小学生からの友人の結婚式で歌うため、YONCEは2022年に「Marry」を書きました。
本人によれば、歌詞は友人へ手紙を書くように、10分ほどでできたそうです。
Suchmosでは初めてというほど個人的な言葉を、バンドの歌にしたのです。
その7年前、デビューアルバム『THE BAY』を出す頃のYONCEは、今の自分に余裕がないのに「みんな仲よく」とは歌えない、と話していました。
さらに2019年には、自分の暗い気持ちをメンバーに見せ、歌にしてよいのか迷っています。
「Marry」に至る変化は、声を高く出せるようになったという話ではありません。
誰に向けて、どんな本音を、どんな場で自分の声にできるのか。 歌う言葉と届け方が、曲やステージを重ねて広がっていった話です。
2015〜16年|「今の自分」が言えない言葉は歌わない
2015年の『THE BAY』を発表する直前、YONCEはSuchmosの歌詞について、自分たちの余裕のない暮らしから出てくる不満を歌っていると説明しました。
失業保険で暮らしていた時期に書いた「Alright」は、事情を知らずに「働け」と言う人への反発から生まれています。
きれいな一体感を先に掲げるより、そのとき実際に抱えていた怒りを歌う。
当時の彼にとって、それが嘘をつかない方法でした。
歌詞は身近な不満から始まっても、ステージでは引っ込むつもりはありませんでした。
当時の取材でYONCEは、歌唱ではMISIAやアダム・レヴィーンを理想に挙げる一方、歌っていない間も目を引くフロントマンに憧れると話しています。
自分の気持ちから離れない言葉を選び、歌うときには客席の前に堂々と立つ。この二つは初めから同居していました。
ただし、怒りを毎回同じ強さでぶつけたわけではありません。
翌2016年、EP『LOVE&VICE』の取材では、特定の誰かを狙い撃ちにするより、聴き手が少し引っかかる程度の言葉を望んでいると話しています。
ヒット曲「STAY TUNE」はそのEPの一曲です。
曲ごとに言葉の鋭さを選びながらも、「今の自分から自然に出るもの」を重んじる姿勢は変わりませんでした。
その年の夏には、歌そのものについての手応えも言葉にしています。
YONCEは、以前より自分の歌と「ノリ」をバンドにしっかり示せるようになったと話し、タイトなメンバーの演奏の上を自分は泳ぐように歌うと説明しました。
音源ができても曲は完成しないと考え、ライブでは毎回アレンジを変えていたともいいます。
その日の演奏の中で自分のノリを示す。これが2016年に本人が語った、バンドの中での歌い方です。
2018年|広い場所で歌う言葉には、責任が伴った
Suchmosの聴き手が増えると、歌の届く範囲も、作る際の注文も変わります。
2018年の「VOLT-AGE」は、NHKのサッカー中継のテーマとして作られました。
YONCEは後に、それまで身近な出来事や自分たちが美しいと感じたものを歌ってきたため、指定された題材に応えるのは難しかったと振り返っています。
それでも、求められたものをただなぞるのではなく、自分たちの方法を貫きながら形にできたと受け止めました。
その夏のフジロックでは、Suchmosはロック寄りの新曲を多く演奏しました。
現地の記者は「WIPER」でYONCEの高音に少しかすれを感じ、その日の硬派な演奏に似合う声と評しています。
「VOLT-AGE」の制作で自分たちの方法を守ろうとしたのと同じ年、ステージでも、以前のヒット曲の印象に収まらない歌を届けていました。
同年のミニアルバム『THE ASHTRAY』には「ONE DAY IN AVENUE」もあります。
YONCEが気にかけたのは、社会の中で見過ごされやすい小さな声でした。
胸の内にあったもやもやをこの曲に出した以上、もう無責任には歌えない、と本人は話しています。
最初は身の回りの不満を歌っていた人が、より広い場所で、歌った言葉の重さを引き受けるようになった。
「VOLT-AGE」の外からの注文と、「ONE DAY IN AVENUE」の内から出た言葉は別の曲ですが、どちらも歌を届ける相手が増えた時期の出来事です。
