ルイス・キャパルディの歌声の変遷|憧れのしゃがれ声から、歌い続けるための選択へ

2017年の取材記事に掲載されたルイス・キャパルディ(写真:Aurelie Lagoutte) シンガー
2017年の取材記事に掲載されたルイス・キャパルディ(写真:Aurelie Lagoutte)

ルイス・キャパルディの歌声を、力いっぱい歌う失恋のバラードで覚えている人は多いだろう。
けれど、そのざらつく声は、子供の頃から変わらず備わっていたものではない。
憧れの歌手をまねた時期を経て、自分の声で何を表すかを少しずつ選んできた。

高く澄んだ声から、ざらつく声への憧れ

少年時代のルイスが惹かれたのは、ジョー・コッカーの歌う「With a Little Help from My Friends」だった。
2017年の取材では、当時の自分はとても高い声だったが、コッカーのざらついた声に憧れてまねたことが、歌声の方向を決めたと振り返っている。
現在の声だけを出発点にするより、そこへ近づこうとした時間を知るほうが、彼の表現は分かりやすい。

パオロ・ヌティーニの存在も大きかった。
しゃがれた声のままポップな音楽を作れることに、ルイスは魅力を感じていた。
2017年の「Fade」は、憧れだったマレイとの共同制作で、一日半ほどのうちに録音まで進んだ。
渋い声への憧れを、自分のポップスとして形にする道筋が見えていた。

2017〜2019年、一人で歌う曲に違う輪郭をつける

2017年のデビュー曲「Bruises」を経て活動が広がると、ルイスは自分一人の声の置き方を考える機会も増やしていく。
2018年の「Rush」では、マレイと作った曲にまだ何かが必要だと感じ、ジェシー・レイエズへ共演を依頼した。
彼女が自分の色を加えたことを喜び、意外に思われる組み合わせがうまく働いたと話している。

ライブも、ピアノかギターと歌だけで進める形から広がった。
2018年には、同じように聞こえる曲が続くことを避け、ゆっくりした曲にもあるグルーヴを出すために、他の演奏者が必要になったと説明している。
海外では予算に応じて人数を絞り、編成が変わるたびに演奏も変わる。
大きな声を同じように聞かせるだけでは、一本の公演を作れないという課題が、早い段階からあった。

2018年の来日時の取材記事に掲載されたルイス・キャパルディ
2018年の来日時の取材記事に掲載されたルイス・キャパルディ。
画像出典:画像掲載元

最初のアルバムを作る時には、曲作りの楽器も変えている。
慣れたギターでは同じコードに戻ってしまうため、十分には弾けないピアノを使った。
弾き方を知り尽くしていないことが、違う響きを探すきっかけになったという。
後にギターへ戻った時も、また新鮮に感じられた。
歌の形を変える入口は、自分の声だけにあったわけではない。

2018年に発表され、翌年の代表的なヒットとなった「Someone You Loved」では、制作チームのTMSが音を足し過ぎない形を選んだ。
ドラムを加える案を見送り、ストリングスも必要な部分へ絞っている。
むき出しに近い歌を中心に据える選択が、声の存在感を押し出した。

一方、2019年のアルバム冒頭に置いた「Grace」は、ピアノと歌をすぐに届ける形が選ばれた。
長い前奏を置かず、サビを最初に出して一気に印象づけたいというのが、本人の狙いだった。
声をどう響かせるかに加えて、どのタイミングで聞かせるかにも意識が向いている。

2022〜2023年、悲しさを保ったままテンポを上げる

初期からの、曲の見せ方を広げたいという関心は続いていた。
2020年、ルイスはライブにもっと速さを加えたいと話している。
自宅で曲作りを進める時間に、速い曲が増えていた。
悲しい気持ちを扱うことと、ゆっくりした曲を歌うことは、彼にとって同じではなかった。

