ジャスティン・ビーバーの歌声の変遷|少年の高い声から、柔らかく本音を歌う声へ

2010年、MTV Video Music Awardsでのジャスティン・ビーバー シンガー
Philip Nelson / CC BY-SA 2.0

ジャスティン・ビーバーは、声が大人になる前に世界的な人気を得ました。
「Baby」の明るく高い声を求める客席がある一方で、本人の声は日々変わっていく。歌手としての成長と、体の成長が、同じ速さで進むわけではありませんでした。

その後の歩みは、単に声が低くなったという話では終わりません。
「Boyfriend」での抑えた歌い出しと裏声、『Purpose』で主役になった柔らかな歌、2025年の『SWAG』で聞かせる親密な声。変わる声をどう自分の表現にしてきたかを、代表曲と制作時の話からたどります。

2010年――あの高い声を、ずっと同じようには出せなかった

2010年の『My World 2.0』に入っている「Baby」は、少年時代のジャスティンを象徴する曲です。
高く明るい声で、恋の動揺を歌う。短い言葉を繰り返すサビの印象が強い曲ですが、フレーズの終わりで細かく旋律を動かすところには、R&Bに親しんできた歌手の顔も見えます。

この声が広く知られたころ、本人は変声期の難しさにも直面していました。
指導していたジャン・スミスは、後年、2010年ごろの厳しいツアー日程の中で、ジャスティンの声が出にくくなっていった時期を振り返っています。声を守るため、公演を中止する判断も必要になりました。

客席が覚えている録音の声と、その日の本人が出せる声が、同じとは限らない。
一度発売された録音の声は変わらなくても、ツアーで歌う本人の声は変わっていきます。多くの人があの高い声を覚えている中で、歌い続けなければなりませんでした。

スミスが当時伝えたのは、変わりつつある声が、これからの本人の通常の声になるということでした。
少年の声を保つことにこだわるより、変化する声で歌っていく必要があったのです。

2011年4月、インドネシアのMy Worldツアーでのジャスティン・ビーバー
2011年4月、インドネシアのMy Worldツアーでのジャスティン・ビーバー。写真:adam sundana / CC BY-SA 2.0

2012年――低めの声と裏声を、同じ曲の中で使う

2012年の『Believe』から出た「Boyfriend」は、その変化を分かりやすく示す曲です。
「Baby」の明るく前に出る歌とは違い、歌い出しでは低めの声で、ささやくように言葉を刻みます。そのあとに高い裏声が来ることで、一曲の中に違う表情が生まれます。

先行シングルにこの曲を選んだ理由について、本人は、速い曲が多い中で、少しテンポを落としたかったと話していました。
大人になったことを、以前より激しい曲や大声で示す方法もあるでしょう。ジャスティンがここで選んだのは、抑えた声で近くに話しかけるような曲でした。

共同制作者のマイク・ポズナーも、その試みを歓迎しました。
当時の流行に合わせるだけでなく、ポップのあり方を少し動かす仕事をしたかった。その挑戦に、ジャスティンは応じてくれたと語っています。

声が変わっても、高い響きをすべて手放したわけではありません。
低めの声と軽い裏声の差を、曲の中で使えるようになった。その選び方が、「Baby」から「Boyfriend」への大きな違いです。

2015年――主旋律の声を、前よりはっきり聴かせる

『Purpose』では、声の選び方が、アルバム全体の制作方針にまでつながります。
エンジニアのクリス・オライアンは、以前の作品ほど背景の歌を多くせず、主旋律を歌う声を重視したと説明しています。ジャスティン自身も歌の作り方に関わり、自分が自然だと感じる歌唱を選んでいました。

ただし、歌を簡単に録ったという意味ではありません。
制作を支えたジョシュ・グドウィンによると、ジャスティンは、歌の出来を聴いて自分で判断し、何度も録り直していました。歌い終えたあとも、仕上がりを早く聴きたくて、連絡を重ねるほどだったといいます。

「Love Yourself」では、その声をギター中心の少ない伴奏で聴かせます。
少年時代の高音で押し出す印象から、落ち着いた声と言葉のタイミングで表情を作る歌へ。相手を突き放す内容を柔らかく歌う面白さは、ジャスティン・ビーバーの歌い方で詳しく扱っています。

同じ年の「Where Are Ü Now」では、声の一部を加工して、高い笛のような音にする試みもありました。
歌そのものを近くに聴かせることも、声を楽器のように扱うこともできる。『Purpose』の時期には、ジャスティンの声を生かす方法が、伴奏や編集も含めて広がっていたのです。

2025年――きらびやかな音の中でなくても、声が残る

2025年の『SWAG』で、ジャスティンは、ディジョンやMk.geeらとの制作へ進みます。
「DAISIES」は、その中でもギターと歌の存在が強く伝わる曲です。細かな語尾や柔らかな高い声に、相手への思いがこぼれるような歌い方が印象に残ります。

「Baby」と「DAISIES」は、どちらもスタジオ録音ですが、曲調と伴奏は大きく違います。
声の太さだけで比べるより、ジャスティンが言葉をどう歌っているかに注目すると、それぞれの曲で選んだ表現が分かりやすくなります。

「Baby」には、相手への気持ちを繰り返して訴える勢いがありました。
「DAISIES」では、柔らかい歌を保ちながら、言葉を詰めるところと、声を長めに残すところで表情を変えます。はっきり言い切る勢いに、不安やためらいも感じられる歌い回しが加わっています。

この時期の作品を、昔の少年歌手の声が単に落ち着いたものとして聴くと、その違いは見えにくいかもしれません。
相手へ近づきたい気持ちも、関係がうまくいかない不安も、強く押し出すばかりでなく歌える。その柔らかさが、今のジャスティンの表現になっています。

2015年11月、ローズモントのイベントでマイクを持つジャスティン・ビーバー
2015年11月、ローズモントのイベントでマイクを持つジャスティン・ビーバー。写真:Lou Stejskal / CC BY 2.0

変わる声を受け入れ、自分で歌い方を選ぶようになった

「Baby」の時期には、知られるようになった声そのものが変わっていく難しさがありました。
「Boyfriend」では低めの声と裏声を組み合わせ、『Purpose』では、歌の出来を自分でも判断しながら、主旋律の声を前へ出す録音に取り組みます。

その経験を経た「DAISIES」には、柔らかな声を、そのまま相手への思いや不安を伝える表現として聴かせる面白さがあります。
初期の声の明るさも魅力ですが、後年の歌には、力を込めるところと抑えるところを変えながら、言葉に細かな気持ちを乗せる魅力が増えました。

少年の高い声が、大人の低い声になった。
その一言では収まらないのは、ジャスティンが変化する声に合わせて、歌う音楽も、録音への関わり方も変えてきたからです。持っている声をどう聴かせるかを、自分で選ぶ歌手になっていったのでした。

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