レア・サロンガの歌声の変遷|澄んだ声に、年齢と役柄が重なっていく

2025年の取材に掲載されたレア・サロンガ/写真:Benji Rivera シンガー
2025年の取材に掲載されたレア・サロンガ/写真:Benji Rivera

レア・サロンガの声を、ディズニー映画の歌から知った人は多いでしょう。
その澄んだ声の持ち主は、舞台では人生に追い詰められた母親も、不気味な悪役も演じてきました。
長い年月で変わったのは、声の響きだけではありません。
以前は想像して歌っていた感情が、自分の経験とつながり、美しく歌うことから離れる役にも踏み込めるようになったのです。
若い頃の発声の学び直しから、その広がりをたどります。

18歳で得た大役と、歌えなくなる怖さ

フィリピン出身のレアは、7歳で『王様と私』の舞台に立ち、子どもの頃から歌手、俳優として活動していました。
1989年、18歳でロンドンの『ミス・サイゴン』初演のキム役に抜擢されます。
1991年には同役でブロードウェイへ進みました。
世界に知られるきっかけは、若い母親を演じる歌でした。

華やかな出発の裏には、声への強い不安がありました。
レアは後年、1989年の公演時期に声が思うように出なくなり、歌手としての生活を失うのではないかと恐れたことを明かしています。
自分の技術に問題があると感じ、母親や医師、教師、共演者に支えられながら立て直していきました。
幼い頃から歌っていたことと、長く舞台で歌い続けられることは、彼女の中で別の課題になったのです。

その時期に、発声教師メアリー・ハモンドの指導を毎週、1年近く受けました。
2024年にも、当時身につけた技術を今も使っていると話しています。
声を守る土台が、その後の幅広い役柄を支えることになりました。

演出家ニコラス・ハイトナーからは、考えたら素直に行動し、演技を飾りすぎないことも教わりました。
発声を整える一方で、感情を本当らしく見せようと力みすぎない。
技術と表現を別々に学んだ時間でもありました。

1989年9月、『ミス・サイゴン』の稽古中のレア・サロンガ/写真:Getty Images
1989年9月、『ミス・サイゴン』の稽古中のレア・サロンガ/写真:Getty Images。
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ディズニーの声として残った、若い頃の輝き

1992年の『アラジン』ではジャスミン、1998年の『ムーラン』ではムーランの歌を担当しました。
どちらも台詞を話す俳優は別にいて、レアは歌声で人物を表しています。
「A Whole New World」と「Reflection」は、舞台の客席を越えて、その声を多くの人に届けました。

『ムーラン』の共同監督トニー・バンクロフトは、録音で初めて「Reflection」を歌うレアを前に、涙が出たと振り返っています。
彼が覚えていたのは、天使を思わせる美しい声でした。
後に本人が別の役で手放そうとする「美しい声」の印象が、ここにははっきり残っています。

母親の役で、言葉の重さが変わった

『レ・ミゼラブル』では、若いエポニーヌを演じた後、2007年にファンティーヌ役へ移りました。
今度は子どものために身を削る母親です。
レアは原作小説のファンティーヌの部分を繰り返し読み、先に演じた名優の表現から離れて、人物を作ろうとしました。
原作に涙した後で歌った「I Dreamed a Dream」は、それまでと同じ感覚ではなかったといいます。

自身が母親になったことは、以前の歌にも新しい意味を与えました。
『ミス・サイゴン』で子どもへの思いを歌う「I'd Give My Life for You」が、その一つです。
若い頃は経験のない感情を想像していたのに対し、後年は自分の人生から理解できる部分が増えたと振り返っています。
同じ旋律でも、歌う側が言葉を受け止める深さは変わっていました。

2010年の『レ・ミゼラブル』25周年記念公演。

2017年に始まった『Once on This Island』の再演では、愛の女神エルズリーを演じました。
本人が大変だったと話すのは、複雑な歌の組み合わせです。
円形の舞台では客席との距離も近く、観客を物語の内側へ招くような感覚がありました。
一人の歌を大きく届ける力に加え、他の声や、その場にいる人とつながる仕事が求められていたのです。

