YONCE(Suchmos/Hedigan’s)の歌い方|なめらかな声には、似合う曲がまだある

パーカーとコートを着たYONCEのモノクロ写真 YONCE
2022年のYONCE。撮影:嶌村吉祥丸/出典:CINRA

YONCEの歌を聴いて、作曲家の冨田恵一が生かしたいと考えたのは、声のなめらかさでした。
ところが、そのために用意したのは、ゆったりと伸ばして歌う曲ではありません。
ラップのように、言葉と音の高さが細かく動いていく曲です。

Suchmosの「STAY TUNE」でYONCEを知った人にとって、ほかの音楽家との共演は、あの声を違う角度から楽しめる機会になります。
冨田は細かなリズムに、butajiは低い旋律に、YONCEの声が似合うと考えました。
その声を知る人が、どんな歌を歌ってほしいと思ったのか。
そこからたどると、YONCEの歌い方の魅力も具体的に見えてきます。

冨田ラボ「Radio体操ガール feat.YONCE」――『SUPERFINE』(2016年)のティーザー。

細かいリズムだからこそ、なめらかな声が欲しかった

「Radio体操ガール」では、ラップにある言葉の畳みかけ方を、冨田が音の高さやタイミングまで決めたメロディーに取り入れています。

こういう曲なら、一つひとつの音を強く区切って歌う人を選びそうにも思えます。
しかし冨田は、YONCEが音の出だしを強く打ち出しすぎず、なめらかに歌うところに注目しました。
畳みこむようなリズムに、あの感触を合わせたかったのです。

ここで分けて考えると分かりやすいのは、言葉を置くタイミングの細かさと、声を出すときの強さは、別のことだという点です。
短い間にたくさんの言葉が入るからといって、全部を強く押し出さなければならないわけではありません。
音の動きは細かいまま、歌声にはなめらかさを残す。
冨田がYONCEに期待したのは、その組み合わせでした。

しかも、曲を完成させてから歌い手を探したのではなく、YONCEに歌ってもらうことを決めて書いています。
曲に歌手を合わせるだけでなく、歌手の声に合わせて曲のほうを考えた共演でした。

自分で作ったメロディーから、あえて離れてみる

Suchmosでは、バンドで演奏しながらYONCEが思い浮かんだメロディーを当てていく、という作り方がありました。
その人が歌いたくなる旋律を、その人自身の声で形にする方法です。
「Radio体操ガール」は、そこへ別の作曲家が考えた細かな動きが入ってきます。

自分が歌いたくなる旋律を作る場合と比べれば、自由に決められる部分は少なくなります。
その注文の中で、作曲家が好きになった声の感触を残す。
「Radio体操ガール」には、自分で曲を作る歌手が、別の人の考えた歌に挑む面白さもあります。
Suchmosを聴いて好きになった声が、違う曲にも似合うと分かるのは、こういう共演の楽しさです。

「Mirage」は、低い声から考えられた

Mirage Collectiveの取材でSTUTSとbutajiとともに写るYONCE、左がYONCE
2022年、Mirage Collectiveの取材写真。左がYONCE。撮影:嶌村吉祥丸/出典:CINRA

2022年のドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』の主題歌「Mirage」では、また違う注文がありました。
STUTSがプロデュースし、メロディーを手がけたbutajiが聴かせたいと考えたのは、YONCEの低音の響きです。

歌手の見せ場というと、サビで高い音へ上がっていく場面を思い浮かべがちです。
butajiは、ドラマの終わりに流れる曲の落ち着いた雰囲気と、YONCEの声が生きる音域を合わせて考えました。
最初の案は、完成版よりサビも低かったといいます。
ドラマ側の要望も受けて形を変えていきますが、完成版のAメロにも低めの音域が残りました。

大切なのは、たまたま低い音が出てくる曲に呼ばれたのではないことです。
「この人の低い声を聴きたい」という意図が、メロディーになる前からありました。
「Mirage」を聴くときは、サビへ向かう途中も単なる準備として通り過ぎず、歌い始めの低い声を味わってみたくなります。

「Mirage」のバンド版には、butajiと長岡亮介がコーラスで参加しています。
YONCE自身、二人のコーラスと歌うことに安心感があったと話しました。
ひとりで前に出て全部を担うのではなく、周りの声も聞こえる中で主旋律を歌う。
主旋律だけを追う聴き方から少し広げて、二人の声が加わる場面にも耳を向けると、歌を支えるコーラスの役割にも興味が湧いてきます。

バンドに戻れば、仲間が歌を広げてくれる

円陣を組んで肩を寄せ合うHedigan’sのメンバー
2024年2月27日、Hedigan’sの渋谷公演。撮影:Takayuki Okada/出典:THE FIRST TIMES

こんなふうに別の音楽家の曲でも存在感を示すYONCEですが、ソロ活動について聞かれた際には、自信がないと話したことがあります。
続けて話したのは、曲作りで仲間に助けられていることでした。

Hedigan’sの初期には、ギターを弾いて思いついた歌をボイスメモに録音し、メンバーへ渡していました。
仲間が面白いと思えば、それを膨らませていく。
YONCEは、感覚で生まれたアイデアを整理してくれる人が必要だと説明しています。

最初から伴奏も構成も完成させて、その上に歌を乗せるとは限らない。
まだ形の定まらない歌を仲間に渡せば、自分ひとりでは決めなかった展開や演奏が加わる余地があります。
客演で他人のメロディーを受け取るときとは逆に、ここでは自分の歌をほかの人に広げてもらっているわけです。

ライブになっても、その関係は続きます。
Hedigan’sのメンバーは、会場やその日の調子で演奏が変わることを話し合い、YONCEも少しのテンポの違いで曲が変わると語っています。
録音通りに演奏するか、崩して演奏するか、どちらかに決めているわけではありません。
同じ曲でも、テンポが少し変われば、歌う言葉の間隔も変わります。
YONCEが面白がっているのは、そうした演奏の変化も含めたライブなのです。

2024年の「Warehouse Session」は、普段はライブ会場ではない倉庫に機材を持ち込んで演奏したものです。
響き方もいつものスタジオとは違う場所で、仲間の音を聴きながら歌う。
曲ごとに決められた歌い方だけでなく、その場で演奏に加わっているYONCEを見ることができます。

だから、YONCEの歌い方を一つの決まった型にまとめようとすると、面白い部分を取り逃がしてしまいます。
冨田が細かなリズムに合わせたかったなめらかさ、butajiがメロディーに生かしたかった低音、仲間の演奏とともに形が変わる歌。
どれも、YONCEの声を知るための具体的な手がかりです。

Suchmosの「STAY TUNE」が好きなら、そこから「Radio体操ガール」や「Mirage」へ進み、もう一度バンドの歌に戻ってみる。
同じ声なのに、曲を作る人や一緒に演奏する人が変わると、聴きたくなるところも変わってきます。
YONCEの声には、まだ似合う曲がありそうだと思わせる楽しさがあります。

今入れる? 近くで入りやすい飲食店がわかる混雑予報マップ

こちらの記事もおすすめ

コメント

タイトルとURLをコピーしました