ビッケブランカの歌声はどう変わった? 裏声の発見から「一人の声」、そして再び高音へ

2020年のインタビュー掲載写真のビッケブランカ シンガー
ビッケブランカ(2020年)。撮影:山崎玲士/音楽ナタリー

2024年の「High Love」で、ビッケブランカは曲のほぼ全編を高い裏声で歌った。
本人は、デビュー曲「Slave of Love」以来、ここまでファルセットを前面に出した曲は作っていなかったと話す。
しかもコーラスはすべて自宅で自分の声を重ねたという。
なぜ、かつての看板だった歌い方へ、もう一度戻ろうと思ったのだろう。

間にあるのは、ただ高音を磨き続けた年月ではない。
バラードの成功後にあえて別の顔を見せ、重ねていた主旋律を一本に絞り、ほかの歌手の声を迎えた曲もある。
2016年から2024年までの本人の言葉をたどると、声を増やすことと減らすことの両方が、彼の変化だったと分かる。

歌える音が足りず、作れる旋律も限られていた

始まりは、高い声を武器にしようという計画ではなかった。
ビッケブランカはデビュー前、地声が低く、歌える音域が狭いと感じていた。
自分で曲を書いても、頭に浮かんだ高い旋律を歌にできない。
声の問題は、そのまま作曲の問題になっていた。

当時の所属事務所の人から教えられたのが、MIKAの音楽だった。
彼のようにファルセットを使ってみると、以前は届かないと思っていた音にも声が届く。
後に本人は、作曲に使える「鍵盤の数が増えた」という趣旨でこの体験を振り返っている。
裏声は、出来上がった曲の高音を乗り切るためではなく、まだ作れなかった曲を生むための発見だった。

本人がこの発見をしたと振り返るのは23歳の頃だ。
それ以前にギター中心の制作からピアノへ移り、作曲の土台も変わっていたところへ、声の選択肢が増えた。
楽しくなってMIKAやクイーン、女性歌手の曲を日々裏声で歌ううちに、声も徐々に変わっていったという。
発見したその日に完成した看板ではなく、歌い続ける過程で育った声だった。

2016年のメジャーデビュー作『Slave of Love』では、その発見を隠さなかった。
表題曲は、本人が後年「ファルセットを振り切った」出発点として挙げる作品である。
低い地声だけで曲を作っていた頃から、高い声も自分の旋律に組み込めるようになったことが、最初の大きな転機だった。

帽子をかぶりインタビューに応じるビッケブランカ
メジャーデビュー時のインタビュー掲載写真(2016年)。
出典:MEETIA

「まっしろ」の次に、同じバラードを選ばなかった

裏声を生かした旋律は、彼の一つの顔として広まっていく。
2018年の「まっしろ」でビッケブランカを知った人もいるだろう。
本人は後に、この曲の次にもバラードを出せば、美しい旋律を歌うピアノマンとして信頼を得られたかもしれないと振り返っている。
それでも、2019年に選んだのは「Ca Va?」だった。

「Ca Va?」では、フランス語、日本語、英語が一曲に入り、地声と裏声を混ぜる歌い方を本人も楽しんでいた。
歌声の高さだけを聞かせる曲ではなく、声と言葉が次々と姿を変えること自体が曲の仕掛けになる。
本人が考えたのは、バラードの好評によって、ほかの表現を見せにくくなる可能性だった。
成功した歌い方を繰り返すより、別の選択肢を先に示したわけだ。

本人にとって意外だったのは、この曲へのライブの反応でもある。
「Ca Va?」を歌うと観客が一緒に盛り上がり、その構成だからこそ生まれる一体感を教えられたという。
形を変えていく曲は、聴く人が入りにくいどころか、声を返したくなる曲にもなった。
高い裏声を見つけた後の彼は、歌える音を増やすだけでなく、一曲の中で声をどう動かすかを広げていた。

ビッケブランカと佐藤千亜妃の対談
「Ca Va?」発表時の対談。
左からビッケブランカ、佐藤千亜妃(2019年)。
撮影:山川哲矢/CINRA

三本重ねていた歌を、2020年には一本にした

声を増やして作れるものを探してきた歌手が、今度は引き算を始める。
2020年のアルバム『Devil』について、ビッケブランカは、歌詞と旋律のために余分な音を減らしたと話した。
長く伸ばした声の最後で息が消える、その短い瞬間まで聞こえる余地を残したかったのだ。
一方、同じ時期の「Black Catcher」では凝ったロックのアレンジを作る欲求を表しているとも説明しており、派手な音楽を捨てたわけではない。

