アンディ・デリスの歌い方|ざらつく声と高い旋律を、曲と相手に合わせる工夫

2021年公開、再集結を語る取材でのアンディ・デリスとハロウィン/写真:Franz Schepers アンディ・デリス(Helloween)
2021年公開、再集結を語る取材でのアンディ・デリスとハロウィン/写真:Franz Schepers

アンディ・デリスの声には、一度覚えると耳に残るざらつきがあります。
その個性を持ちながら、高い旋律を歌い、バラードを担い、ミヒャエル・キスクの声の上へハーモニーを重ねる。
同じ歌手の中で、それらはどうつながっているのでしょうか。
声の質感、高さの選び方、ほかの歌手との合わせ方を、具体的な曲と録音の工夫から見ていきます。

ざらつきが、旋律の輪郭になる

デリスの歌には、ハードロックらしい粗い手触りがあります。
「Master of the Rings」で示したのは、メロディーの中にも強い癖を残す声でした。
「Perfect Gentleman」のように遊び心のある曲では、その個性が、バンドのユーモアともよく結びついています。

Perfect Gentleman(1994年発表曲・公式HD版)

「My God-Given Right」でも、歌詞を勢いよく押し出す歌唱が目立ちます。
声の印象には、キスクと、スコーピオンズのクラウス・マイネの間を思わせるという見方もあります。
高いメタルの旋律を担う力と、言葉に独特の色をつけるハードロックの感覚が、同じ声にあるのです。

ざらつきは、ここでは聴き手に届く音色の呼び方です。
その一語から、喉のどの部分をどう動かしているかまで決めることはできません。
デリスの歌を捉える手掛かりになるのは、その質感を残したまま、旋律や曲の性格にどう応じているかです。
整った音程と、癖のある音色は、同時に成立します。

デリス自身、歌の抑揚や荒さについて、決まった方式に従うというより、作曲しているときの気持ちに沿って歌うと説明しています。
先に声の型を決めて曲を当てはめるより、曲を作る過程で、ふさわしい表情が生まれる。
作曲者でもあることが、歌い方へ直接つながっています。

2025年公開の取材に登場したアンディ・デリスとハロウィン
2025年公開の取材に登場したアンディ・デリスとハロウィン。
画像出典:画像掲載元

高い声を使う理由が、曲の中にある

ソロの「Back Again」について、本人は、低く歌うと曲が失うものが大きいと話しました。
高く歌う必要を感じない曲もある一方で、高さがその曲の良さを支えている場合もあります。
デリスの選択は、どれだけ高音を出せるかという競争より、旋律にどんな感触を残したいかに結びついています。

「Into the Sun」には、その判断がよく表れています。
実は前のアルバムの時点で録音されており、旋律が高いとして、別のキーを試す提案がありました。
しかし、試すとハロウィンらしさが薄れたと感じ、デリスは発表を待つことにしました。
バラードでも高い旋律を歌うことは、彼にとって曲の個性を守る選択だったのです。

2025年作に収まった「Into the Sun」は、デリスとキスクのデュエットです。
キスクの大きく広がる力と、デリスの押し出しが組み合わさり、二人の歌が曲の大きさを作っています。
声の性格が異なるからこそ、同じバラードの中でも、一人ずつが担う表情が生まれます。

Into the Sun(2025年・公式配信音源)

この例では、声の高さと、誰の声で歌うかという二つの選択が重なっています。
キーを変えれば、出しやすさだけでなく、旋律の印象も変わる。
さらに相手の声が入れば、同じ曲に別の色が加わる。
デリスの高音は、単独の見せ場として数えるより、曲全体の表情の中に置くと、その役割が分かりやすくなります。

キスクと重ねるために、音の動きまで合わせる

「Giants & Monsters」では、キスクの主旋律にデリスが上のハーモニーを重ねています。
難しかったのは、キスク独特の、音の高さを滑らかに動かす歌い方へ合わせることでした。
上の音を正しく歌うだけでなく、相手の旋律の動きに沿って歌う。
キスクもデリスの歌へ声を重ね、互いの歌い方を受け止めています。

一人で二回歌って重ねる場合、自分の節回しが基準になります。
別の歌手へ重ねるときは、基準が相手へ移ります。
どの音へ向かい、どんな動きでそこへ着くかまで合わなければ、二つの声が別々に動いてしまうからです。
デリスの個性を消してしまう作業ではなく、その個性を、相手の旋律と一緒に動かす工夫といえます。

2021年作の「Out for the Glory」では、デリスとキスクが、互いに相手のほうが合うと考えたこともありました。
最終的な歌の振り分けには、プロデューサーのチャーリー・バウアファイントが関わっています。
自分の声でどこまで押し切れるかに加え、曲に合う声を外側から判断してもらうことも、録音を成立させていました。

このバンドでは、歌える人が増えるほど、選べる歌い方も増えます。
一人の音色でまとめるのか、途中から別の声へ渡すのか、二人を重ねるのか。
デリスの歌唱力は、単独で歌う部分と、ほかの声へつなぐ部分の両方に表れます。

声を選び、組み合わせる発想は、制作にも表れます。
「The King for a 1000 Years」などの冒頭の語りには、デリスが声を気に入った知人の男性を起用しました。
合唱の響きには、彼自身が音のサンプルを組み直したものも使われています。

言葉の響きと、歌の入りやすさを選ぶ

「This Is Tokyo」は、日本への感謝を込めた曲です。
サビに「Japan」ではなく「Tokyo」を選んだ理由を、デリスは、そのほうが歌の中で響きがよいからだと説明しました。
伝えたい意味を決めたうえで、旋律に置いたときの言葉の響きも選んでいます。

意味が近い言葉でも、歌に乗せたときの印象は同じになりません。
デリスにとって、歌詞を書くことは、歌う声を用意することでもあります。
大きな声で押し出す前に、どんな言葉ならサビとして気持ちよく響くかを考える。
この順序に、親しみやすいメロディーを作ってきた歌手らしさがあります。

自作曲では自然に歌が進む一方、ほかのメンバーの新曲を歌うときには、さらによい歌を届けようと奮い立つとも話しています。
作者としてつかんでいる曲と、仲間から受け取る曲では、マイクへ向かうときの気持ちが違うのです。

長い公演では、声を渡すことも歌唱の一部になる

デリスは、異なる歌い方を公演で行き来することに、負担があったと説明しています。
強い胸声で押し続ければ、別の歌い方へ戻りにくくなるという感覚も語りました。
現在はキスクと分担でき、自分の曲にふさわしい声へ集中しやすくなっています。

2025年8月公開の取材に登場したアンディ・デリス
2025年8月公開の取材に登場したアンディ・デリス。
画像出典:画像掲載元

三人が歌える体制は、予定どおりに進まない公演でも支えになります。
キスクが歌えなかった公演では、デリスとカイが「Future World」や「Eagle Fly Free」を引き受けたといいます。
普段は分け合い、必要なときには補い合う。
長いステージを保つ方法が、歌手個人の力に加えて、編成の中にもあるのです。

デリスの声を特徴づけるのは、ざらつきや高音だけでなく、それをどの曲で、どの声とともに使うかという判断です。
曲の感情に沿って荒さを出し、高い旋律を残し、相手の音の動きへ寄り添う。
自分の声をよく知ることと、曲のために歌い方を動かせることが、その歌唱を支えています。
こうした選択が活動の中でどう広がったかは、アンディ・デリス(Helloween)の歌唱変遷でたどっています。

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