センラの歌には、恋に翻弄される人物を、すぐそばにいるように感じさせる甘さがあります。
その一方で、ステージでは荒い声で煽り、軽やかに踊り、観客を笑わせることもできる。
こうした幅は、いつ、どのように広がってきたのでしょうか。
ソロを背負うことへの不安、自作曲への挑戦、昔の自分と今の自分の間での迷いをたどると、声を届ける相手との関係も見えてきます。
家で聴いた歌が、ネットで自分の表現になるまで
センラは、家族が聴くEXILEや東方神起の音楽に囲まれて育ちました。
本人も、その頃に親しんだ曲を歌い方のルーツとして挙げています。
高校1年生の頃にはニコニコ動画へ歌を投稿し、当初は「ニコニコ組曲」などを歌っていました。
やがてボーカロイド曲のジャンルが広がり、それまでに培った歌のスタイルを活かせるようになったと振り返っています。
2013年に結成された浦島坂田船は、2016年の『CRUISE TICKET』でメジャーデビューしました。
センラの歌も、ソロだけでなく、4人の声が並ぶ作品の中へ入っていきます。
2018年の日本武道館公演では、4人それぞれのソロ曲を聴かせる時間があり、センラは「Make a pass」を歌いました。
志麻との「ギャラクシー」も披露しています。
4人で作る賑やかな空気の中に、一人の声を聴く時間と、二人で歌を受け渡す時間がある。
グループ活動は、個性をそろえるだけでなく、それぞれの違いを見せる場にもなっていました。
その武道館でセンラは、特別な才能だけでここまで来たのではなく、仲間や観客に支えられているという感謝を語っています。
大きな会場に立つことと、誰に向けて歌うかを見失わないことが、同じ言葉の中にありました。
2018〜2019年、一人で舞台に立つ怖さを越える
2018年のソロツアーは、約5年ぶりのワンマンでした。
センラは仕事やグループ活動との両立に加え、一人で責任を負う怖さから、ソロ公演を避けていたと明かしています。
けれど、実際に開催して気づいたのは、すべてを一人でしなくてもよいということでした。
バンド、スタッフ、観客に支えられている実感が、またワンマンをやりたいという気持ちにつながります。
豊洲PITでは「キャットアイメイク」でリズムに乗る艶を見せ、「曖昧劣情Lover」ではアコースティックギターと声を響かせました。
一人で歌う時間を、異なる表情で満たせることを示した公演です。

画像出典:画像掲載元
翌2019年には、共演相手が次々に変わる『XYZ TOUR』にも出演しています。
4月のZepp Tokyoでは、luzと「キャットアイメイク」、nqrseと「Nectar」を歌い、めいちゃんとの「リコレクションエンドロウル」では一緒にステップも踏みました。
同じ歌い手でも、隣に立つ人や曲が変われば、掛け合いの形は変わる。
ソロとは異なる組み合わせの中でも、センラの声を楽しめる時期でした。
この公演では、曲が進むたびに歌う人数も変わります。
ひとつの恋の人物像を一人で描く時間から、相手の声や動きに応じる時間へ。
舞台での表現を、一種類に固定しない活動でもありました。
ソロでは、同年の『Luge』で「嘘」という題材を扱います。
東京公演の「ステゼリフ」は、冷たい男を演じる人物の切なさを描く歌。
「give you up」では、自分の気持ちと相手の幸せが食い違う場面を歌いました。
恋の甘さに、言葉通りには受け取れない感情が重なっていきます。
2021〜2022年、歌う人から曲を書く人へ
2021年の『À la mode』では、自ら作詞・作曲した「ヘイジー」や「Holiday」が加わりました。
同年のツアーで歌った「Holiday」は、仕事に追われる人の休日への思いを、柔らかな歌で届ける曲です。
恋愛の登場人物を描いてきた声が、日々の暮らしにも向かう。
「ヘイジー」ではダンスも交え、自分で作った曲をステージの表現へ育てていきました。
浦島坂田船の『L∞VE』でも、新しい方向へ踏み出しています。
センラは「Starry Heaven」を、それまでになかったほど落ち着いたバラードへの挑戦と説明しました。
志麻との「青空ピカソ」では、普段は自分が決めることの多かった方向性を志麻が示し、二人で内容を詰めています。
賑やかさや色気に、爽やかな青春の表情も加わりました。
2022年の『VERITE』には、自作曲を3曲収録しました。
ツアーの「透明」は、儚い裏声で始まる歌。
本編の最後には、自分の思いを込めた曲として「cute you」を届けています。
自作曲が増えたことで、誰かの物語を演じる歌と、ファンへ向けた自分の言葉とが、ひとつの公演の中に並ぶようになりました。
昔のセンラと、今のセンラの間で
2023年の『GOSSIP』には、表向きの題材とは別に、初心というテーマがありました。
センラは過去の配信や音源を振り返る中で、自分の考えるセンラと、ファンが思い描くセンラとの間にずれがあるのではないかと悩んだといいます。
初のホールツアーを経てたどり着いたのは、過去を大切にしながら、今の自分でいてよいという考えでした。
自作曲「難解愛想」には、韻や言葉遊びがあり、自分たちの場所を肯定する勢いがあります。
昔の歌を再現するだけでは終わらない姿勢が、作品にも表れています。

画像出典:画像掲載元
この年の2月には、声を作る過程についての話もしています。
志麻との「Ride The Night」では、互いの歌を聴き、意見を交わしながら録音しました。
このやり方を二人で試したのは同曲が初めてだったと、2023年のタッグライブで明かしています。
完成した声を並べるだけでなく、歌を作る途中から相手と向き合うようになったのです。
2024年の『MARCEL』は、香りと記憶を結びつけた作品です。
東京公演では「オレンジ」をギターを弾きながら歌う姿も見せました。
多くの公演が続く中、声が出なくなることへの不安もあったと話しています。
それでも、観客と過ごす一日に力を注ぎ、その記憶を残したいと歌いました。
2025年、甘い声で誰かの背中を押す
「美しくあれ!」は、ドラマ『私は整形美人』の主題歌として歌った、辻村有記による楽曲です。
センラは原作を読み、困難に向き合う主人公・美玲を応援する気持ちで歌ったと説明しています。
甘い声が向かう先には、恋愛の駆け引きだけでなく、自分の心に素直に生きようとする人もいる。
物語の人物を理解し、その人の背中を押すことが、歌唱の出発点になりました。
色気のある声と、励ます歌は、彼の中で矛盾するものではないのでしょう。
同年の『歌ってみた祭り!』では、「恋愛裁判」など、以前から親しんできた曲も披露しました。
新しい作品を増やしながら、歌ってみたという出発点にも戻る。
自作曲やタイアップ曲へ進んだからといって、カバーを歌う人としてのセンラが消えたわけではありません。
秋の『Brun』ツアーでは、「pianissimo」の冒頭を鍵盤の弾き語りで届けました。
ギターに続き、歌と楽器を自分で担う場面が生まれています。
作品のテーマは、本人の好きなチョコレート。
深い題材が続いた後に好きなことをしようと考え、最後には、それもファンを喜ばせたいからだと気づいたと話しました。
センラの歩みは、甘い声を手放して別人になる変化ではありません。
その声で描く人物が増え、自分で曲を書くようになり、客席へ伝えたいことも具体的になってきた歩みです。
過去の自分を大切にしながら、今の自分で歌う。
その積み重ねを聴くと、恋の歌も、ファンに向けた歌も、違う近さを持って届いてきます。
曲ごとの声の選び方は、センラの歌い方で詳しく見ていきます。







コメント