ダニエル・パウターの歌い方|高い声の鋭さと、人に寄り添う歌の関係

2019年の東京公演で歌うダニエル・パウター(撮影:Masanori Naruse) シンガー
2019年の東京公演で歌うダニエル・パウター(撮影:Masanori Naruse)

ダニエル・パウターの高い声は、柔らかいだけの声ではありません。
その特徴が、なぜ「Bad Day」のような親しみやすい歌につながるのか。
高音の響き、旋律と言葉、共演での声の重ね方を分けて考えると、彼の歌い方が見えてきます。

ファルセットという説明だけで、声を決めない

初期のアルバム『Daniel Powter』では、ファルセットが目立つ特徴として論じられました。
裏声系の高い声を指す言葉ですが、その響きがいつも淡く、静かになるわけではありません。
批評家のジョナサン・キーフは、その多用や鋭さを好意的には捉えていませんでした。

一方、初期作品を評したジャーン・ウヘルスキーは、個性的で、ときに刺すような声と、抑えたピアノの組み合わせに注目しています。
「Free Loop」や「Jimmy Gets High」を、単に美しい声を聴かせる曲としては扱っていません。
傷ついた気持ちを隠し切らない声が、歌の人物を近く感じさせるという見方です。

同じ高い声でも、きれいさ、鋭さ、感情のにじみ方は別の特徴です。
高音を全部ひとまとめにして、柔らかな裏声だから優しく聞こえる、と説明してしまうと、この歌手の個性を捉え損ねます。
特定の高音を地声か裏声かに仕分ける以上に、その声をどんな歌の中へ置いているかが大切になります。

2019年東京公演(撮影:Masanori Naruse)
2019年東京公演(撮影:Masanori Naruse)。
画像出典:画像掲載元

「Bad Day」は、歌う旋律から言葉を選んだ

「Bad Day」を作ったとき、ダニエルには頭から離れない旋律がありました。
何度もそれを歌い、コードを付け、サビに曲名となる言葉を当てると自然にはまったといいます。
先に出来上がった文章を音符へ詰めたのではなく、歌っていた音の流れへ言葉を見つけていった曲です。

本人は後年、この歌で、うまくいかない自分を少しからかうように書いたとも振り返っています。
上から正しい答えを教える人として歌うのではなく、失敗する側にも自分がいる。
その距離感を知ると、明るい声と、弱音を含む歌の内容が別々には見えなくなります。

ピアノを基調にした中くらいの速さの曲に、手作りの感触がある音を残したことも、この歌を特徴づけています。
個性的な声が、身近な言葉を歌う。
歌詞の内容だけでなく、声と音の規模の組み合わせが親しみやすさにつながっています。

「Free Loop」の高い声は、優しい人物だけを歌わない

「Free Loop」のファルセットを、親しみのある魅力として捉えた批評もあります。
ただ、この曲の人物は、お互いの恋人に隠れて関係を持とうと相手を誘います。
ポップで覚えやすい歌と、身勝手さを含んだ言葉が重なっているのです。

「Bad Day」の印象から、彼の高い声を、傷ついた人を慰めるためだけの声と考えると、この曲は見落としやすくなります。
人を引きつける歌声で、立派とは言えない人物の言葉も歌う。
高音の魅力と、歌の人物への共感が、必ずしも同じ方向へ進まないことが、この曲の面白さです。

「Best Of Me」で、声の強さをどう受け取るか

「Best Of Me」を含む『Under The Radar』には、歌唱を以前より甲高くないと捉えた批評があります。
高い声を使わなくなったという意味ではなく、ファルセットを残しながら、曲の中での聞こえ方が変わったという評価です。

しかし、整った作品になれば、それで個性が強く伝わるとも限りません。
ジェローム・ブレイクニーは同作について、歌声自体を否定してはいないものの、磨かれたポップスの中で、際立つ特徴が伝わりにくいと批評しました。
声がきれいに出ていることと、歌い手が強く印象に残ることは、聴き手にとって別の問題だったのです。

舞台では、また別の表情が伝えられています。
2019年の東京公演で岡本貴之が描いた「Best Of Me」は、静かさと熱さが同時に感じられる歌でした。
同じ公演の「Jimmy Gets High」では、客席へ近づきながらも正確な音程と声を保つ姿を評価しています。
動きながら声を届ける場面と、メロディへ聴き手を集中させる場面。
高音の目立ち方だけでなく、歌ごとにどう聴かせるかを見ると、舞台の幅が分かります。

強い声を、相手の声と合わせる

2019年に「Survivor」を共演したReoNaは、ダニエルの高音を間近で聴き、体が鳴っているように感じたと話しました。
これは共演者の実感を表す言葉で、体のどの部分をどう使っているかという測定結果ではありません。
彼女が感じたのは、高さとともに、歌い手の体から伝わる力強さでした。

彼女は、初めての会場や共演に強く緊張していました。
そんな彼女にダニエルは、自分が引っ張るから楽しんで歌えばいいと伝えています。
ReoNaも、その言葉を受けて、胸を借りる気持ちで歌ったと振り返りました。

実際の「Survivor」では、二人が目を合わせ、互いに息を合わせてハーモニーを作っています。
相手が歌いやすい関係を作り、その声を聴きながら合わせることも、ダニエルの歌唱を支える力です。

2019年、ReoNaと共演(撮影:Masanori Naruse)
2019年、ReoNaと共演(撮影:Masanori Naruse)。
画像出典:画像掲載元

日本語でも声を届ける

平原綾香との「Save Your Life」は、二人とも日本語と英語で歌う曲です。
ダニエルも英語だけを担当するのではなく、日本語の歌唱に加わっています。
それぞれの言葉を担当して終わりにせず、相手の言語にも踏み込む組み合わせになりました。

制作時は同じスタジオにいたわけではありません。
ダニエルはロサンゼルス、平原は日本で録音を進め、画面越しにも顔を合わせていました。
一つの部屋で同時に歌わなくても、声を合わせた作品は作れる。
舞台の「Survivor」とは異なる条件で、二人の歌を一曲へまとめています。

こうした共演まで見ると、ダニエル・パウターの歌を、高音の出し方だけで説明しきれない理由が分かります。
鋭さを含む声で、身近な言葉を歌うこと。
一人で歌を運ぶ力を持ちながら、相手と声を合わせること。
「Bad Day」の親しみやすさと「Survivor」の共演は、その両方から考えると、同じ歌手の表現としてつながってきます。

時期を追った制作や表現の変化は、ダニエル・パウターの歌唱変遷でたどっています。

2026年11月のシンガー人気投票。投票期間は11月1日〜11月30日。11月の投票はこちら。

こちらの記事もおすすめ

コメント

タイトルとURLをコピーしました