ブリトニー・スピアーズの歌声の変遷|同じ声で、違うポップを作り続ける

2016年の公式記事に掲載されたブリトニー・スピアーズ シンガー
2016年の公式記事に掲載されたブリトニー・スピアーズ

ブリトニー・スピアーズの歌には、少しざらついた甘い声という、強い印象があります。
けれど、その声が担ってきた役割は一つではありません。
旋律を印象づける声、ダンスのリズムに溶け込む声、静かに感情を伝える声。
作品をたどると、同じ人だと分かる個性を残しながら、その使い方を変えてきたことが見えてきます。

1998〜2000年――甘さだけではない、ざらついた声で始まる

「…Baby One More Time」でブリトニーが求めたのは、滑らかに整った声だけではありませんでした。
本人は後に、少し錆びたような声で、伴奏のリズムと一体になりたかったと振り返っています。
初めから、どれほど大きな声を出せるかより、この曲にどんな手触りの声を置くかを考えていたのです。

初期の作品にも、複数の表情があります。
「…Baby One More Time」や「(You Drive Me) Crazy」の少しかすれた勢いに対し、「Sometimes」や「From the Bottom of My Broken Heart」では、もろさを感じさせる歌が前に出ます。

デビュー時の歌を一種類の甘い声としてまとめてしまうと、その後の変化も見えにくくなります。
強く迫るのか、ためらいを残すのか。
曲の人物によって声の印象を変える余地は、初期からありました。

2001年――旋律の分かりやすさから、身体が動くリズムへ

3作目『Britney』では、ネプチューンズが手がけた「I’m a Slave 4 U」や「Boys」が、従来のポップとは違う方向を示します。
「I’m a Slave 4 U」は息遣いを伴う軽い声を打ち出し、「Boys」はファンクのリズムへ近づきました。
歌の印象を変えたのは、題材や衣装ばかりではなく、声を乗せる音楽そのものでもあったのです。

一方、同じアルバムの「I’m Not a Girl, Not Yet a Woman」では、成長の途中にいる気持ちを、バラードとして歌っています。
当時の批評でも、この歌の率直さは評価されました。
大人びたダンス曲へ全面的に置き換わったというより、声で演じる人物の幅が広がった時期です。

2003〜2004年――近くでささやく声と、切り替わる声

『In the Zone』の「Breathe on Me」は、近づきそうで近づかない緊張を、息やささやきの感触に結び付けた曲です。
作曲者のスティーヴ・アンダーソンによれば、曲の着想は制作当日の朝に生まれ、デモのプログラミングを生かして、マーク・テイラーがブリトニーの歌を録音しました。
緻密に動く伴奏の中で、声の近さを際立たせる方向が広がっています。

同作の「Everytime」では、空気を含む薄い声が、静かなバラードを支えます。
「Breathe on Me」と同じく軽い声を使っても、親密さの意味は変わります。
ダンス曲の緊張と、静かな歌の心細さに、軽い声を使い分けています。

「Toxic」では、軽い高音と、鋭さのある声が一曲の中で切り替わります。
声色の変化そのものが、曲の場面を進める働きを持ちました。

この時期には、甘い声を残すか捨てるかという二択を越えています。
一枚の中で違う声を試し、一曲の中でも表情を変える。
ブリトニーらしさは、固定された一つの声から、声を切り替える楽しさにも広がっていきました。

2003年9月、NFL開幕イベントのブリトニー・スピアーズ(撮影:Seth Rossman/U.S. Navy)
2003年9月、NFL開幕イベントのブリトニー・スピアーズ(撮影:Seth Rossman/U.S. Navy)。
画像出典:画像掲載元/Public Domain

2007年――『Blackout』で、声をダンスの動きへ組み込む

『Blackout』について、ブリトニーは、ダンジャとの制作で新しい音楽の影響を取り込み、以前とは違う形で声を伸ばせたと振り返っています。
細かく計画し尽くすより、その場で感じたことを歌へ移していく制作でした。
「Gimme More」の会話に近いヴァースも、旋律を長く伸ばす歌とは異なる、言葉のリズムを前へ出す表現です。