48歳で、美しい声への期待から離れる

2019年、レアは『スウィーニー・トッド』のミセス・ラヴェット役に挑みます。
パイ店を営み、恐ろしい企てに加わる女性です。
48歳の本人は、以前の声が明るく天使のようだと見られていた一方、年齢を重ねた声には、より強く、しなやかになった面があると話しました。
役柄の広がりを、衰えを補うための変更だけでは説明できません。

レアは、長年ヒロインを演じてきたため、手の動きまで優雅になってしまうことを指摘されたといいます。
ラヴェットには、ロンドンのコックニー訛りだけでなく、どこかおかしな人物だと伝わる身体の使い方も必要でした。
声、発音、身ぶりをそろえて、これまでとは異なる人間を舞台に立たせる挑戦でした。

後にこの役を振り返ったとき、従来期待されてきた、端正で美しい声へのこだわりから離れられたことを挙げています。
醜さや欲深さを隠さない人物を歌うことで、声の使い道そのものが増えたのです。

高音だけでなく、低音にも新しい豊かさが生まれる

2022年、レアは、以前より高い音に届きやすくなり、低い音には豊かさが増したと話しました。
年齢とともに声のすべてが同じ方向へ変わったわけではありません。
人生経験が増えたことで、感情へ近づき、歌の物語を伝えることも容易になったといいます。
声の状態と、言葉を生きる経験の両方が、後年の表現を支えていました。

2020年には、ソンドハイムの90歳を祝うオンライン企画で「Loving You」を歌いました。
本人から心を動かされたという連絡を受け、その歌は後の『Old Friends』にも選ばれます。
ソンドハイム作品を集めたこの舞台は、レアが様々な人物と感情を行き来する場になりました。
かつての代表役を再現するだけでなく、積み重ねた経験を別の歌へ注ぎ込む時間です。

2025年の『Old Friends』では、ラヴェットの姿で歌う場面と、ほとんど一人の人間として「Loving You」を届ける場面が同じ舞台に並びました。
強い役づくりと、飾りを外したような歌を行き来できることが、今のレアの幅になっています。

2020年、ソンドハイム90歳記念企画での歌唱。

2025年4月、『Old Friends』開幕日のレア・サロンガ(右)とバーナデット・ピーターズ/写真:John Lamparski/Getty Images
2025年4月、『Old Friends』開幕日のレア・サロンガ(右)とバーナデット・ピーターズ/写真:John Lamparski/Getty Images。
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長く歌う曲にも、今の相手がいる

舞台と並行して続けるコンサートでは、観客との関係も変わります。
レアは2025年、物語全体の流れを保って演じる舞台に対し、コンサートでは客席へ直接反応できる楽しさを語りました。
観客の笑いにも応じながら、その日の人たちと歌を分かち合う場になっています。

「Reflection」を歌うと、客席の子どもたちが歌詞を口にしていることがあります。
レアは、それが自分たちの歌だと感じてくれていることに喜びを感じると話しています。
録音された若い声は変わらず残っていても、歌い続ける本人の前には、新しい世代の聴き手が現れます。
代表曲との関係は、過去の成功を思い出すことだけにとどまりません。

2024年には、「Reflection」の意味をさらに具体的に語っています。
若い頃は、画面の中のアジア人女性に自分を重ね、勇気をもらっていました。
今は、その歌を歌う自分を見た若い人が、自分にもできるかもしれないと感じてくれたらと思うのだといいます。
かつては支えにした歌を、次の世代に手渡す。
同じ歌詞を歌いながらも、本人が見つめる相手は変わっていました。

54歳になったレアは、若い娘の役よりも、『カンパニー』のジョアンヌや『ジプシー』のローズのような、複雑で欠点もある人物に惹かれると話しています。
かつての役へ戻ることより、今の自分で生きられる人物を探しています。

2026年には、昔からの曲を年齢とともにいっそう大切に感じるのは、経歴を象徴するからだけでなく、音楽そのものへの愛着が深まるからだと語りました。
コンサートには、聴き手が待つ代表曲と、まだ歌ったことのない曲、声に挑戦を求める曲を組み合わせています。

レア・サロンガの歌声には、若い日の明晰さを支えた技術と、年齢を重ねて引き受けてきた人物の感情が重なっています。
キム、ファンティーヌ、ラヴェットとたどると、その変化を役の違いからも感じ取れます。
曲ごとの声区のつながりや、言葉を伝える選択は、レア・サロンガの歌い方で詳しく見ていきます。

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