レア・サロンガの歌い方|声区をなめらかにつなぎ、言葉で人物を描く

2019年の取材時のレア・サロンガ/写真:Alvin Teo シンガー
2019年の取材時のレア・サロンガ/写真:Alvin Teo

レア・サロンガの歌には、澄んだ声で言葉が届く気持ちよさがあります。
その土台には、高さに応じて声をつなぐ技術と、旋律や歌詞を見失わせない考え方があります。
ただ、その声をいつも同じ美しさに整えるわけではありません。
早口でまくしたてる人物も、静かに思いを語る人物も、同じ歌手が引き受けます。
どこを保ち、どこを役に渡しているのかを、本人と制作側の言葉から見ていきます。

地声から高い声へ、つながりを保つ

2005年のカーネギー・ホール公演を演出したリチャード・ジェイ=アレクサンダーは、レアの声の柔軟さを高く評価していました。
胸声から頭声へ滑らかに移り、切れ目を感じさせないことが、演出する側にも多くの可能性を与えるというのです。
低い声と高い声を別々の見せ場にせず、一つの歌の流れとして扱えるところが、歌唱の土台にあります。

本人は2022年、地声とファルセットをつなぐとき、十分に準備できていないと、うまくいかない場合があるとも話しています。
本番の約90分前から、30〜45分ほど声を整える習慣を続けていました。
滑らかに聞こえる声にも、その日の状態を確かめる時間があります。
本人の準備の長さをそのまままねるより、つながりを大切にしている点に注目したいところです。

「A Whole New World」の録音で、レアは声だけで演じる難しさに直面しました。
舞台で使える笑顔や身体の動きは、録音された歌には映りません。
まだ完成したアニメーションもなく、鉛筆のスケッチを手がかりに、飛んでいる感覚を想像していました。
午前はオーケストラと録音し、午後はブラッド・ケインと人物の感情へ集中したと振り返っています。
音を出せることに加えて、その音に驚きや喜びを託す作業があったのです。

装飾を増やす前に、言葉と旋律を届ける

レアは、細かく音を動かす装飾が曲に合う場合を認めつつ、歌詞や旋律が見えなくなるほど重ねることには距離を置いています。
聴きたいのは、何を歌い、メロディーがどこへ向かうかです。
声を自在に使えることと、その技をいつも前へ出すことは、彼女の歌では分かれています。

好きな歌手として挙げるカレン・カーペンターについても、豊かな低い声だけでなく、言葉の明瞭さや、飾りすぎずに感情を伝えるところに惹かれると話しています。
強い思いを届けるために、音をたくさん加える必要はない。
この好みは、レアの歌を聴くときにも役立つ目印です。

「A Whole New World」のようなよく知られた歌でも、高い音の伸びだけでなく、そこへ進む短い言葉に耳を向けると、旋律と会話のつながりを追えます。
長く保つ音と、その間を結ぶ言葉を一緒に受け取ることが、レアの歌に近づく入口になります。

2025年のツアー紹介に掲載されたレア・サロンガ/出所:WTOP
2025年のツアー紹介に掲載されたレア・サロンガ/出所:WTOP。
画像出典:画像掲載元

「I Dreamed a Dream」は、きれいに歌う準備だけでは足りなかった

ファンティーヌ役を作るとき、レアは有名な歌唱を手本にする前に、原作小説へ戻りました。
「I Dreamed a Dream」を歌う人が、どんな人生を送ってきたかを知るためです。
人物の境遇に深く触れた後、歌う感覚そのものが変わったと話しています。
同じ音符でも、何を思い出し、誰の立場で言葉を口にするかによって、表現の出発点が変わります。

2010年の『レ・ミゼラブル』25周年記念公演。

『ムーラン』の「Reflection」では、映像の中の人物に歌声を与えています。
共同監督は、録音中には声の俳優たちと向き合い、レアの歌の美しさに強く心を動かされたと振り返りました。
顔の演技を客席へ直接見せられる舞台とは違い、歌声は、画面の人物の感情として受け取られます。
声だけで誰の思いかが伝わることも、彼女の仕事の大切な部分です。

早口の歌では、発音も人物の一部になる

『スウィーニー・トッド』の「The Worst Pies in London」は、別の難しさを持っています。
レアが挙げたのは、歌の速さ、落ち着きのない人物の動き、そしてコックニー訛りを同時に成立させることでした。
耳で録音を覚えようとした後、楽譜へ戻り、自分が理解したラヴェット像を組み込んでいきます。
ロンドンで演じる際には、同役を知る先輩たちの助言も受けました。

速く言えるだけでは、役になりません。
どんな人が、どんな調子で話しているかまで歌の中へ入れる必要があります。
レアは2019年の公演でも、演出家が発音と身体の動きの両方から、物語を明瞭にすることを求めていたと話しています。
声の形を整える技術が、言葉の癖や人物の忙しさを見せるために使われているのです。

『スウィーニー・トッド』でラヴェットを演じるレア・サロンガ/提供:Atlantis Theatrical Entertainment Group
『スウィーニー・トッド』でラヴェットを演じるレア・サロンガ/提供:Atlantis Theatrical Entertainment Group。
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役を濃くする歌と、人間のままで届ける歌

『Old Friends』では、ラヴェットの衣装やかつらをまとった歌と、「Loving You」の表現が大きく異なります。
後者についてレアは、役を濃く演じるより、一人の人間として立つ感覚を説明しています。
また「Everything's Coming Up Roses」では、母親が家族の安定を願う思いを、自分の母や自分自身の経験と重ねました。
どの曲も一律に感情を大きくせず、言葉を発する人との距離を選んでいます。

2020年、ソンドハイム90歳記念企画での歌唱。

伴奏と客席が変われば、声の置き方も変わる

レアは、弦楽器の編曲が自分の歌い方に影響すると話しています。
弦が叙情的に歌うのか、緊張を帯びて鋭く響くのか、明るく軽やかに動くのか。
その選択に応じて、自分もどう歌うかを考えます。
完成した声を伴奏の上へ置くというより、その音楽の性格を受け取りながら歌を作っているのです。

コンサートでは、次の曲へ移るごとに観客と直接向き合えます。
一方、舞台の『Old Friends』では、客席を見る場面でも、一曲の中の物語の流れを保とうとしているといいます。
同じ曲を歌っていても、物語の人物としている時間と、目の前の客席に語りかける時間では、声の向かう先が異なります。

2025年のアルバム『MCC Theater's Miscast: The Studio Sessions』では、通常は『サウンド・オブ・ミュージック』の男性役が歌う「Edelweiss」も取り上げています。
これは前年の舞台映像の音を使ったものではなく、スタジオで改めて録音した歌です。
自分の持ち役から離れた曲を歌うときにも、旋律と言葉を届ける姿勢を聴くことができます。

声区をつなぐ滑らかさがあるから、長い旋律も一人の人物の言葉として続いていく。
その土台があるからこそ、早口のラヴェットにも、静かな「Loving You」にも踏み込めます。
レアの歌を聴くときは、声の美しさと同時に、どこで誰の言葉になっているかを追ってみてください。
こうした表現を広げてきた道のりは、レア・サロンガの歌唱変遷でたどっています。

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