2019年|見せたくなかった気持ちにも「歌っていい」と言えた
『THE ANYMAL』の制作では、メンバーが出してくる音や曲の展開に、自分が何を歌えばよいのか、YONCEには見えなくなっていたといいます。
後の取材で、メンバーに見せたくない自分の部分があり、それを歌にすべきではないと思い込んでいたと明かしました。
転機は録音の途中に来ました。
暗い気持ちが今の自分から出てくるのなら、それも歌ってよいと考えられるようになったのです。
「Hit Me, Thunder」について、YONCEは、相手を完全に理解できなくても一緒にいる意味はある、という思いを語っています。
同曲の制作を振り返ったラジオ番組では、YONCEが歌の録音を何度もやり直したと伝えられました。
音数を抑えた曲の中で、この言葉をどう声にするかにも時間をかけていたことがうかがえます。
かつての「Alright」が外から向けられる決めつけへの反発だったなら、こちらは近しい相手との隔たりを抱えたまま歌う曲です。
同じ時期の先行曲「WATER」については、音楽ライターが、YONCEが地声とファルセットを行き来して歌っていると評しています。
『THE ANYMAL』での歌を一つの暗い声色にまとめることはできません。
隠していた感情を録音した時期にも、一曲の中で異なる声の出し方を選んでいました。
同じ『THE ANYMAL』には、世界や暮らしへの問いを歌詞にした「In The Zoo」も収録されました。
社会を見る目が消えて、私的な歌に入れ替わったのではありません。
人に向ける言葉に、自分でも見せたくなかった感情が加わったのです。
翌2020年、本人は作詞の根本はあまり変わっていない気がすると述べつつ、年齢とともに自分へ問いかける材料や視点が増えたとも話しています。
2022〜25年|一人への手紙が、Suchmosの歌になった
「Marry」の出発点は、バンド再始動のための曲作りではありません。
YONCEは2022年、幼い頃からの友人の結婚式で歌うために書きました。
結婚する二人の幸せを願いながら、年齢や立場を超えて友人のような関係でいられる、という自分の理想も込めています。
2015年には、自分の実感を伴わない優しい言葉は歌えないと話していた人が、ここでは具体的な友人へ、自分の実感を伴う祝福を届けます。

YONCEがデモをドラムのOKに聴かせると、バンドで演奏しようという話になりました。
編成は広がっても、歌詞は最初に書いたものから変えていません。
2025年6月の再始動公演では、YONCEがアコースティックギターを弾きながら歌いました。
翌7月にはSuchmosのEP『Sunburst』の一曲として発表されます。
その場を取材した記者は、まっすぐな言葉を率直に歌う姿に心を動かされたと記しています。
同じ日のステージには、別の届け方もありました。
「MINT」では横浜に帰ってきたことを告げる言葉を歌に差し込み、アンコールの「Stand By Mirror」では叫ぶように歌ったと、公演を取材した記者は書いています。
2016年に話した、ライブで自分のノリを示すフロントマンの姿も残っています。
そこに、アコースティックギターを持ち、友人へ書いた私的な言葉をまっすぐ歌う時間が加わりました。
同じ公演でSuchmosは、初期の「Alright」も演奏しました。
不満から生まれた歌を手放して、優しい言葉だけを選ぶようになったのではありません。
2019年には隠したかった気持ちを歌にでき、2025年には友人に書いた私的な歌を大きな会場でも歌った。
YONCEの変化は、声の一つの型が別の型に置き換わったことではなく、自分が引き受けられる言葉と、それを声にして届ける方法が増えたことに表れています。
冨田ラボやMirage Collectiveとの共演で、ほかの作り手がYONCEの声のどこに惹かれたかは、YONCEの歌い方の記事で扱っています。







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