ビッケブランカの歌い方|高い裏声で、作れる歌まで変えてしまった

2020年のインタビュー掲載写真のビッケブランカ シンガー
ビッケブランカ(2020年)。撮影:山崎玲士/音楽ナタリー

ビッケブランカの「Black Catcher」は、激しい演奏の中を高い歌声が走っていく曲です。
アニメ『ブラッククローバー』のオープニングで、あの声が耳に残った人も多いでしょう。
けれど本人は、もともとの地声は低く、歌える範囲が狭いことを悩んでいました。
今の高音は、別の歌手との出会いをきっかけに見つけ、自分の表現に育ててきたものです。

ビッケブランカにとって裏声は、高い音を出すためだけのものではありません。
思いつく旋律を増やし、地声との切り替えで曲の雰囲気まで変えられる声です。
一方で、音数を減らし、言葉の終わりをそっと聴かせる歌もある。
その使い分けを知ると、高音の華やかさの奥にある、歌の作り方が見えてきます。

地声に合わせて曲を作ると、旋律まで狭くなってしまう

今の姿からは意外ですが、ビッケブランカは最初、ギターを持ってロックを歌っていました。
大学時代にもバンドでギターとボーカルを担当していたものの、その形にしっくりこないものを感じます。
そこでピアノへ持ち替え、弾きながら曲を作るようになりました。

ただ、楽器が変わっても、声の悩みは残りました。
本人の説明では、当時は低い地声で歌える範囲が狭く、曲の旋律もその中で考えなければならなかった。
大きな声を出そうとしても、自分の望む歌声にはならなかったといいます。
ピアノではもっと上の音が鳴るのに、歌にすると使えない。
歌手としての悩みが、そのまま作曲の制限にもなっていたわけです。

転機は、当時の事務所のプロデューサーにMIKAを教えられたことでした。
ファルセットと呼ばれる高い裏声を堂々と使い、それを歌の魅力にしているアーティストがいる。
ビッケブランカも試してみると、思ったより高いところまで声が出ました。
そこからMIKAやクイーン、マライア・キャリーなどの曲を裏声で歌い、自分の表現として育てていきます。

本人がこの発見を、作曲で使う鍵盤が増えたという趣旨で語っているのが印象的です。
単に、すでにある曲の高音を歌えるようになったのではありません。
それまで自分では歌えないと思っていた旋律を、自分の曲として作れるようになった。
ビッケブランカの高音には、歌い方と曲作りが一緒に変わった経験があるのです。

帽子をかぶりインタビューに応じるビッケブランカ
メジャーデビュー時のインタビュー掲載写真(2016年)。出典:MEETIA

「Black Catcher」は、高音で勢いを止めない

2020年の「Black Catcher」は、その裏声が激しいロックにも使えることを感じさせる曲です。
『ブラッククローバー』のために先に書いた「Black Rover」とのつながりを意識して作られました。
本人も、凝ったアレンジをしたい欲求を、この曲のようなロックで表していると説明しています。

高い裏声というと、静かな曲でふわりと伸ばす使い方を思い浮かべるかもしれません。
「Black Catcher」では、サビの高い旋律が、速い演奏の勢いと一緒に続いていきます。
長く伸ばす高音だけでなく、サビの言葉を次々に歌っていくところにも、裏声が使われています。
歌の大部分を支えられる声だから、激しい曲でも裏声を中心にした旋律を作れるのです。

この曲に触れた個人のレビューにも、力のあるバンド演奏と澄んだ歌声の組み合わせに驚いた、という受け止め方があります。
伴奏の激しさに合わせて、声まで荒々しくする必要はない。
高く抜ける声のまま、曲を熱くできる。
地声を強く出す以外の方法を見つけたことが、ロックの歌い方にも生きています。

「Ca Va?」では、声の切り替えが曲の展開になる

裏声と地声を行き来する楽しさは、2019年の「Ca Va?」にもあります。
ビッケブランカはこの曲について、二つの声を混ぜる歌い方は今も楽しい、と話しています。
高い声を一度きれいに出して終わるのではなく、違う声を次々に出せること自体が、曲の遊びになっているのです。

曲の題名は、フランス語の「元気?」という挨拶。
パリを訪れたときにできたサビの発想を、後になって一曲へ仕上げました。
フランス語、日本語、英語が混ざり、歌の雰囲気も変わっていきます。
端正に響く歌声から、短い言葉を繰り返して体を動かしたくなる部分へ。
同じ声色で押し通さないからこそ、曲の中で場面が変わる楽しさがあります。

「まっしろ」で彼を知った人なら、この曲には驚いたかもしれません。
本人も、バラードを続ければ美しい旋律を歌うピアノマンとして認めてもらえたかもしれない、と振り返っています。
それでも同じタイプの歌だけを続けるより、自分にはほかの表現もあると示すほうを選びました。

そして「Ca Va?」は、ライブで歌ううちに、作った本人の予想以上に盛り上がる曲になりました。
本人は、あの曲の構成だからこそ生まれる一体感を、観客に教えられたと話しています。
違う声や曲調へ次々に移ることは、落ち着いて一曲を聴くには忙しくも感じられるでしょう。
でもライブでは、その変化を観客が一緒に待ち、反応できる。
声を切り替える面白さが、会場全体で味わう楽しさにもなったのです。

ビッケブランカと佐藤千亜妃の対談
「Ca Va?」発表時の対談。左からビッケブランカ、佐藤千亜妃(2019年)。撮影:山川哲矢/CINRA

高い声を持っていても、息の終わりを聴かせたい

一方、ビッケブランカは、たくさんの音で歌を盛り上げることだけを目指してはいません。
2020年のアルバム『Devil』について話した際には、歌詞と旋律を聴かせるために、伴奏の音を減らすようになったと説明しています。

本人が例に挙げたのは、長く伸ばした言葉の最後で、息がふっと途切れる瞬間でした。
そこに気持ちを込めても、同時に大きな伴奏が入れば、歌の細かな表情は聞こえにくくなる。
だから、足せる音をすべて足すのではなく、歌が聞こえる余地を残すのです。

「白熊」についても、本人は、楽器以上に言葉の強さが印象に残ることを大切にしていました。
誰かの悲しみを引き受けるだけでなく、その人を悲しませた相手には腹を立てる。
そんな気持ちを歌う曲だから、きれいな音の重なりに言葉を埋もれさせたくない。
伸びる高音に注目して聴いていた歌手が、実は言葉の終わりや、言い切る強さにもこだわっていると分かります。

声の役割を考えると、派手な曲と、音を絞った曲のつながりも見えてきます。
「Black Catcher」では演奏と一緒に高い旋律を走らせ、「Ca Va?」では声の変化で楽しませる。
歌詞をしっかり伝えたい曲では、伴奏を控えさせてでも、一人の声を聴かせる。
曲によって、声に任せる役割が違うのです。

あの裏声が増やしたのは、歌の選択肢だった

ビッケブランカの歌い方の面白さは、高い音を出せることから、その先へ広がっています。
低い地声だけでは作れなかった旋律を、裏声で歌えるようになった。
さらに地声との切り替えを使い、激しいロックも、展開の多いポップスも、自分の歌にしてきました。

けれど、いつでも一番高い声や、一番派手な歌い方を選ぶわけではありません。
言葉を聴かせたいなら、息が消える瞬間まで伝わるように音を減らす。
声の使い道を曲に合わせて選べるから、華やかな高音も、静かな一言も生きるのです。
「Black Catcher」から「Ca Va?」、そして「白熊」へと聴いていくと、同じ歌手の声がこれほど違う役割を果たせるのか、と驚かされます。

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