ジェイソン・ムラーズの歌い方|柔らかな声は、どこまで表情を変えられるのか

ジェイソン・ムラーズ(撮影:Jen Rosenstein) シンガー
ジェイソン・ムラーズ(撮影:Jen Rosenstein)

ジェイソン・ムラーズは、柔らかな声を持つ人です。
サラ・バレリスから医師役の歌を頼まれたときには、自分の声は柔らかすぎないか、高すぎないかと心配したこともありました。

ところが、その柔らかな声は、曲の中で大きく表情を変えます。
具体例から、歌い方の幅を見ていきます。

「Mr. Curiosity」――いつもの声の先に、別の響きを置く

2005年の『Mr. A–Z』に入る「Mr. Curiosity」は、ムラーズの声を知るうえで外せない曲です。
終盤にはオペラを思わせる歌唱が現れ、普段のポップの歌から、響きの印象が大きく変わります。
その歌唱について尋ねられた本人も、いつか自分に合うブロードウェイ作品で歌いたいと答えていました。

「優しい声のシンガー」という印象だけでは、この演劇的な幅は見落としやすいでしょう。

言葉の意味より先に、口がリズムを探す

「The Dynamo of Volition」のような歌も、最初から文章として作るとは限りません。
ムラーズは、まず意味のない音節を口にしてリズムを作り、後からそこに聞こえる言葉を当てはめる方法を説明しています。
声を自分の第一の楽器と考え、楽器のフレーズのように使っているのです。
言葉になる前の声の動きが、歌の面白さにつながっています。

同じ曲でも、リズムが変われば、言葉の置き方を考え直せます。
ムラーズは「The Remedy」を遅い形やレゲエの形でも歌ってきたと話しています。
原盤の速さや伴奏を再現することより、その夜の演奏の中で、言葉を生きたものにすることを大切にしていたのです。

ギターを持つムラーズ
ギターを持つムラーズ。
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「Long Drive」――強さを、一人の大声で作らない

レイニング・ジェーンとの「Long Drive」では、ムラーズ本人が、自分たちの組み合わせのよさが最も伝わる曲の一つだと話しています。
自分と彼女たちの声、チェロ、ギター、モナ・タヴァコリの打楽器が合わさり、力と繊細さの両方が出るという説明でした。
ここでいう力強さは、一人が声量を上げることだけではありません。
複数の声がどんな楽器と並び、どんな流れを作るかによっても生まれるのです。

『YES!』の制作では、仲間が演奏とバックコーラスを作り、その上でムラーズが即興的に歌い始める時間がありました。
本人は、声を波に乗せるような感覚で説明しています。
伴奏を背景として眺めるのではなく、そこに生まれた動きへ声で参加する。
独唱の自由さが、共演者とのやり取りの中でも働いていたのです。

「Everywhere」には、脈打つようなバックコーラスと、複数の音節を使った言葉遊びがあります。
柔らかなハーモニーを中心にした作品でも、細かなリズムで歌う持ち味は残っています。
音を穏やかにまとめることと、声の動きを単調にすることは、別なのです。

『ウェイトレス』――高く柔らかな声を、人物の言葉にする

2015年にサラ・バレリスと歌った二つのデュエットには、異なる課題がありました。
「Bad Idea」と「You Matter to Me」。
本人は、二曲の違いを、一方は声の曲芸のような曲、他方はゆったりと広がるメロディの曲として説明しています。

声が柔らかいから、静かな曲だけが似合うと決まるわけではありません。
その声で軽快に動くことも、長い旋律を相手へ渡すこともできる。
サラから大丈夫だと背中を押されたことも、本人の喜びにつながりました。

2017年の舞台でムラーズが意識したのは、相手の言葉を毎回初めて聞いたように受け取ることでした。
歌手が知り尽くした曲でも、登場人物には初めての出来事です。
その難しさが、決まった歌を会話として成立させます。
自分のコンサートのように曲を自由に展開する場ではなく、相手役との関係から歌う気持ちを見つける場だったのです。

「Gratitude」――歌い終わりまで、決め切らない

2020年の「Gratitude」は、何年も完成形を探していた曲でした。
2010年に作り始め、その後も書き直したものの、本人は十分に仕上がったと感じられずにいました。
ところが、レゲエのバンドと演奏すると、曲がようやく形になったといいます。
終盤の歌は、録音するたびに違う言葉を即興で歌っていました。
一曲の中に、その場で思いつく声を置く余地を残していたのです。

レゲエを選んだ理由にも、歌と伴奏の関係が表れます。
本人は、各楽器が打楽器のような役割を持ち、遅い曲でも踊れることを魅力に挙げています。
テンポを上げて歌い急がなくても、演奏全体で身体が動く感覚を作れる。
「もっと盛り上げるには、声をもっと強く」という発想だけではないことが分かります。

2021年のムラーズ(撮影:Shervin Lainez)
2021年のムラーズ(撮影:Shervin Lainez)。
画像出典:画像掲載元

踊る作品でも、声の温度は一つではない

2023年の『Mystical Magical Rhythmical Radical Ride』でも、曲ごとの表情は異なります。
サラ・ヴァーショールは、滑らかで温かな歌声がダンスの音作りに合う一方、「Irony of Loneliness」では、ゆっくりした歌が傷つきやすさを伝えると評しました。
「Feel Good Too」のコーラスのハーモニーと、孤独を扱う曲の静けさ。
同じ作品の中でも、声を重ねて楽しさを広げる場面と、一人の思いへ近づく場面が並んでいます。

ムラーズにとって、明るい歌は、いつも明るい気分だから生まれるものではありません。
歌って自分へ言葉を返し、気持ちを立て直すためのものでもあります。
本人は、悲しい曲も作るものの、舞台では観客が前向きになれる時間を大切にしていると説明しています。
柔らかな声に乗る励ましは、悩みの外から与える言葉というより、自分にも聞かせている言葉なのです。

自由に聞こえる声にも、準備がある

2010年の取材で、ムラーズは日々のウォームアップを続けていると話しています。
一曲の中にも、公演全体にも、歌の種類の違いを持たせたい。
その考えには、学校の音楽の授業や、さまざまな曲を歌った経験がつながっていました。
自然に楽しんでいるように聞こえる歌を、準備のない歌と受け取る必要はありません。

2026年、「When We Die (You Are Loved)」について語ったときには、悲しみを抱え、息を吐く行為を通して思いを歌にする感覚も説明しています。
本人にとって声は、技巧を見せるものでもあり、言葉になりにくい気持ちを外へ出すものでもあるのです。

ジェイソン・ムラーズの歌い方を知るには、柔らかい音色という入口から、その声が何をしているかへ進むと面白くなります。
音節でリズムを作り、仲間の声へ混ざり、相手役の言葉に応じ、決め切らない歌い終わりを残す。
同じ声が、曲の中で別々の仕事をしている。
その選択の豊かさが、彼の歌を親しみやすく、同時に予想し切れないものにしています。

初期から近年までの変化は、ジェイソン・ムラーズの歌唱変遷でたどっています。

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