ルイス・キャパルディの歌い方|ざらつく強い声と、静かに届く声の使い分け

2020年の取材記事に掲載されたルイス・キャパルディ(写真:Hollie Fernando) シンガー
2020年の取材記事に掲載されたルイス・キャパルディ(写真:Hollie Fernando)

ざらついた声が印象に残る、ルイス・キャパルディ。
歌い方を知るには、声が大きくなる場所と、力を見せずに届く場所の両方を見ていきたい。

ざらつく音色は、憧れを通して育てたもの

本人の説明では、もともとの歌声は澄んだ、まっすぐな声だった。
少年時代にジョー・コッカーへ憧れ、あのように歌おうと試したことが、現在のハスキーな表現につながっている。
生まれつき渋い声だから自然にこうなった、と説明してしまうと、本人が目指した音色という部分が抜け落ちる。

このざらつきは、音の表面にある質感として捉えると分かりやすい。
声の高さや大きさと、かすれを含むかどうかは、同じ特徴ではない。
歌唱指導者のカミーユ・ヴァン・ニーケルクも、ルイスの高い声に圧迫感のある響きを感じる一方、それが自然な声の要素なのか、負担のある癖なのかは判断できないとしている。
聞こえの印象だけから、喉の中で起こっていることまで一つに決める必要はない。

「Someone You Loved」は、低い声と大きな起伏が出発点

「Someone You Loved」の録音を担当したトム・バーンズは、ルイスの声が非常に力強く、強弱の幅も大きいと説明している。
低い音域を歌う部分では、音のこもりを調整し、息継ぎや語尾の音量も細かく整えた。
完成音源の密度は、本人の声の起伏に、録音での調整が加わったものだ。

舞台の音を担当するアンディ・ブッシュの話でも、静かな低い声と、より大きく喉の響きを感じさせる声の両方が挙げられる。
客席が大きな声で応える公演でも、どちらの歌い方でも言葉が分かることを大切にしている。
強い声を基準にすべてをそろえるのでなく、静かな部分の言葉も届ける。
その幅が、ルイスの声の存在感を支えている。

強さを残しても、すべてを大きく歌い切らない

高音の強さを考える例として、復帰曲「Survive」がある。
2026年1月のアブダビ公演では、難しい高音を制御して歌ったことが評価された。
同じ公演の「Hold Me While You Wait」では、抑えた表現と力強さが共存し、少し声が割れる質感も含めて心に届いたと評されている。
強い声を持つことと、その強さを常に最大にすることは違う。

Saadiyat Nightsの舞台に立つルイス・キャパルディ(2026年1月、アブダビ)
Saadiyat Nightsの舞台に立つルイス・キャパルディ(2026年1月、アブダビ)。
画像出典:画像掲載元

曲の性格にも、その声をどう使うかの違いがある。
初期アルバムの「Fade」のような大きなバラード、「Don’t Get Me Wrong」のソウル的な曲、「Hollywood」のポップ・ロックでは、同じ豊かな声が違う曲調を担う。
ルイスの特徴を声量だけに絞ると、こうした歌い分けの幅も見えにくくなる。

「Don’t Get Me Wrong」は、ジェイミー・ハートマンと曲の幅を変えようとして生まれた。
ワルツのような曲がまだなかったため、ハートマンがその形を提案したという。
同じ歌手の声でも、歌を運ぶ拍のまとまりが変われば、聞かせ方の前提も変わる。
音色の説明と、曲の中での声の役割を結びつけて考えたい一曲だ。

また、「Forget Me」は、悲しい内容を軽快なテンポへ乗せた曲だ。
本人は、ゆっくりした曲が続く公演に変化を加える必要を感じていた。
悲しさを長く引き延ばすばかりでなく、動きのある曲の中でも保つ。
その選択が、バラード中心の歌手という印象に違う入口を作っている。

盛り上げ方の型から、はみ出す曲

第2作には、声の起伏を違う形で使う例もある。
「How This Ends」は、低く始めて高くなる形ではなく、初めから自分の声の高いところを使ったと本人が話している。
低い部分を長く続けてサビだけ張る、という型だけで彼の歌を説明することはできない。

その一方、強いサビが続くと、一曲ごとの表情が似てしまうという評価もある。
批評家のローラ・スネイプスは第2作に厳しい意見を示しながら、「The Pretender」では痛みを表す声が一様に鳴り続けず、形を変える点を評価した。
強さの有無以上に、その途中にどれだけ違う表情があるかが問われている。

「The Pretender」は、自分が周囲の期待にふさわしくないと感じる不安を扱う曲だ。
スネイプスの評価では、滑らかに整え続けるのでなく、不揃いに揺れる声がその内容と結びついていた。
声量を上げることと、感情の形を伝えることを同じにしない。
その違いが、彼女がこの曲を評価した理由を理解する手掛かりになる。

「How I’m Feeling Now」では、デモを録り直さず、そのままアルバムに残した。
本人がそこに感じた、生々しい感情を保ちたかったからだ。
整え直すことより、その時に出た表現を選ぶ場面もある。

軽い高音が、声の距離を変える

「Something in the Heavens」では、強く張った高音とは違う、ファルセットの表情が鍵になる。
2026年のシカゴ公演でも、この曲の裏声が近くに迫る響きや、穏やかさから鋭さへ移る表現として取り上げられている。
高い音をどれだけ力強く出せるかだけでなく、軽さを選んだ時にどんな親密さが生まれるかも、ルイスの歌の一面なのだ。

Something in the Heavens(2025年・録音版)

言葉の響きと、言葉を置かない時間

歌っている時の英語にも、ルイス自身の輪郭が残る。
本人は、母音にスコットランドのアクセントが出ていると説明している。
ざらつきや大きさに耳が向きやすい声だが、言葉の発音も、その人らしさを作る要素になる。

「Forever」のような曲では、言葉を続けずに間を置くことも表現になる。
2026年5月のバークレー公演では、最後の拍の前に間を作り、その後の一音へ観客の集中を引き寄せた場面が記録されている。
伴奏を引いた「Bruises」や、ドラムを使わない「Wish You the Best」も、声が直接届く場面として評価された。
大きな音を足すことだけが、歌を強くする方法ではない。

バークレーのGreek Theatreで歌うルイス・キャパルディ(2026年5月3日)
バークレーのGreek Theatreで歌うルイス・キャパルディ(2026年5月3日)。
画像出典:画像掲載元

一方で、歌を目立たせるために伴奏をいつも少なくすればよい、というわけでもない。
2023年のTiny Deskでは、「Before You Go」にホーン2本を含む特別な編成を使っている。
歌を中心に置きながら、周りの音の色を変える余地もある。
ピアノだけの録音と、こうした実演の形を区別すると、声そのものと、声が置かれる環境の両方に目を向けられる。

声の大きさだけでなく、いつ音を引き、いつ言葉を届けるか。
そうした選択にも、ルイスの歌の強さがある。
表現が育った時期や、休止を経た変化は、ルイス・キャパルディの歌唱変遷でたどっている。

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