ダンジャが覚えているのは、録音中にも身体を動かしていたブリトニーの姿です。
「Gimme More」や「Get Naked」の音に反応し、歌う時にも曲の動きとつながっていました。
最初に作って録音したのは「Break the Ice」で、ケリー・ヒルソンとジム・ビーンズが作詞や歌の組み立てに関わっています。

歌手と作家、編曲する人が共同で作る録音では、声も伴奏から独立した飾りではなくなります。
身体が反応するリズムを、言葉の置き方へ返していく。
ダンジャの証言からは、ブリトニーがそのやり取りの中にいたことが分かります。

2011年――電子音と一体になった声を、どう受け取るか

『Femme Fatale』では、電子的な加工とダンスのリズムが、さらに強い印象を持ちます。
「How I Roll」の軽やかな遊びや、「Trip to Your Heart」の細かく揺れる電子音と加工された声が、その具体例です。
一方、当時の批評には、制作の仕掛けが強すぎて、歌手本人が何を持ち込んでいるのか見えにくい、という厳しい意見もありました。

声を一つの音素材として使う面白さは、歌手の個性が埋もれているという評価にもつながります。
この時期の変化を、歌が上達したか衰えたかだけで説明するのは適切ではありません。
声の表情をどこまで前に出し、どこまで電子音と混ぜるかという、作品の作り方も変わっていたからです。

2016年――『Glory』で、歌い方を試す余地を広げる

『Glory』の制作は、最初から順調だったわけではありません。
ブリトニーは初期に作った曲に手応えを持てず、新しいA&R担当者と方向を見直したと話しています。
そこで本人が望んだのは、声をもっと使い、ブルースやR&Bに近い方向も含めて、歌い方を試すことでした。

「Make Me…」を手がけたバーンズも、声から感情が伝わることを重視しました。
加工の強い響きを前面に出すより、自然に感じられる歌へ近づけるため、録音に時間をかけています。

ブリトニーはこの時期、誰と作りたいかを具体的に考え、自分が望まないものには断ることも学んだと語っています。
若い頃の声へ戻すというより、今の作品で何を歌いたいかを選び直す転機でした。

ただし、『Glory』は加工を捨てたアルバムではありません。
「Invitation」では、小さく揺れるささやきが、作り込まれた音の中心に置かれます。
「Clumsy」には、声の短い動きと電子音がぶつかる遊びもあります。
歌の感情を見せることと、音で遊ぶことが、同じ作品に共存していました。

2016年9月、ロンドン公演でのブリトニー・スピアーズ(撮影:Drew de F Fawkes)
2016年9月、ロンドン公演でのブリトニー・スピアーズ(撮影:Drew de F Fawkes)。
画像出典:画像掲載元/CC BY 2.0

2022年――「Hold Me Closer」で、自分の声を再び持ち込む

エルトン・ジョンとの「Hold Me Closer」では、長く新しい録音から離れていたブリトニーが、再び歌声を届けました。
制作に関わったデヴィッド・ファーニッシュは、本人が好みや望む音を具体的に伝え、仕上がりにも意見を出していたと話しています。
久しぶりの歌を任された場面でも、用意された形をただ受け取るだけではありませんでした。

プロデューサーのアンドリュー・ワットは、その裏声に「Toxic」と通じる個性を感じています。
録音場所も、慣れた薄暗い個室とは違いました。
大きな一部屋でワットと話し合いながら歌う形に戸惑いつつ、本人はそのやり取りを楽しんだといいます。
昔から知る声を、新しい相手と作り直す時間が生まれていました。

初期に求めたざらつき、ダンス曲での言葉の動き、静かな歌の軽さ、録音で試す新しい表情。
その歩みを並べると、ブリトニーの変遷は、ある時期の声を失って別の声になったという話には収まりません。
何を強く聞かせ、何を伴奏へ混ぜるかを、その都度変えてきた歌手です。
変わらず本人だと分かる声の中で、歌の役割は何度も作り直されてきました。

声のざらつき、息、発音、曲中の切り替えは、ブリトニー・スピアーズの歌い方で詳しく見ていきます。

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