ピコの歌い方|二つの声色だけでは説明できない、表情の作り方

2025年のPIKO ROCK Fes.(撮影:アンザイミキ) シンガー
2025年のPIKO ROCK Fes.(撮影:アンザイミキ)

ピコの声は、男声と女声を行き来する「両声類」として知られています。
ただ、歌の魅力は、二種類の声を切り替えることだけではありません。
同じ高い声でも、爽やかに届けるのか、悲しさを含ませるのか、鋭く放つのかで役割は変わります。
具体的な曲と本人の判断から、その幅を見ていきます。

「二息歩行」――声色を、歌の中の相手にする

2011年の「二息歩行」では、ピコは一人で男声と女声のデュエットを作っています。
ここで面白いのは、一人の声が、歌の中で別々の存在として働くことです。
音の高低に加え、誰が誰へ語りかけているように響くかも、聴く入口になります。
広い音域を使うことと、声に役割を持たせることが結びついた例です。

同じ2011年の「Immoral」では、さらに別の組み合わせを試しました。
本人が意識したのは、男女の掛け合いではなく、女性二人によるデュエットです。
アレンジャーとデジタルな音作りや声への加工を試す中で、この形が生まれました。
一人二役でも、いつも男声と女声を一つずつ使う必要はないのです。

声を女性的に聞かせることと、別々の人物がいるように歌うことは、重なりながらも違う工夫です。
声の高低だけでなく、二つのパートが作る関係にも注目したい曲です。

高い音を、張り上げることだけで解決しない

ピコはカラオケでの歌い方について、自分の声を聴く大切さを話しています。
普段なら出せる音でも、伴奏が大きく、声の聞こえ方が変わると、つい張り上げてしまうことがある。
そこで、返ってくる声と音程を確かめながら歌ってはどうか、という助言でした。
声を大きくする前に、自分がどんな音を出しているかを聴く。
力を足す前に、聞こえ方を確かめる発想です。

「Story」を歌った藍井エイルも、ピコがこの高い曲を滑らかに歌うことに、改めて驚いたと話しています。
ロックの強さとポップスの澄んだ印象が同居し、独特のニュアンスまで再現したいと考えたそうです。
高音の価値は、届くかどうかだけではありません。
高い旋律を一つの歌として自然に運べることも、彼の声が印象に残る理由でしょう。

藍井は、この曲を再び録音する際、原曲を聴き直してピコのニュアンスを取り入れようとしました。
音符を同じ高さでなぞるだけでは届かない、歌の運び方があるということです。
原曲とカバーを比べる際にも、最高音だけでなく、旋律全体の表情を聴く手がかりになります。

三つの曲で変える、感情の濃さ

「咲色リフレイン」の制作で、本人は三曲の歌い方を明確に分けています。
表題曲は爽やかに、「Hysteric rain」は大人びた重さを持たせる。
そして「天ノ弱」では、無機質な表情と、サビの情熱を対照にしました。

これは、男声と女声の二択とは違う使い分けです。
同じ歌手の声でも、感情をすぐに見せるのか、抑えてから開くのかによって、曲の流れが変わります。
どこでも同じように気持ちを盛り上げるより、落差を作ることが表現になるのです。

声を重ねる楽しさは、編成によっても変わる

赤飯と歌う「magnet」には、2015年のアコースティック版があります。
H ZETT Mが編曲した再録で、二人のコラボレーションを別の音作りへ置いた作品です。
初期から知られる組み合わせでも、同じ伴奏と声の重なりを保存するだけではありません。
編成を変えたとき、声同士の関係をどう見せるかという楽しみ方もできます。

「magnet」アコースティック版の赤飯とピコ
「magnet」アコースティック版の赤飯とピコ。
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シャウトを控えるのも、積極的な選択

2019年作では、言葉を伝えるために、シャウトを控える判断がありました。
自分について話す歌だからこそ、明瞭に届く声を選ぶ。
激しく歌える人が、その力をいつも前面に出すとは限らないのです。

反対に、2024年の「人間賛歌」のライブでは、ロックの強い歌唱に加え、ファルセットでのこぶしや繊細なラップも現れました。
声の勢いだけを一定に保つのではなく、一曲の中で複数の表情を使っています。
強い声と細かな声の動きを並べることで、単に大きく歌い続ける場合とは違う展開が生まれるのです。

「月食」と「main dish」――声の印象を、曲の性格に合わせる

2024年12月の17周年公演では、「月食」を艶のある男性的な声で歌った後、「main dish」では可愛らしい女性的な声へ移りました。
違いは、出せる声の見本を並べるためだけのものではありません。
切なさを感じさせる曲と、軽やかな表情を楽しむ曲で、似合う人物像が変わっているのです。

同じ夜の「赤い花」では、泣きそうな声色とファルセットが、ピアノからバンドへ広がる演奏に重なりました。
一番ではピアノと歌が前に出て、二番からバンドが加わる構成です。
伴奏の厚みが変わる中でも、声には泣き出しそうな感情が残る。
演奏が大きくなることと、歌の表情を強気にすることを、同じにはしていません。
男声か女声かに加え、その声がどんな気持ちを帯びているかにも耳を向けたくなります。

2024年12月の17周年公演(撮影:小島宏信)
2024年12月の17周年公演(撮影:小島宏信)。
画像出典:画像掲載元

舞台では、相手と気持ちまで合わせる

みのりと兄妹役を演じた「Delight」では、歌い方やミックス、動きまで、二人で話し合って作りました。
ピコが必要だと感じたのは、役として心を合わせることでした。
声の高さやタイミングだけが合えば、完成するわけではないのです。
音楽の得意な部分を持ち寄りながら、動きでは相手に助けてもらう。
一人で自由に歌える力を、二人の場面として成立させる難しさがありました。

同じ日のライブにも、違う深さがある

2022年の誕生日公演では、昼に「First Love」「ドライフラワー」をアコースティックで歌いました。
そこでは切なさを含んだ、深みのある声が印象を残しています。
一方、夜の「神っぽいな」ではファルセットを使い、絡みつくような表情も見せました。
穏やかな編成で気持ちを伝えることと、強い個性を打ち出すこと。
公演の性格に応じて、それぞれを選んでいたのです。

近年の「マクガフィン」でも、繊細な声から力強い声、透明感のある高音まで、曲の動きに沿った表情が並びます。
ロックの場だから強い声だけで押す、と決めてはいません。
強弱と音色を使って、演奏の変化へ応じる余地があるのです。

また、2023年の「Glorious Unseen」では、昔は張っていた高音を、力まず歌う姿も記録されています。

ピコの歌い方は、二つの声色を持つという説明から先へ進むと、さらに面白くなります。
張り上げる前に自分の声を聴き、曲ごとに感情の濃さを変え、言葉のために激しさを抑え、共演では相手と役の気持ちまで合わせる。
持っている声をどう選ぶかに、歌い手としての経験が表れています。

時期をまたいだ変化は、ピコの歌唱変遷でたどっています。

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