畠中祐は、力強く歌える声を持ちながら、あえて張らずに歌う面白さも深めてきました。
その歩みをたどると、自分に合う歌を探す段階から、声の表情を自分で選ぶ段階への変化が見えてきます。
ダンス曲、アニメの主題歌、別れのバラード。
違う世界へ踏み込むたびに、歌うときの力加減や、言葉を向ける相手も変わっていきました。
2017年、役の言葉を離れて自分の歌を探す
2017年7月、畠中は「STAND UP」でソロデビューしました。
幼いころからミュージカルの歌や父の聴く洋楽に親しみ、まず目指したのは、聴く人とビートを楽しめる歌でした。
一方、録音ではキャラクターソングとの違いを指摘されています。
役の心情を伝えるときのように、すべての言葉の意味を強く説明する必要はない。
本人名義での歌い方は、そこから探り始めることになりました。
声優として役を理解できることと、自分の歌の主人公になれることは、別の課題だったのです。
誰かの設定を借りず、自分はどんな時間を客席と過ごしたいのか。
歌とダンスを組み合わせた出発点には、そんな問いもありました。
翌2018年の「真夏BEAT」では、早くも歌の押し出し方が変わります。
「STAND UP」を全体にアタックをつけてまっすぐ歌う曲と振り返る一方、「真夏BEAT」のAメロでは、内側の高揚を残しながら余裕を持って歌っていました。
イベントや役の歌で経験を重ね、同じダンス音楽の中でも、まだ見せていない表情を試したくなった時期です。
明るい曲だからといって、最初から最後まで同じ強さで押す必要はない。
弾む気持ちを持ったまま、声の出し方には余地を残す。
後年の柔らかな歌へ向かう試みは、活動初期にも見つかります。
2019年、戦う声と、抑える声を同じ時期に試す
最初のアルバム「FIGHTER」では、悩みや周囲との衝突も作品の題材になりました。
リード曲「Fighting for…」は、それまでのポップなシングルから、より野性味のある力強い方向へ進んだ曲です。
自分に重なる歌詞だったため、録音でも自然に力が入ったといいます。
ここでは強さそのものが、当時の自分を表すために必要でした。
ところが、その年のアニメ主題歌「not GAME」では、歌い上げたい気持ちを抑えることが課題になります。
冒頭のラップから作品の緊張感を作り、主題歌らしく大きく盛り上げるという自分のイメージをいったん脇へ置く。
静かな歌い方を求められ、強く出せる声をどこまで抑えるかに苦労しました。

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同じ2019年に、力を前に出す歌と、その衝動を抑える歌が並びます。
この違いを単純な成長の順番にすると、曲ごとの要求が見えなくなります。
畠中の表現は、強い声を卒業することでなく、強く歌う場面を選べるようになることで広がっていたのです。
2020年、客席で得た喜びを「HISTORY」へ
2019年夏の初ワンマンライブは、次の作品の出発点になりました。
本番前には大きな不安があったものの、終演後には、それを上回る楽しさが残ったと畠中は振り返っています。
ファンの熱量やスタッフの支えを受け、また同じ人たちと新しい時間を作りたい。
その経験から生まれた2020年の「HISTORY」は、原点の爽やかさへ戻り、素直に楽しく歌えた曲でした。
後に畠中は、ライブを、完成したものを一方的に見せるだけの場所ではなく、歌う楽しさを客席と分かち合う場所と捉えています。
自分が届けたもの以上に、お客さんから受け取ったものが大きかった。
仕事として良いものを見せようとする責任感に、人と一緒に遊ぶ喜びが加わっていきました。
デビュー時にも、ビートを一緒に楽しみたいという願いはありました。
それが実際の客席との経験を通り、自分の歌へ戻ってきたのがこの時期です。
上手に見せようとする意識だけでなく、相手がいるから歌いたくなるという感覚が、次の曲を動かします。
2020〜2022年、自分の外にある物語と、内側の弱さへ
2020年の「DYING WISH」では、「憂国のモリアーティ」の登場人物になりきるのではなく、物語を語る側の距離を保ちました。
登場人物への共感があっても、その行動と自分を重ねきらない。
声優として出演する作品の役歌とは異なる立場で、作品に合う歌を探ったのです。
2021年の「TWISTED HEARTS」でも、その世界を表す難しさは続きました。
自分の中にない時代や正義の考え方を理解しようとしたことが、音楽の方向を広げたと畠中は語っています。
スタッフが提案する未知の曲を受け入れながら、それでも残る自分の癖を確かめていく。
歌える世界は増えても、自分の声を消すための挑戦ではありませんでした。
2022年のアルバム「REAL」では、前向きさも負の感情も、当時の自分として差し出しました。
収録曲「まだあなたを描いてる」は、プロデューサーと相談し、20代前半には歌えなかった別れの色合いへ挑んだ曲です。
年齢を重ねたことを経歴で示すよりも、以前は十分につかめなかった感情を、歌の題材にしていく選択でした。
一方、同作の「Feel the Real」は、強い主題歌群と並べられる力を持つ曲として作られました。
録音は難しかったものの、自分の思いと歌詞が重なるため、気持ちは乗せやすかったといいます。
強く訴える歌と、細やかな別れの歌が、一枚の中で共存するようになったのです。
2024年、肩の力を抜いた歌を自分で表題曲に選ぶ
2024年の「It's time to fly!」は、初めてセルフプロデュースしたシングルです。
30歳を迎える時期に、旅を主題として自ら表題曲の歌詞も書きました。
求めたのは、華々しく押し切る曲より、軽やかで肩の力を抜いて歌える曲。
届いた曲は想像以上に軽やかでしたが、だからこそ自分の考えた旅の感覚にも合っていました。
初期にも、曲に応じて力を抑える経験はありました。
ここで変わったのは、その表情を自ら作品の中心へ置いたことです。
頼まれた歌い方へ応える段階から、自分は今、こんな声の曲を届けたいと選ぶ段階へ。
新しい音色の獲得だけでなく、選び方にも変化が表れています。

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人と歌う楽しさを抱えて、次の節目へ
2025年には、山下大輝との作品「Share」へ進みました。
きっかけの一つは、前年の山下の公演で一緒に「Hello」を歌ったことです。
元々好きだった山下の音楽となら、自分がまだ触れていない方向にも進める。
畠中は、実際に二人で歌った楽しさと、新しい可能性への期待を語っています。
2026年10月には、2027年7月12日のデビュー10周年を節目に、ランティスでのアーティスト活動を一区切りとすることが発表されました。
10周年へ向けた企画は準備中です。
これはレーベルでの活動について示された今後の予定で、すでに歌手活動を終えたという発表ではありません。
力強さ、静けさ、親しみやすさ。
畠中祐が増やしてきたのは、それらを曲の中で選ぶ余地でした。
「Fighting for…」のように力を込めたい歌があり、「It's time to fly!」のように軽く運びたい歌もある。
初期から願っていた歌う楽しさを、より多くの声の形で人と分かち合えるようになったことが、この歩みの大きな変化です。
曲ごとの張りや裏声、言葉の扱いは、畠中祐の歌い方で掘り下げています。







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