Cö shu Nieの中村未来は、自分の声を、息を多く含んだ声だと説明しています。
一方で、好きなのは重いギターが鳴る音楽でもある。
デスボイスを出せたら、そういうバンドをやりたかったと思うほどでした。
それでも中村は、声を別人のように変えることだけを目指してきたわけではありません。
激しく動く演奏に、自分の声をどう組み合わせるか。
歌うだけでなく、曲やアレンジも作る人だからこそ、その答えをバンド全体の音で考えてきました。
中村の歌い方の面白さは、繊細に聞こえる声で、激しさも表せるところにあります。
派手な演奏と、派手すぎない声
2018年の「asphyxia」は、アニメ『東京喰種トーキョーグール:re』のオープニングテーマとなった曲です。
原作者の石田スイから声をかけられ、中村は作品の気迫に見合うエネルギーを持った曲にしようと考えました。
細かく動く演奏と歌が一度に押し寄せる、Cö shu Nieの名刺のような曲です。
これほど激しい音楽なら、歌も強く張り上げないと負けてしまうように思えます。
ところが中村は2020年のインタビューで、自分の声が派手すぎないから、派手な曲にも合うのだと話しています。
演奏と同じ種類の強さを声にも求めるのではなく、曲全体で釣り合いを取るという考え方です。
この話を聞くと、歌と伴奏のどちらが強いか、という聴き方だけでは足りなくなります。
ベースやドラムが忙しく動く中に、違う質感の声があるからこそ、旋律を追いたくなる。
中村の説明を踏まえると、Cö shu Nieの歌は、演奏をさらに派手にする役目だけを担っているわけではないと考えられます。
2019年の『THE FIRST TAKE』で、中村は「asphyxia」をピアノ弾き語りにしています。
ピアノと声だけの編成になると、歌の旋律がどれだけ動いていたかを追いやすくなります。
バンドの迫力が好きな人にも、歌そのものの形が気になる演奏です。
覚えやすいのに、歌うと音がよく動く
Cö shu Nieでベースを弾く松本駿介は、中村の旋律を、覚えやすいのに実際に歌うとミュージカルのように音程が動く、と説明しています。
中村はディズニー音楽も好きで、その美しい旋律に惹かれているそうです。
「複雑な曲」と聞いて身構えても、歌のメロディーには親しめる。
その二つが同じ曲の中にあるのです。
ここでいう難しさは、高い音が出るかどうかだけではありません。
次の音へどう移り、言葉をどこで区切り、どこまでひと続きに歌うか。
音が細かく動く曲ほど、一音ずつを出せることと、旋律として歌えることの間に差が生まれます。
中村は、歌も楽器と同じ一つのパートとして考えていると話していました。
だから歌だけを伴奏から切り離すより、ベースの動きやドラムの区切りと合わせて聴くほうが、曲の面白さをつかみやすいのかもしれません。
中村自身が歌と楽器の各パートを考え、一曲の形を作っているからです。

昔の歌い方を、声色として覚えている
曲全体を作る中村は、自分の声も曲に合わせて選びます。
そのことがよく分かるのが、「フラッシュバック」の録り直しです。
松本が中村と出会った頃に聴いたデモでは、若々しく、激しい歌い方をしていました。
ところが、後にこの曲を録り直したときにも、中村は当時と同じような声で歌ったのだそうです。
松本はこの出来事から、若々しい歌い方も中村が使い分ける声色の一つで、その使い方まで覚えているのだと感じたそうです。
昔の録音で激しく歌っているからといって、その頃はどの曲でも同じ歌い方だったとは限らない。
新しい録音で柔らかく歌っているからといって、以前の声を使えなくなったとも限らない。
この出来事を知ると、年代だけで声の変化を説明する前に、その曲でどんな声を選んだのかを考えたくなります。
「asphyxia」で惹かれた人が別の曲で違う表情に出会っても、それは持ち味から離れたとは限りません。
中村の持ち味には、そもそも一つの声色に固定しないところがあるのです。
声を楽器として使っても、言葉は置き去りにしない
ただ、声を音の一部として考えることと、歌詞を大切にしないことは別です。
2022年のアルバム『Flos Ex Machina』では、死という喪失に直面したあと、現実をどう生きるかがテーマの一つになりました。
中村は、その思いを表すために、歌を言葉を伝えるものとして扱おうとしたと話しています。
そのアルバムに入った「迷路」は、Cö shu Nieの活動初期からライブで育ててきた曲でした。
中村は、つらい記憶を忘れたいと歌っていた部分を、記憶を抱えたまま進む言葉へと変えています。
忘れようと思っているうちは忘れられないのではないか。
そう考え、自分をごまかさずに歌える言葉を選び直したのです。
同じ曲を長く歌う間に、歌い手が言葉へ込める気持ちも変わる。
「フラッシュバック」が昔の声色を選び直す話なら、「迷路」は今の自分が歌う言葉を選び直す話です。
声の響きも、歌詞の意味も、その曲をどう届けたいかに応じて考えているのだと分かります。

重い音楽になっても、自分の声を生かす
その考え方は、2026年のアルバム『SATURATED (in monochrome)』にもつながります。
この作品では、低く重いギターの音や、体を揺らすリズムを重視しました。
中村が以前から好きだった、メタルの要素をさらに強く取り入れた作品です。
ここでも、自分の息を含んだ声をどう生かすかが問題になります。
激しい音楽にもう一つ違う要素が欲しいと考えた中村は、「Renegade」でKaz Skellingtonにラップを頼みました。
彼にはラップとメタルを組み合わせたバンドの経験があり、中村も以前からそのラップを知っていました。
自分だけで、歌の美しさも荒々しさもすべて受け持つ必要はない。
違う声が加われば、自分の声との違いも曲の表情になる。
「派手な曲と派手すぎない声」という発想が、ここでは共演者の選び方にも表れていると読めます。
中村未来の歌は、強い声を出して演奏に勝つことだけを目指していません。
音の動きに合う旋律を歌い、曲に合う声色を選び、必要なら別の歌い手の力も借りる。
息を含んだ声を弱点と決めず、その声でどんな曲を作れるかを考える。
そこに、歌手であり、曲全体を作る人でもある中村の面白さがあります。






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