勢いのあるラップで知られるLANAは、最初のEPを作るとき、失恋の曲をまとめようとしていました。
ところが、チームとの話し合いを経て、2023年の『19』は強いエネルギーを前に出した作品になります。
一方で、一人で作る静かな曲も、手元には残っていました。
後にバラードが増えたことを、ラップから歌へ転向した結果と考えると、この順番が見えなくなります。
LANAの変化をたどる鍵は、何が歌えるようになったかだけでなく、もともと持っていた表現のどの部分を、いつ人前に出したかにあります。
出発点は、ギターの音に乗せた内向的な歌
LANAが曲を作り始めた頃、しっくりきたのはアコースティックギターの伴奏でした。
失恋して落ち込んでいた自分に、兄のLEXが歌ってみるよう勧める。
そこで見つけたトラックに旋律と言葉を乗せ、兄に録ってもらったのが出発点です。
本人は当時の感覚を、ヒップホップよりも、しっとりしたカントリーに近いものとして振り返っています。
2020年にSoundCloudへ投稿した「HATE ME」も、つらい恋の経験から生まれました。
最初から、大勢を鼓舞する人として歌い始めたわけではありません。
一人の時間や繊細な気持ちを大切にする自分もいることを、LANAは本格的な活動を始めた頃から話していました。
後の華やかな姿だけを知っていると、こうした歌は意外に映るかもしれません。
けれども、心細さを旋律に託すことは、成功してから付け加えた演出ではなく、歌い始めた理由に近いものでした。

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2022年には、速いフロウと静かな歌が並んでいた
2022年の「PULL UP」では、ジャージー・ドリルのビートに、速いフロウとメロディーを組み合わせました。
LANAは、自分の声を武器に、こういう曲もできると示したかったと語っています。
同じ年の「Xmas with U」では、好きなクリスマスを題材に、しっとり歌う曲を作りました。
母と姉もコーラスに参加しています。
ビートに乗って言葉を走らせる曲と、旋律を聴かせる曲。
この二つは、古い歌い方と新しい歌い方として入れ替わったのではなく、早い段階から並んでいました。
ここを押さえると、その後の作品で静かな歌が目立つようになる意味も変わってきます。
声の可能性が一方向に伸びたというより、発表する曲の重心が動いているのです。
『19』では、チームと作る強い声を前へ
2023年の『19』には、「BASH BASH」や「Huh?」など、他のラッパーと組んだ曲が入りました。
チームで作る勢いのある曲とは別に、一人で書く悲しい旋律の曲もあり、発表の時期を待っていたのです。
他のラッパーと勢いを共有する曲が並ぶ一方で、手元には一人の気持ちから生まれた歌もある。
発表された『19』の強さだけでLANAの歌を捉えると、この時期から用意されていた、もう一つの表現を見落としてしまいます。
『19.5』で、温めていた歌を聴かせる
2024年3月の『19.5』では、その静かな側面がまとまって表に出ます。
LANAは、ほぼギター一本で歌う曲も含め、以前は発表を待っていた曲を聴いてもらえることを喜んでいました。
強い曲の間に休憩としてバラードを置くのではなく、自分の別の色を伝える作品になったのです。
「Almost 20」は、約一年半前に家で作った曲がもとです。
「For bbys」や「99」も十七、十八歳頃の作品で、当時の言葉をほぼ残しました。
音の並びにも、その幅が表れています。
シンセポップの「Almost 20」から、7を迎えた「WE WANT!!!」を経て、ギターとストリングスの柔らかな響きを持つ「For bbys」へ。
最後の曲では、強気な主張の内側にある気持ちを、旋律の中で歌い上げます。
発表の順番と、曲が生まれた順番は同じではありません。
『19.5』で見えてきたのは、急に弱さを覚えたLANAではなく、それまで前面には出していなかった気持ちまで歌として届けるLANAでした。

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『20』では、昔の気持ちを思い出して歌う
2024年11月のアルバム『20』では、「Street Princess」を「PULL UP」の続きとして位置づけました。
一方で、十五歳頃の「HATE ME」も収録しています。
今の気分が当時と違っていても、初期の内向的な曲を好きでいてくれる人がいる。
LANAは、その人たちに向ける作品も大切に考えていました。
アルバムの「HATE ME」は、この作品のために新たに録音した版です。
出発点にあった曲を、活動を重ねたLANAがもう一度歌っています。
本人は、昔の曲に今の自分との隔たりを感じることもあると話しています。
それでも「99」を歌うときには、当時の、大人になりたくなかった気持ちを思い出し、若い聴き手に伝えようとする。
その瞬間の自分を歌にしていた人が、過去の感情をもう一度引き受けて歌うようになったのです。
当時の気持ちがそのまま続いていなくても、歌の言葉を今の自分の声にできる。
昔の切実さを思い出すことが、同じような年齢の聴き手へ届ける方法になる。
初期の曲を歌い続けることにも、表現する人としての仕事が加わりました。
また、このアルバムでは、本人が再びラップを書きたくなったと話しています。
ラッパーかどうかという分類に収まらず、そのときにやりたい歌を選ぶ姿勢が、作品にも表れました。
歌の入り口が広がっても、残る声の根
2025年、武道館公演を経たLANAは、ヒップホップにまだ親しみのない人にも届けたいと話しています。
それまで接点のなかった場所を結ぶ存在になりたい。
活動の入り口を広げる意志は、曲を届ける相手の広がりでもありました。
2026年には、中村あゆみの「翼の折れたエンジェル」をカバーしました。
母に教えられ、思春期に支えられた曲を、今度は自分の歌で新しい世代へ渡す。
幼い頃から親しんだ音楽も、活動の表へ戻ってきます。
同年の「Truth in the dark」では、ドラマ『一次元の挿し木』の世界と、自身の経験から得た言葉を結びつけました。
重いビートと大きく広がる音の中で、日本語のフレーズに感情を込める歌が、作品を支えています。
「PULL UP」で見せた勢い、『19.5』で表に出した静かな気持ち、そして昔の自分を思い出しながら歌う「99」。
LANAの歩みは、強い声へ一直線に向かう物語ではありません。
抱えていた感情も、親しんできた音楽も、歌にできる場所を増やしてきた歩みです。
曲ごとの声の使い方は、LANAの歌い方で詳しく扱っています。

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