選択の違いが最も明瞭なのは、同年の「ミラージュ」だ。
ドラマ『竜の道 二つの顔の復讐者』から求められたのは、冒頭で強い印象を残す曲だった。
本人が共感したのは、復讐のために一線を越えてしまう主人公の極端さである。
サビの反復も、心地よく収まるところで止めず、しつこいと感じる直前まで押し進めたと話す。

その強さを出すために、必ずしも声を増やす必要はなかった。
それまでは主なボーカルを中央と左右に三本重ね、歌が降ってくるような音像を好んでいた。
だが「ミラージュ」では、歌が楽器の一部にならないよう、主となる声を中央の一本にしたという。
重ねる声で厚みを作れないぶん、旋律と歌そのものが曲を支えなければならない。
本人は、その条件を自分に課したと語っている。

しかもこの曲では、途中で転調して裏声に変わるような仕掛けより、主人公の感情が曲を動かすことを思い描いた。
どの声を、何本、どこに置けば歌の主役が立つのかを選び直したのである。
本人も、これは永久に静かな作風へ移るという宣言ではなく、音楽作りの「周期」かもしれないと話していた。

2022年、声を前に出す曲と、録音した声を変える曲

引き算は一曲で終わらなかった。
2022年のEP『United』に収めた「魔法のアト」は、ドラマ『個人差あります』の挿入歌である。
彼自身も歌手のチェルキー役で出演し、監督から聞いた役の葛藤に近いものを自分の中に探した。
誰かの設定を外から説明するのでなく、自分の言葉で歌えるところまで引き寄せたのだ。

その歌を届けるため、本人はピアノとコーラス、うっすらしたハーモニーに音を絞ったと説明する。
言葉と歌を前に出すための編成で、かつて多くの音を積んでいた自分とは逆の方向だった。
「ミラージュ」で一本の歌を立たせた考えが、別の曲でも生きている。

ただし同じ『United』に入った「Treasure」では、また違う選択をした。
こちらはドラマ『家電侍』側から、彼のアイデアを期待し、インパクトのある曲も歓迎すると伝えられていた。
家族への愛情を温かく、少しユーモラスに伝えるため、録音した歌声のピッチを上げる加工を試したという。
歌ってすぐに加工後の声を確かめながら進めたもので、完成した歌に後から思いつきで効果を足したわけではない。

これは本人が新たな高さを生声で出せるようになった、という話ではない。
声を一本に見せることも、録った声の姿を変えることも、曲が伝えたいものによって使い分けた。

2024年、「High Love」はデビューの再演ではない

そして『Knightclub』の「High Love」へ戻る。
ビッケブランカは、自分の特徴だったファルセットを、デビュー曲以来の強さで前面へ出そうとした。
本人によれば、歌の高さは自身のファルセットの限界にかなり近い。
歌詞で繰り返す「High」の高揚感に合わせ、歌もそこまで上げようと選んだという。

今回はコーラスを自宅で一人で録り重ね、ミックスにはABBAの「Dancing Queen」のような、厚く少し懐かしい質感を求めた。
2020年に中央の一本へ絞った声を、2024年には自分の声で幾重にも広げた。
同じ歌手による正反対の方法だが、目的に応じて声の置き方を決める点はつながっている。
「High Love」は最初の歌い方へ単純に戻った曲ではなく、その後に得た選択肢を持って、初期の魅力を再び選んだ曲なのだ。

同じアルバムの「Yomigaeri (with 槇原敬之 & 絢香)」では、自分の声を重ねる代わりに、二人の歌手の声を迎えた。
槇原敬之に二番を歌ってほしい姿を思い浮かべ、自分と槇原が歌い切ったところへ絢香の声が加わる場面まで想像したという。
相手にどこを歌ってほしいのかが明確になるまで曲を作ってから、二人に依頼した。
二人から届いた歌は、ニュアンスを残すために手を加えず使ったとも話している。
声を増やすにも、自分の声ですべてを埋める必要はない。

ビッケブランカの変化を「裏声がますます高くなった」とまとめると、大事な部分が抜け落ちる。
歌える旋律を増やすために見つけた裏声は、バラードだけにとどまらず、曲の中で地声と行き来し、ときには主役の座を一本の声へ譲った。
その経験を経て、2024年には高い裏声を自分で選び直し、別の曲ではほかの二人の声にも場所を作っている。
曲ごとにどの声を選び、どう使っているかは、ビッケブランカの歌い方の記事でも詳しく見ている。

シンガー人気投票。投票ページはこちら

こちらの記事もおすすめ

コメント

タイトルとURLをコピーしました