じフレーズを歌う形が、MINMIのライブの唯一の答えではありません。
2018年のクラブ・レストラン公演では、食事をしながら座って聴く人たちに向けて、ピアノやベースを生かす編成を考えました。
野外フェスのように踊らせることを中心にせず、バラードをしっかり聴いてもらう時間も作ったと話しています。

初日の最初のステージを終えると、客席の反応を見て、次のステージでは数曲の選び方だけでなく、立つか座るか、登場するタイミングまで変えました。
曲目とステージでの姿勢だけでなく、客席がその歌をどう受け取る時間かまで調整していたのです。
スタジアムでフレーズを一緒に歌ってもらう判断と、着席の会場で静かに聴いてもらう判断は、同じ年のMINMIに共存していました。

黒い服でグラスを持って座るMINMI
2018年の取材写真/出典:Billboard JAPAN

MINMIの歌い方を一つの声色や高音の出し方で言い表すことはできません。
自分で作った難しい曲を歌い、聞き手が加われる余白を作り、その日の会場に合わせて歌の届け方を変える。
「The Perfect Vision」を書いた人と、ステージでそれを歌う人が同じだからこそ、歌の完成を客席の反応まで含めて考えているのです。

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