さとみ(元すとぷり)の歌唱変遷|歌える幅を広げ、その先で感情をむき出しにするまで

2026年の取材に掲載されたさとみ さとみ(元すとぷり)
2026年の取材に掲載されたさとみ

さとみの歌の歩みには、二つの変化があります。
以前は難しかった表現へ手が届くようになることと、上手に整える以外の歌い方を選べるようになることです。
その両方を考えると、昔の曲を歌い直す意味も、新しい曲へ挑む意味も見えてきます。

2026年10月18日にすとぷりを卒業し、その後はソロで新たな活動へ進むことが発表されました。
ここでは、グループでの録音と三つのソロ作品を軸に、そこへ至る歌唱表現の変化をたどります。

2019年、自分で完成させる歌から、一緒に作る歌へ

活動初期のさとみは、自分で録音し、自分でよしと判断する形で歌を作っていました。
2019年の『すとろべりーすたーと』では、その進め方が変わります。
メンバーと一緒に録音を作る面白さを知ったのです。
歌の選択を仲間と共有したのでした。

もともと芝居が好きで、活動を始めた頃には台詞を演じることもしていました。
同年のソロ作『Memories』では、その経験に加え、自分の人生の記憶を歌へ持ち込みます。
「恋をはじめよう」も、恋の明るさだけを歌うのではなく、以前の自分が感じた苦しさと、今の前向きな思いを重ねて歌った曲でした。
主人公の気持ちを自分から遠いものとして眺めず、内側から言葉にする出発点がここにあります。

ただし、当時から一種類の人物像で全曲を通したわけではありません。
『Memories』では、それまでに触れた気持ちを表すため、曲ごとに歌い方を変えたと本人は説明しています。
初期から、歌い分けを考えていたのです。

2020年、感情の経験だけでは足りない曲へ

2019年末のZepp Tokyoでは、ロック曲を続けて歌う勢いと、後半の切ない曲が同じ公演に収まっていました。
歌の表情を変えながら一人のステージを作る、初期の具体的な姿です。
冒頭の「Love Sick」「君しか愛せない」から、後半の「涙色」「Still Love」へ。
一つの感情だけで公演を押し通さない構成でした。

翌2020年、本人が新しい自分を表せたと挙げたのは、すとぷりの「Party Light」でした。
R&Bを取り入れたダンス曲で、それまで歌ったことのないリズムや曲調に不安もあったといいます。
好きな感情を込めるだけではなく、慣れない音楽の進み方へ自分の歌を合わせる課題が生まれています。

ソロでも、2022年の「感情色」では、梅とらによる速さのあるデジタルな音と、艶を帯びた歌声が組み合わされました。
親しみやすい恋の歌を届ける顔に加えて、刺激の強い音楽の中で色気を示す顔も、作品として積み重なっていきます。

2023年、英語の歌と録音の細部へ

2023年『Never End』初回限定フォトブック盤のさとみ
2023年『Never End』初回限定フォトブック盤のさとみ。
画像出典:画像掲載元

2023年の『Never End』には、初めて全編英語詞に挑んだ「Save you」が入りました。
本人は制作に際し、歌詞のニュアンスだけでなく、ドラムやギターの細部まで繰り返し確かめたと話しています。
歌声だけを取り出して完成を判断するのではなく、周りの音も含めて自分の表現を仕上げる取り組みでした。

歌う言語が変われば、言葉の意味をつかむことと、その言葉を音楽の時間の中へ置くことは別々の課題になります。
日本語で培った感情表現が、そのまま発音の問題まで解決してくれるわけではありません。
さとみの歩みも、得意な表現を守りながら、別の難しさを持つ曲へ進むものとして見ると分かりやすいでしょう。

2025年、「涙色」を歌い直して確かめた成長

『Never End』を活動の中で得たものを形にした作品とするなら、2025年の『S’s』は、人生や内面までさらに込めた作品だと本人は説明しました。
新曲を増やすだけでなく、過去の曲を今の実力で歌い直すことも、このアルバムの大切な役割になっています。

『S’s』には「涙色 2025ver.」が収められ、初回限定盤Bの別ディスクには、以前の曲を新しくアレンジした六曲も用意されました。
過去のレパートリーを、今の作品の一部として戻す構成です。

「涙色」の再録を振り返り、さとみは、以前は音域が狭く、用意されたキーを下げて歌う悔しさがあったと話しました。
今回の歌い直しでは、自分の成長を感じられたといいます。

ここで大切なのは、古い曲に現在の自分を向き合わせていることです。
新曲だけでは、曲そのものの違いと歌手の変化が重なって見えます。
昔から持っている曲へ戻れば、以前の自分が難しいと感じたことも含めて、歌を捉え直せます。
その意味で、この再録は懐かしさを届けるだけの企画ではなかったのでしょう。

きれいに歌うことだけを完成としなくなる

2025年「CURVE」MVの場面写真
2025年「CURVE」MVの場面写真。
画像出典:画像掲載元

同じ『S’s』の「CURVE」では、英語詞と繊細な裏声を組み合わせた表現へ進みました。
力のある声をさらに強くするだけでなく、声の質感を変えて別の色気を作る曲です。

一方、「青に染まる」では、きれいに整えることより、むき出しの感情をそのまま録音に残す方を選びました。
本人にとっても、初めて試す方向だったといいます。

歌えることが増えれば、毎回その技術を全部見せる必要はなくなります。
滑らかに仕上げる曲と、感情の強さを優先する曲を選び分けられるからです。
さとみの変化を、ただ歌が上達したという一方向の話にしないのは、この選択の広がりです。

昔の曲と新しい歌い方を、同じ舞台で届ける

2025年の横浜アリーナでは、二日間に四公演を行い、それぞれの曲順を本人が考えました。
過去のアルバム名を公演の題名に使ったのは、好きだった時期をリスナーが選べるようにするためでもありました。
昔の歌を置き去りにするのではなく、新しい表現と同じ場所へ持ち込んだのです。
アンコール以外で全公演に共通する曲は四曲だけという、大幅に内容を入れ替える試みでもありました。
一つの見せ方を繰り返すより、時期の違う作品をそれぞれの公演で引き受ける構成を選んでいます。

9月27日の昼公演では、「CURVE」の裏声やラップに加え、初期の「Still Love」では哀愁を、「約束」では温かさを届けました。
新曲で示した表現と、以前からの曲に合う表情が、一人の歌手の中で使い分けられています。

さらに「君のいる世界」では、初めてギターの弾き語りも披露しました。
大きなダンスを伴う曲と、自分で楽器を弾きながら歌う曲。
同じ公演の中で、その両方を担うようになったことも、表現する場の広がりです。
本人は、一公演を通してほぼ踊り続けられるようになったことにも成長を感じていました。
これは音域の変化とは別の、舞台で歌を届ける方法の変化です。

さとみの歌には、演じることから始まった感情への近さが残っています。
その上で、歌える音楽、声の質感、録音に残す感情の形を増やしてきました。
変わったのは、歌の気持ちを捨てて別人になることではなく、その気持ちを表す方法です。
曲ごとの声の選択は、さとみ(元すとぷり)の歌い方で詳しく取り上げています。

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