2020年の『Plastic Hearts』は、マイリー・サイラスがロックの歌手としての存在感を示したアルバムです。
ところが2025年、本人はこの作品のボーカルの仕上がりに不満があると明かしました。
しかも、歌い直す必要はなく、録音後の処理を変えたいというのです。
『Plastic Hearts』に収録された「Angels Like You」は、その時期を代表する一曲です。
公式MVには翌2021年のステージ映像が使われています。
このアルバムの前後で、本人の声と、その声を作品に残す方法はどう変わってきたのでしょうか。
2013年――「Wrecking Ball」の歌より、映像が話題になった

マイリーの歌が、本人の意図したとおりに受け取られなかった経験は、もっと前にもあります。
2013年の「Wrecking Ball」です。
この曲は大きな成功を収めましたが、強い印象を残すMVも、歌と切り離せない話題になりました。
マイリーは2020年に振り返り、映像で行ったことに注目が集まり、曲に込めた痛みが見えにくくなったと話しています。
聴いてほしかった感情と、多くの人が話題にしたものが一致しなかったのです。
声を張る場面のあるバラードを歌っただけでは、その感情が必ず一番に届くとは限りません。
映像や歌手のイメージが強ければ、聴き手は先にそちらを意識します。
後年のマイリーが振り返ったのは、当時の歌唱をやり直したいということより、あの歌がどう受け止められたかという悔しさでした。
2020年――ロックへ進むことで、昔の自分を思い出した
『Plastic Hearts』では、ビリー・アイドルやジョーン・ジェットらとの共演も実現しました。
それまでのポップ作品からの転身に見えますが、本人にとっては、まったく知らなかった歌手像を作る作業ではありませんでした。
制作を共にしたアンドリュー・ワットについて、マイリーは、自分が忘れていた一面を思い出させてくれたと後年振り返っています。
前年の2019年には、声の手術も受けています。
その経験のあとに完成させたのが、このアルバムでした。
ただし、手術だけを新しい作風の理由にすることはできません。
どんな曲を作り、誰と演奏するかという本人の選択も、歌の印象に大きく関わっています。
この時期に変わったのは、どんな音楽の中に自分の歌を置くか、という選択でもありました。
「Angels Like You」のようなバラードを含め、力を出せる歌をアルバムにそろえたことが、ロック歌手としての印象につながっています。
2025年の告白――歌い直さずに、あのアルバムを変えたい
ところが2025年、本人は『Plastic Hearts』ではロックを目指したのに、声がポップ作品のように処理されたと振り返ります。
求めたのは歌の再録ではなく、残っている録音を使って仕上げ方を変えることでした。
この話を理解するには、歌手が歌った声と、アルバムで聴く声の間に、音を調整する工程があることを押さえておく必要があります。
歌った音程や言葉が同じでも、声をどの程度整えるか、伴奏とどう混ぜるかによって、完成した歌の印象は変わります。
昔の歌を歌い直せば、そこで聴くのは今の自分の声になります。
しかし、昔の録音の仕上げ方を変えるなら、その時期にしか残せなかった歌は保てます。
「歌い直さない」という希望に、当時の歌そのものへの信頼が表れているのです。
『Something Beautiful』で求めた、声の残し方
同じ2025年、マイリーは声帯にポリープがあり、歌う負担になっていることも明かしています。
それでも手術には慎重でした。
本人が心配したのは、手術後に、自分らしい声を失う可能性です。
彼女は声の特徴と歌う難しさの両方を意識しながら、その声で活動することを選んでいました。
その時期に作った『Something Beautiful』では、ショーン・エヴェレットが制作の中心を担います。
マイリーは新作の歌声について、声に何を加えたかより、何をしなかったかを評価しました。
これは、マイクの前で歌えばそのまま完成する、という意味ではありません。
同作の「End of the World」の制作では、生演奏やテープ録音、さまざまな機材による音作りを組み合わせています。
手間をかけて作品を作ることと、声の特徴を必要以上に変えないことは、別々に選べるのです。
アルバムに先がけて発表されたバラード「More to Lose」も、この時期の歌声を収めています。
2013年には、歌の感情よりも映像が注目されたことへの思いがありました。
2020年のロック作品を経て、2025年には、自分の声の特徴をどこまで保って作品にするかが、よりはっきりした関心になっています。
マイリーの歌声の変化は、若いころより低くなった、ロックが似合うようになった、という説明だけでは追い切れません。
声を使う負担に向き合いながら、録音に残った歌のどこを大切にしたいかも、自分で選ぶようになってきたのです。
低い声を生かす曲選びや、「Flowers」で歌の気持ちを変えていった過程については、マイリー・サイラスの歌い方でも扱っています。
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