松本梨香の「めざせポケモンマスター」は、歌手の歌をじっと聴くより、こちらも声を出したくなる歌です。
アニメ『ポケットモンスター』のサトシの声を知っているから懐かしい。それだけでなく、言葉がはっきり届き、掛け声を返す場所もわかる。歌の中に、聴き手が加われる楽しさがあります。
本人は、ポケモンの歌では子どもたちと一緒に歌えることを大切にしていると話しています。
あの力強さは、一人で客席を圧倒するためだけのものではありません。子どもを誘い、大人も巻き込み、同じ歌を楽しむための力強さです。
2023年の「THE FIRST TAKE」で歌った「めざせポケモンマスター -with my friends-」にも、その考え方がよく合います。
子どもが一緒に歌えるよう、言葉をはっきり伝える
松本梨香といえば、まず大きな声や、勢いのある掛け声が浮かぶかもしれません。
しかし、本人がポケモンの歌について説明するとき、元気よく歌うことと一緒に挙げるのが、歌詞の伝わりやすさです。
2012年のインタビューでは、子どもたちと一緒に歌えるよう、滑舌を意識していると話していました。
格好よく歌えても、歌詞に込められたことが届かなければ意味がない。だから、言葉をきちんとメロディに乗せるのだといいます。
この話を踏まえると、「めざせポケモンマスター」の楽しさを、声量だけでは説明できないことがわかります。
子どもが歌を覚えるとき、頼りにするのは歌詞カードばかりではありません。テレビから聞こえる声をまねし、聞き取れた言葉を少しずつ自分でも歌っていきます。
歌の勢いがあっても、何と言っているのかわからなければ、一緒に歌うのは難しくなる。
松本の明瞭な言葉は、聴き手が歌に加わるための助けにもなるのです。
録音のときにも、目の前に子どもたちがいて、一緒に歌っているところを思い浮かべるそうです。
その姿を想像しているうちに、感動して泣きそうになることもあると明かしていました。
録音でも、ただ正確に歌い切ることだけに集中するのではなく、聴く人の反応まで思い浮かべている。その意識が、呼びかけるような歌の勢いにつながっているのでしょう。

「子どもたちのリーダー」は、自分も元気をもらう
2023年のインタビューで、松本は「めざせポケモンマスター」を歌うとき、子どもたちのリーダーのつもりでいると話しています。
ただし、歌手が元気を与え、聴き手が受け取るだけの関係ではありません。この曲には、自分自身も励まされるのだそうです。
「THE FIRST TAKE」の歌唱には、バンドにエレキバイオリンやコーラスを加えた特別な編成が使われました。
主役の歌声の周りに、楽器と人の声が集まっている。曲名の「with my friends」という言葉にも似合う形です。
松本はこの収録を振り返り、いろいろな思いがよみがえり、最後には楽しかったという言葉が出たと話しています。
この時期、テレビアニメではサトシとピカチュウを主人公とする物語が区切りを迎えていました。
子どもの頃に見ていた人にとっては、歌声と一緒に当時の記憶も戻ってくるでしょう。
それでも、松本自身が語っているのは、昔を懐かしむことだけではありません。聴いた人に、新しいことへ踏み出してほしいという願いです。
そもそも、大人がこの歌で夢中になるのは、2023年に始まったことではありませんでした。
2012年にも、イベントで「めざせポケモンマスター」を歌うと、子ども以上にはしゃぐお母さんがいてうれしいと話しています。
同じ曲を知っている親子が、同じ場所で声を出せる。松本が録音のときから思い描いていた「一緒に歌う」という楽しみは、聴き手が大人になってからも続いています。
「Alive A life」では、声の強さが頼もしさになる
その力強い声が、別の格好よさを見せるのが「Alive A life」です。
2002年の『仮面ライダー龍騎』の主題歌で、エイベックスは当時、松本にとっての新境地となるダンスロックの曲として紹介していました。
「めざせポケモンマスター」のにぎやかな掛け声を期待して聴くと、この曲では印象が変わります。
「めざせポケモンマスター」が仲間との冒険を描くのに対し、「Alive A life」は、迷いながらも自分で道を選び、進もうとする歌です。声の強さが、遊びや冒険の楽しさよりも、立ち向かう覚悟を感じさせます。
松本の声を「元気な少年の声」とだけ考えていた人には、その違いが面白いところでしょう。
2022年には、高取ヒデアキのバンドZETKIと「Alive A life」を歌っています。
歌っているのは松本本人ですが、2002年の録音とは違うバンド演奏です。ギターやドラムのある演奏の中で、歌の言葉がどれだけ前に出てくるかに注目すると、声の強さと伝わりやすさを一緒に楽しめます。
松本の力強さは、いつも同じ明るさを作るためのものではありません。
仲間を誘う歌では親しみやすさになり、戦う気持ちを歌えば頼もしさになる。何を伝える曲なのかによって、あの声の印象も変わるのです。
元気いっぱいに歌わない「まんまる」
一方、2009年のカバーミニアルバム『まんまる』では、松本は違う歌い方を選んでいました。
普段の元気な感じを押し出すより、芯の強さを残しながら自然体で歌う。本人がそう説明する、アコースティックなアレンジの作品です。
収録曲には「銀河鉄道999」や「生きてこそ」があります。
松本は、アニメソングのおかげで歌手としての自分を多くの人に知ってもらえたことから、アニメへの感謝を込めて、このカバー集を作りました。
ただ有名曲を並べたのではなく、その時点の自分が歌って、伝えたいことをきちんと伝えられる曲を選んだといいます。
ここでも考えていたのは、親と子が一緒に歌えることでした。
たとえば、お母さんが昔好きだった「銀河鉄道999」を口ずさみ、そばで聴いていた子どもも覚える。やがて二人で歌えるようになる。
そうした場面を、松本は思い描いていました。
ステージで元気に呼びかけるだけが、一緒に歌う方法ではないのです。
家でくつろいでいるときに、自然と口ずさめる歌もある。『まんまる』では、そのために歌い方も伴奏の雰囲気も選び直しています。

アルバムには、松本が作詞・作曲した「まんまる」も収められています。
母親が作ったおにぎりを持ち、自転車で山下公園へ出かけた幼い日の思い出が、この歌のもとになりました。
壮大な冒険の歌から、家族と過ごす身近な一日へ。題材は違っても、歌を通じて誰かと気持ちを分かち合ってほしいという思いは変わりません。
力強さと、一緒に歌える親しみやすさ
松本梨香の歌の力強さを楽しむなら、声の大きさに加えて、歌詞の聞き取りやすさや、思わず返事をしたくなる掛け声にも耳を向けてみたいところです。
「めざせポケモンマスター」では、子どもが覚えて一緒に歌えることを大切にする。「Alive A life」では、同じ声の強さが、戦いへ向かう頼もしさを生む。『まんまる』では、家でも口ずさめる自然な歌い方を選ぶ。
力強い声に聴き惚れる楽しさと、自分でも歌ってみたくなる親しみやすさ。その両方があるのが、松本梨香の歌です。
とくにポケモンの歌では、歌い手自身が聴き手を想像し、一緒に楽しもうとしている。あの声に応えたくなる理由は、歌を覚えている懐かしさだけでなく、こうした歌い手の姿勢にもあるのでしょう。
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