デビュー曲がヒットしたのに、歌っている本人は、ライブが盛り上がらなかったことを覚えている。
MINMIが「The Perfect Vision」について振り返った話には、そんな意外な食い違いがあります。
客席から「この曲を知っている」という歓声が上がることと、その人たちを夢中にさせることは、彼女にとって別の問題でした。
細かな言葉を次々に歌うデビュー曲から、タオルを回して楽しむ「シャナナ☆」、サッカースタジアムの応援歌まで。
MINMIの歌い方を考えるときには、本人の声と一緒に、客席の人たちがどう歌に加わるかにも目を向けたくなります。
同じステージにいても、ヒットの実感は違っていた
2002年に発表した「The Perfect Vision」は、MINMIの名前を広めたデビュー曲です。
ところが15周年の対談で、本人とコーラスのCHINOが語った思い出は、少し違っていました。

CHINOは、曲のイントロに歓声が上がるようになったことに、ヒットを実感していました。
一方、MINMIの記憶に残っていたのは、発売前後に大阪のクラブで歌ったとき、思うように盛り上がらなかったことでした。
これは、曲がどこでも受け入れられなかったという話ではありません。
CHINOは知られるようになった変化を見ていて、MINMIは、その日の自分の歌が客席をどれほど動かしたかを気にしていたのです。
有名な曲だから喜んでもらえることと、今日の歌で人を楽しませることは違う。
MINMIのライブへの厳しさは、すでにデビュー当時の悩みに表れていたのでしょう。
歌い切るのは難しい。でも、客席には楽しんでほしい
「The Perfect Vision」は、聴いて知っていることと、自分で歌えることの間にも距離がある曲です。
シンガーソングライターの近藤夏子は、この曲に憧れて練習した経験を語っています。
英語の出だしだけでなく、早口の部分やキーの高さにも苦戦し、ライブで歌うMINMIの力量に驚いたそうです。
短い間にたくさんの言葉を入れながら、高い音も歌う。
一か所だけ成功すればよいのではなく、その組み合わせを一曲の中で続けなければなりません。
MINMIの声に惹かれて同じように歌おうとした人が、そこで難しさに気づくのも納得できます。
ただし、歌手自身が難しいことをこなしているからといって、客席にも同じ難しさを求める必要はありません。
全部を歌えなくても、好きな部分で声を出したり、リズムに合わせて体を動かしたりできる。
歌手が一曲を歌い切る力と、客席の人が歌いたくなる工夫は、どちらもライブを支えます。
このあとMINMIがカーニバルやスタジアムへと活動を広げていくと、後者の大切さがさらによく見えてきます。
初めての海外ライブは、思っていたよりずっと大きかった
その客席との関係を、日本の外でも確かめる機会になったのが、2006年のトリニダードでの公演です。
きっかけは、前年に発表した「サマータイム!!」でした。
この曲で取り入れたソカは、カリブ海のトリニダード・トバゴで生まれ、カーニバルと深く結びついている音楽です。
ゆったり歌を聴く場所というより、大勢が踊って楽しむお祭りを思い浮かべると、MINMIが向かった先を想像しやすくなります。
「サマータイム!!」を気に入った現地の人気歌手、マシェル・モンターノが、彼女を招きました。
MINMIは当初、小さめの公演か、前座としての出演を想像していました。
ところが現地で分かったのは、約3万人が集まる大きな舞台で、出番も終盤だということ。
しかも、到着した翌日には歌わなければなりませんでした。
初めての海外公演であることは、客席には関係がない。
歓迎してくれた人たちに応えようと歌とMCを届けると、十分とは思えなかった英語でも、反応が返ってきたといいます。
彼女にとっては、慣れない言葉を使いながら、自分の歌が受け入れられているかを確かめる舞台でもありました。
日本でヒットしたという実績だけでは分からない手応えを、現地の人たちの反応から得たのです。
翌2007年には、マシェルと作った「シャナナ☆」へ進みます。
トリニダード・トバゴ版のMVには、その年の現地公演の映像が使われています。
日本の夏のライブを思い浮かべる曲が、海の向こうのカーニバルともつながっている。
この背景を知ると、MINMIが大勢に向かって歌い、客席も体を動かす光景を、曲の成り立ちから楽しめます。
流行のテンポより、スタジアムで何が起きるか
歌う場所から曲を考える姿勢は、2018年の「WINNER」にも表れています。
横浜F・マリノスの公式ハーフタイム応援ソングとして作った曲です。
依頼されたのは、「シャナナ☆」のように、みんなでタオルを回して楽しめる音楽でした。
ところが制作では、当時の流行を踏まえて、落ち着いたミディアムテンポの案が出ます。
MINMIはそれに反対しました。
スタジアムで歌うのに、その場のお客さんが盛り上がれることより、流行の音を優先するのか。
流行に合うかどうかより、歌ったときに客席で何が起きるかを、制作の段階から考えていました。
実際に披露すると、歌い終わったあとも、サポーターたちが同じフレーズを歌ってくれました。
MINMIの歌が終わっても、客席の歌は続いていたわけです。
デビュー曲の反応を気にしていた話と比べると、ここで彼女が喜んだ理由はよく分かります。
曲を知っているという歓声より、もっと直接的な形で、人が歌に参加してくれたのでした。
盛り上げることだけが、客席への応え方ではない

ただ、MINMIがどんな会場でも同じように人を踊らせようとするわけではありません。
同じ2018年、食事も楽しめるクラブ形式の会場では、野外フェスほど客席を踊らせることに重点を置かず、ピアノやベースを生かした演奏を考えていました。
スタジアムとは、そこで過ごしてほしい時間が違うからです。
MINMIの歌を、いつも大勢を盛り上げるためのものだと決めてしまうと、この違いは見えなくなります。
目の前の人が思いきり声を出すのを望んでいるのか、落ち着いて音楽を楽しむ時間なのか。
MINMIは、曲や演奏を考えるところから、歌を聴く人との関係を作っているのです。
デビュー12周年には、ツアー先の人たちが一緒に歌ってくれたことで、歌う意味をもらったと振り返っています。
最初から大きな客席を自在に操れた、という成功談ではありません。
手応えが分からない時期があり、歌ってくれる人たちに会うことで、自分の歌が届いていることを知っていったのでしょう。
「The Perfect Vision」の難しい言葉回しに驚く聴き方も、「シャナナ☆」で声を出して楽しむ聴き方もできます。
その両方を歌ってきたMINMIの魅力は、歌う力を見せることと、お客さん自身が楽しく歌える場を作ることを、同じステージで考えているところにあります。
デビュー曲のイントロに上がる歓声から、「WINNER」が終わったあとも続くサポーターの歌声へ。
MINMIが求めてきた手応えは、売れた枚数だけでは分からない、そうした客席の声の中にもあるのでしょう。






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