その考えが、2022年の「Forget Me」につながる。
本人が明かした理由は、ツアーで知名度の低いスローな曲が続くと、客席が退屈そうに見えることがあったからだ。
失恋を扱う点は従来と同じでも、曲は以前より軽快に進む。
客席の集中を、長い悲しみの余韻だけに頼らずつなごうとした選択だった。

ただし、2023年の第2作『Broken by Desire to Be Heavenly Sent』で、従来の歌を捨てたわけではない。
制作中のルイスは、ピアノやギターを軸にした、それまで好きで作ってきた音楽を大きく変えたくないと話していた。
マックス・マーティンと作った「Leave Me Slowly」には1980年代のスローダンスのような手応えも感じている。
中心にある声を保ちながら、歌が乗る時間の流れや景色を広げた時期だった。

「Leave Me Slowly」の歌を録る際には、メロディーの細部を少し変えることで曲が良くなる制作陣の仕事に驚いたという。
一方、「Heavenly Kind of State of Mind」の出発点は、普段はあまりしない、全編ファルセットのバラード案だった。
完成曲と最初の案は同じではないが、既に別の声の使い方を試す時間があったことは分かる。

2023年の休止から、もう一度歌える舞台へ

2023年のグラストンベリーでは、歌い続けること自体が難しくなった。
「Someone You Loved」を客席が引き継いだ場面は広く知られるが、本人にとっては温かい思い出として簡単に片づけられる出来事ではなかった。
第2作の制作で自分を追い込み、成功を繰り返せない恐れも抱えていたと、後に振り返っている。

最初の休養期間には、音楽に戻れるかだけでなく、戻りたいかも分からなかったという。
変化が見えたのは2024年末ごろ。
数曲が揃い、「Survive」が生まれたことで、録音や曲作りへ再び踏み出す気持ちになった。
復帰を発表すれば自動的に歌えるようになるのではなく、曲に向かう気持ちから準備し直していた。

約2年、十分に歌っていなかったため、リハーサルを再開した時は歌えないように感じたとも話している。
2025年春には小さな非公開の公演を重ね、その後にグラストンベリーへ戻った。
いきなり大舞台だけで結果を出そうとせず、人前で歌う時間を段階的に取り戻していった。

復帰曲に選んだ「Survive」は、その時の自分を前向きに示すための歌だった。
同年のEPを4曲に絞ったことも、第2作のような完璧さへのこだわりや重圧を繰り返さないための選択だという。
変わったのは声の出し方だけでなく、歌を世に出し、次の公演へ向かうまでの構えでもあった。

復帰後、強さと軽さを並べて見せる声へ

2025年の新曲「Something in the Heavens」では、ファルセットを生かした表現が取り上げられた。
強く張る声で気持ちを押し出す印象のある歌手が、軽い高音の響きにも居場所を作ったのである。
復帰後を単に以前の声へ戻った時期とするより、表現の見せ方が広がった時期として捉えたい。

Something in the Heavens(2025年・録音版)

ダブリンでのルイス・キャパルディ(2025年9月)
ダブリンでのルイス・キャパルディ(2025年9月)。
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2026年1月のアブダビ公演では、「Survive」の高い部分を保った歌唱と、「Hold Me While You Wait」の抑制が、ともに高く評価された。
大きな声が戻ったという一点だけでなく、強さをどこまで見せるかも、公演の聞きどころになっていた。

同年のルイスは、舞台上で声がひどくかすれた日にも、そこに立てる喜びのほうが大きかったと話している。
録音についても、以前はヒットを追うあまり曲をプロデューサーへ渡していたが、今後は制作の各段階へ関わりたいと語った。
これは新作すべての音が既に変わったという話ではなく、これから自分の歌をどう作るかについての意思表示である。

ルイスの変遷は、声をいっそう大きくする一本道ではない。
自分の歌を届け、歌い続けられる形へ組み替える歩みでもあった。
曲ごとの声の強弱や言葉の扱いは、ルイス・キャパルディの歌い方で掘り下げている。

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