小山田壮平の歌い方|畳みかける声、柔らかな裏声、言葉を生かす間

2020年の取材記事に掲載された小山田壮平(写真:Shintaro Nakamura) シンガー
2020年の取材記事に掲載された小山田壮平(写真:Shintaro Nakamura)

小山田壮平の歌は、強く声を放つときにも、柔らかく旋律を運ぶときにも、言葉が人の気持ちに近いところにあります。
その特徴を考えるには、いつも同じ発声で歌っていると捉えるより、曲に応じて声の勢い、響き、時間の使い方を変えていることへ目を向けると分かりやすくなります。
弾き語り、ソロの録音、ALでの重唱には、それぞれ違う選択があります。

「革命」と「1984」で変える、強い声と柔らかな声

2023年、恵比寿The Garden Hallで弾き語りを披露した小山田壮平(写真:佐藤哲郎)
2023年、恵比寿The Garden Hallで弾き語りを披露した小山田壮平(写真:佐藤哲郎)。
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2022年12月1日のLINE CUBE SHIBUYA公演では、「革命」でギターをかき鳴らし、熱をこめてがなる歌を披露しました。
一方、「1984」のサビでは、裏声を使った柔らかな歌が届けられています。
同じ弾き語りのステージでも、声の質感は一様ではありません。

強さは、音の高さだけでは決まりません。
前へ押し出すような勢いを持たせるのか、軽やかな響きで旋律をつなぐのかによって、同じ歌い手でも言葉の表情は変わります。
ここで注目したいのは、高音が出るという能力より、その高さをどんな質感で届けているかです。

この公演の「遠くへ行きたい」や「16」には、つぶやくように内面を伝える歌もありました。
強い声、裏声、近くで話すような歌。
それらが、ギター一本の時間に異なる表情を作っています。

伴奏が少ないことは、歌をおとなしくする条件ではありません。
むしろ声の強さや柔らかさの違いが、曲ごとの輪郭を担います。
小山田の弾き語りを一つの静かな歌い方としてまとめると、この振れ幅を捉えにくくなります。

穏やかな声にも、言葉を届ける強さがある

2020年の「HIGH WAY」では、澄んだ穏やかな歌が中心にあります。
強い言葉を次々と放つときとは違い、柔らかな声の中でメロディーが流れていく歌です。

声を柔らかくすることは、気持ちまで弱くすることではありません。
音の輪郭を強く押し出さなくても、旋律を保ち、言葉を十分に届ける方法がある。
小山田の歌には、勢いで相手へ近づく親しさと、声を張りすぎずにそばへ置く親しさがあります。

2023年の弾き語りでも、冒頭の「君の愛する歌」にはくつろいだ雰囲気がありました。
終盤の「アルティッチョの夜」では、声が前へ迫るような激しさを帯びています。
一晩の中で柔らかさと熱量を使い分けるところにも、歌の幅が表れます。

音程を整えることと、気持ちを残すこと

ソロ作品の録音について、小山田は、音程がよくても気持ちが乗らず、気持ちが乗ると音程が合わない難しさを語っています。
後から音程を直した声にも、不自然さを感じたといいます。
どちらか一方を満たせばよい、という判断ではなかったのです。

音程は、旋律の中でどの高さを歌うかということ。
一方、気持ちの伝わり方には、言葉を出す勢い、音の長さ、前後の流れも関わります。
高さが整っていても、本人が届けたい表情まで揃ったとは限らない。
この二つを同時に求める姿勢が、自然な歌を録音に残す難しさにつながっています。

完成した歌の親しみやすさから、いつでも同じように歌える人だと想像しがちです。
けれど、その歌が選ばれるまでには、聴きやすさと生々しさを行き来する判断がある。
細かく整えられた音程だけでも、その場の勢いだけでも、本人の理想には届かないのです。

弾き語りでは、間とテンポも歌の一部になる

小山田は、独りで歌う面白さとして、途中でテンポを変えたり、間を取ったりできる自由を挙げています。
演奏を止める判断も、自分の歌の流れに沿ってできる。
声を楽器に合わせるだけでなく、その場の声に演奏を寄り添わせられる形です。

言葉を続けて運べば、気持ちがあふれてくるような勢いを作れます。
反対に、次の言葉まで時間を置けば、直前の一言が残る余地が生まれます。
声量を変えなくても、歌う時間の取り方で印象は動く。
弾き語りの自由は、音数の少なさより、この時間の扱いにあります。

2020年の京都音楽博覧会の配信公演では、岸田繁楽団と「ブレーメン」を歌っています。
管弦の演奏に合わせ、一音ずつを伸びやかに届ける歌唱でした。
同じ場の「1984」では、飾らない歌い方を保ちながら、声が管弦の響きと重なっています。

畳みかける速さだけが持ち味なら、こうした編成の中での違いは説明できません。
言葉を急ぐことも、一つの音を十分に響かせることもできる。
どれだけ声を出すかに加えて、その音をどれだけの時間、人に渡すかも、小山田の歌を形づくっています。

2026年、故郷の福岡について語った小山田壮平(写真:常盤響)
2026年、故郷の福岡について語った小山田壮平(写真:常盤響)。
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ギターを持つときと、歌だけに向き合うとき

本人によると、ギターを持つほうがリズムは取りやすい一方、難しいフレーズを弾くと歌への集中が分かれます。
ハンドマイクなら、より自由に歌えるとも話しています。

ALの2016年3月のライブでは、「リンリンリン」でギターを置き、仲間の演奏に合わせて歌っています。
弾き語りの自由と、演奏を任せる自由。
小山田は、その両方の場で歌を届けてきました。

ギターは歌を支える手掛かりにもなり、同時に別の動作を求めるものにもなる。
歌い手が何を手に持ち、どこまで演奏を担うかは、声を使う余裕にも関係します。
編成の違いを見ると、同じ声でも歌の運び方が変わる理由を考えやすくなります。

ALでは、一声の勢いを重なりの響きへ変える

ALの「ドリーマー」では、長澤知之が、一つの声を強く出す形より、複数の声が柔らかくまとまる響きを求めました。
小山田も、この曲の凝ったハーモニーや、「とびましょう」で三声を使う効果を語っています。

一人の声が旋律を引っ張るときは、その声の抑揚が中心になります。
複数の声が重なれば、それぞれの高さや質感の関係が、歌全体の表情になります。
一声で強さを示す方法と、声の組み合わせで広がりを作る方法は、別の選択です。

小山田の声を知るには、主旋律を歌うところだけでなく、他の声と同時に鳴るところも大切です。
ALの歌では、目立つ声の持ち主であることと、全体の響きを作る一人であることが両立しています。
独唱で伝わる切実さが、仲間との重なりによって別の親密さへ変わるのです。

歌い込むことで、その場の感情を呼び戻す

小山田は、曲を歌い込むことで出来のむらが小さくなり、書いたときの情熱がライブ中に戻ってくる瞬間があると話しています。
作曲時の気持ちを、毎回最初から同じように取り出せるわけではありません。
繰り返してきた歌の中で、気持ちと演奏が結びつく瞬間を探しているのです。

小山田壮平の歌い方を特徴づけるのは、勢いのある声だけでも、柔らかな裏声だけでもありません。
旋律と気持ちを両立させ、言葉の間を選び、独りで歌う自由と仲間へ任せる自由を使う。
その選択が、親しみやすくても一様にはならない歌を生んでいます。

andymori、AL、ソロで歌との向き合い方が変わってきた歩みは、小山田壮平の歌唱変遷でたどっています。

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