リアーナの歌声の変遷|『ANTI』で問うた「歌い続けたい曲」

2014年11月、ワシントンD.C.で歌うリアーナ シンガー
写真:DoD News (EJ Hersom) / CC BY 2.0

数々のヒット曲を持ちながら、リアーナは2015年、昔の曲の中にはステージで歌いたくないものがあると話しました。曲が嫌いになったのではなく、今の自分にはしっくりこない。次は何年も歌い続けられる作品にしたい、という言葉です。

『ANTI』で初めて自分の声を見つけた、と考えると、この話は簡単です。しかし、デビュー時に最初のシングル選びに関わり、2007年には録る曲と共同制作者に口を出し、2010年には一曲ごとに違う物語を求めていたことが見えなくなります。変わったのは、急に歌えるようになったことでも、突然すべてを自分で決め始めたことでもありません。曲の中で担う役と、その曲を自分の声として歌い続けられるかを考える範囲が広がっていったのです。

2005年|「Pon de Replay」は、カリブからの入口

バルバドスで育ったリアーナは、母親がレゲエのクラブを営んでいたため、子どもの頃からその音楽に親しんでいました。アメリカの歌手をまねて歌う一方、詩を書き、後には歌詞も書き始めます。エヴァン・ロジャースとカール・スターケンと作ったデモには、踊れる「Pon de Replay」のほかに、バラードも入っていました。

2005年の本人取材によると、最初のシングルになりそうな曲はいくつもありましたが、夏の発売には「Pon de Replay」が合うと判断しました。クラブで音楽をかける相手に呼びかける曲は、初対面の聴き手へリアーナの出身地のリズムを伝える入口になりました。ただ、この一曲が彼女にできる歌の全てだったわけではありません。本人は後に、一発屋だと思われたことが悔しかったと振り返っています。

2006~07年|踊る歌からバラードへ、そして録る曲を選ぶ側へ

次のアルバム『A Girl Like Me』には「SOS」と「Unfaithful」が並びます。二曲のミックスを担当したフィル・タンは、「SOS」を打楽器と勢いから組み立てたのに対し、「Unfaithful」ではまずリアーナの歌、その後にピアノや弦楽器を整えたと説明しています。同じ初期のリアーナでも、声を置く場所が違ったのです。「踊れる曲から『ANTI』で初めてバラードに挑んだ」という説明は、ここですでに成り立ちません。

2007年の『Good Girl Gone Bad』は、声の出し方が突然別物になったというより、本人が作品を決める立場を広げた転機です。当時の取材でリアーナは、誰と仕事をし、どの曲を録るかについて、前作より発言できるようになったぶん重圧もあったと話しました。後年には、以前はイメージも音も十分に自分で動かせなかったと振り返り、このアルバムを大きな転機に挙げています。

「Umbrella」はその頃の代表曲ですが、これ一曲だけで「強い女の声」へ変身したわけでもありません。リアーナは新作の曲ごとに感じ方も伝えることも違うと、発売前から話していました。ダンス曲の力を借りながら、一種類の役柄に収まらないアルバムを作ろうとしていたのです。

2009年|暗い歌を、自分の話として録る

『Rated R』の録音は、リアーナ自身にとってそれまでとは違いました。2009年、本人は、以前は面白い題材や物語を考えていたが、この作品は自分の人生に深く関わると語っています。感情が強すぎてスタジオを出た日もあり、録音を始めるまで時間が必要だったそうです。

「Russian Roulette」の緊迫した物語を、現実の出来事と一対一に対応させる必要はありません。大切なのは、本人がこのアルバムで、楽しい設定を演じるときとは異なる気持ちで歌ったと明かしたことです。2011年には、『Good Girl Gone Bad』で創作の主導権を握り始め、『Rated R』で聴き手へもっと弱さを見せるようになった、と二つの作品を自分で区別しています。

2010~11年|『Loud』では一曲ごとに別の物語を持たせる

その次の『Loud』を「暗い作品の反動で、明るいダンスポップへ戻った」とだけ言うと、リアーナの選曲が見えません。本人は、テンポの速い曲と中くらいの速さの曲を混ぜ、各曲にそれぞれの題材、物語、見た目、音を持たせたいと話しました。アルバムを曲の寄せ集めにもしたくなかったのです。

「Only Girl (In the World)」はその華やかな側を示します。しかし同じアルバムの「California King Bed」は、隣にいるのに心が遠い恋人を描くバラードだと本人が紹介しました。『Loud』では、以前のような深刻な歌を捨てたのではなく、クラブに向けて歌う人物と、離れていく相手へ歌う人物を同じ作品に置いたのです。

