EGO-WRAPPIN’の中納良恵と、ピアノを弾きながら歌うソロの中納良恵。
二つの活動をたどるとき、歌の変化をどこに見つければよいのでしょうか。
2021年にソロ作品を聴き返した中納は、作品を重ねるにつれて考え方がシンプルになってきたと振り返っています。
2007年の『ソレイユ』で芽生えた、曲そのもののよさを追求したいという気持ちは、その後も続いていました。
そこで、声の勢い、響きへの意識、録音の方法、そして歌を届けたい相手に目を向けてみます。
バンドとソロを行き来する歩みを重ねると、変わった部分と、残り続けた部分が見えてきます。
初期の勢いから、2004年頃の響きへの関心へ
EGO-WRAPPIN’は、1996年に中納良恵とギターの森雅樹によって結成されました。
「色彩のブルース」へつながる時期、二人はトム・ウェイツの『ビッグ・タイム』に惹かれていました。
それまでのロック色に、ウッドベースやサックスの響きが加わっていきます。
昭和歌謡の再来という受け止められ方には、本人たちも戸惑ったといいます。
最初から昔の歌謡曲を再現するために始まった音楽、という捉え方では、この出発点を取り落としてしまいます。
一方、中納が2016年に初期の「サイコアナルシス」や「くちばしにチェリー」を振り返ったとき、挙げたのは勢いの強さでした。
自分たちの音への自信を、そのまま前へ出すように歌っていたのです。
本人が変化を感じたのは、2004年の『merry merry』頃。
歌っている自分の声が心地よくなり、倍音や音を切る瞬間に耳が向くようになったと話しています。
声を出した後に何が残るかまで、関心が広がっていきました。
バンド全体も、『Night Food』後のオーケストラとの公演を一つの区切りに、スタジオで音を作り込む方向へ関心を移していました。
『merry merry』は、従来のスウィングやビッグバンドのイメージを広げた作品です。
声への関心も、バンドの音作りとともに変わっていました。
2007年の『ソレイユ』で、ピアノと歌を中心に置く
初のソロアルバム『ソレイユ』では、ピアノ弾き語りで作った曲をもとに、七人の音楽家とそれぞれアレンジを進めています。
歌とメロディーとピアノを主役に、音を少なくした作りが中心でした。
ただし、向井秀徳と組んだ曲にはギターとドラムを効かせた異なる表情もあります。
ソロになれば一律に静かな歌になる、という単純な分け方ではありません。
どんな伴奏の中で自分の声を聴かせるかを、曲ごとに探せる場所が生まれたと見るとよさそうです。
その後、バンドでも力の配分への考え方が言葉になっています。
2010年の『ないものねだりのデッドヒート』で、中納は肩の力が抜けてきたことを語りました。
必要以上に頑張るのでなく、自分のできることを受け止める。
演奏側も、歌に寄り添うハーモニーを大切にしていました。
歌手一人が力を加え続ける以外にも、曲を前へ進める方法を見つけていた時期です。
2013〜2015年、歌う言葉と声の重なりが変わる
2013年作の「水中の光」について、ソロ活動が変化を生んだのかと問われた中納は、それ以上に東日本大震災の経験が大きかったと答えています。
シュールなものへの好みは残っていても、その時点で感じることを素直に受け止め、愛情を表に出せるようになった。
歌の変化には、編成だけでなく、何を言葉にして届けるかという変化も重なっていました。
同作のツアーでピアノを演奏した楽しさは、鍵盤ともっと向き合いたいという気持ちにもつながりました。
2015年の『窓景』へ向けては、声を重ねたり、グラスを叩いたり、物を揺らしたりと、手元でできる方法から音を作っています。
大きな機材を使いこなすことから始めたのではなく、自分で出せる音を組み合わせる試みでした。

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『窓景』で本人が望んだのは、自分の声をもっと聴き、その声に包まれながら曲を形にすること。
華やかなギターも鳴るEGO-WRAPPIN’での歌とは、声の置き方を変えたかったのです。
歌う自分の後ろにも自分の声が重なる。
声はメロディーを運ぶと同時に、曲全体の空間を作るものにもなっていきます。
「あのね、ほんとうは」―2014年10月24日、横浜・大さん橋ホール
2019年、音になじませるために歌を聴き直す
『Dream Baby Dream』では、録った歌を聴き、伴奏とのなじみ方を確かめる作業が重視されました。
「L’amant」は、バンドで合わせていたときにはなじんでいたのに、録音すると声が音から浮いてしまった曲です。
中納はそこで、感情を抑え気味にする方向を選んでいます。
声の存在感を調整することが、本人の具体的な課題になっていました。
2021年の『あまい』で、声と身体を見つめ直す
2021年、中納はその約三年前に声を潰し、初めてボイストレーニングに通い始めたと明かしています。
どこで声が鳴るかや、身体の使い方へ意識を向けるようになったといいます。
『あまい』を作ろうという考え自体は、コロナ禍になる前からありました。
そこへ外出や人との接触が制限される時間が重なり、家での曲作りに集中していきます。
本人は当時、刺激を増やすより、静けさや落ち着きを求めていました。
ピアノに自分の声を重ねることは、その中で気持ちを外へ出す行為でもあったのです。
制作はドラマーの菅沼雄太、エンジニアの中村督との小さな体制を軸に始まりました。
ピアノと歌だけでできることの大きさを改めて感じた中納は、出発点になったピアノの音を、最後まで大切にしています。
音を減らすことが、自分の歌をもう一度中心に据えることと結びついていました。
『あまい』で穏やかさを求めた理由についても、本人は、声を張り上げる歌から少し離れ、騒がしい世界で安らぎを感じてもらいたかったと語っています。
静かな声を選ぶことにも、届けたいものがありました。
「あなたを」―Film Live『sweetrip』(2021年)
2023年以降も残る熱さと、新しい作り方
穏やかなソロを作った後も、ライブの強い歌は続いています。
2023年4月9日の中野サンプラザ公演では、森のアコースティックギターと二人で聴かせる「Finger」「admire」などに続き、「Nervous Breakdown」で力強い歌へ移っていきました。
「くちばしにチェリー」も大きな盛り上がりを担っています。
同じ公演に、音を引いた表現と、バンドを前へ押す歌が並んでいました。
同年の「ハッピー☆ブギ」では、さかいゆう、趣里との歌唱にも参加しました。
服部隆之は作曲中から中納とさかいの起用を考え、自然体で力強い声を評価しています。
長く育ててきた歌の力は、別の作り手の曲でも求められていたのです。

森雅樹(左)と中納良恵(右)。
画像出典:画像掲載元
2025年の「AQUA ROBE」「Treasures High」では、森が先に作ったトラックへ、中納が家でメロディーと歌詞を乗せる方法を試しています。
一方、本人は同じ年に、ライブをさらりと洒落たものにはできないとも話していました。
作り方を更新しながら、ステージで湧き上がる熱さは持ち続ける。
中納良恵の歩みは、強い歌を捨てる歴史ではなく、声を置く場所と選べる表情を増やしてきた歴史として捉えられます。
具体的な曲の中で、響きや声の重なりをどう選んでいるのかは、中納良恵の歌い方で掘り下げています。

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