続く『Talk That Talk』は、『Loud』のツアーをしながら制作されました。ボーカル・プロデューサーのクック・ハレルによると、公演後、深夜にスタジオへ入る日には、その時の声を見て負担の少ない低い音域から録ることもありました。「You Da One」の録音はパリで朝まで続き、二番目のサビの歌い回しを一度で決めた場面を、彼は覚えています。

これは「声が衰えた」という話ではありません。公演と録音が続く現場で、どういう順に声を残すかをスタッフと考えていた記録です。ハレルは、リアーナが信じられない曲にむやみに声を入れることはないとも語りました。後に『ANTI』で曲を厳しく選び直しますが、その前から彼女には選曲の物差しがあったのです。

2013年のDiamonds World Tourで歌うリアーナ
2013年のDiamonds World Tourで歌うリアーナ。写真:Joe Bielawa / CC BY 2.0

2015~16年|『ANTI』で、声をアルバムの入口に置く

2015年の「FourFiveSeconds」は、派手なダンス曲とは違う編成で歌った一曲です。ただし、翌年の『ANTI』には収録されていません。リアーナはそれ以前から『Unfaithful』や『California King Bed』も歌っています。このシングルだけを「生まれて初めて素の声を見せた瞬間」にする必要はないでしょう。

2016年、リアーナは『ANTI』について、これまでのポップの型に飽き、今の自分に正直な曲へ引かれたと話しました。数年前には『Loud』を「いつ聴いてもよい作品」にしたいと語っていた人です。『ANTI』で新たに加わったのは、どの曲なら将来の自分もステージで歌いたいかという、さらに長い時間の見方でした。

アルバムの一曲目は、SZAと歌う「Consideration」です。リアーナはこの曲の言葉を、自分のやり方で進むという意思表示のように説明しました。従来の大きなサビをまず聴かせるより、いま自分がどこへ向かうかを告げる曲で作品を開いたのです。

同じ作品の「Work」ではバルバドスにつながる話し方を、「Higher」では酔って相手へ電話を残す人物を選んでいます。言葉のつながりや声の荒さが、それぞれ一曲の中でどう意味を持つかはリアーナの歌い方で詳しく扱っています。ここで追いたいのは、違う人物を歌い分けてきたリアーナが、その多様さを自分の現在と合う一枚にまとめ直したことです。

2022~25年|映画の物語に合わせて、声の役を選ぶ

『ANTI』の後、久しぶりに発表したソロ曲は、ダンスフロア向けの復帰作ではありませんでした。映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の「Lift Me Up」です。作曲家ルドウィグ・ゴランソンと監督ライアン・クーグラーは、亡くなったチャドウィック・ボーズマンを思う映画の終わりに、子守歌のような曲を考えていました。テムズが制作に加わり、映画を見たリアーナも物語に強くつながりを感じたと、ゴランソンは振り返っています。

その最初の案を聴いたリアーナは、この曲の声になりたいと申し出たそうです。『ANTI』で「今の自分に正直な曲」を探した人が、ここでは自分以外の人たちの喪失と支え合いを語る作品を選びました。派手な復帰の演出よりも、映画に託された言葉を誰の声で届けるかが先にある歌です。

2025年には、声優としてスマーフェットを演じたアニメ映画『スマーフ』のために「Friend of Mine」を発表します。制作に加わったジョン・ベリオンは、仲間と楽しみながら作ったダンス曲が映画に使われたことに驚いたと話しました。追悼のための子守歌と、子ども向け映画のダンス曲。曲調は対照的でも、それぞれの映画の物語に合わせて届けられた歌です。

「Lift Me Up」と「Friend of Mine」を録音しただけで、声帯や音域が以前とどう変わったかは判断できません。それでも、2005年の「Pon de Replay」から続く選曲の変化はたどれます。最初は夏のクラブにふさわしい一曲を選び、次は自分が関わる曲や人物の幅を広げ、『ANTI』では将来も歌えるかを問い、映画の歌では物語にふさわしい声を引き受けました。

リアーナが変えてきたのは、歌の「持ち主」の決め方

リアーナの変遷を、ダンス曲からバラードへの一直線な移動として描くことはできません。2006年にすでに「Unfaithful」があり、2010年の『Loud』にも踊る曲と遠距離の恋を歌う曲が並んでいます。『ANTI』が重要なのは、新しい発声法を発明したからではなく、多くの役を歌えた人が、どの歌なら現在と未来の自分を代表できるかを選び直したからです。

その後の二つの映画曲も、『ANTI』の否定ではありません。自分の言葉として歌えるかを考えてきたリアーナが、今度は作品ごとに違う物語を託されることを選んだ。歌声の変遷は、音の高さだけでなく、その声を何に使うと決めたかにも表れています。

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