三森すずこの歌声は、年を重ねて落ち着いた、と説明するだけでは少し足りません。
低い声の表情が広がる一方で、デビューから10年を迎えたときには、初期の張りのある歌い方をあらためて選んでいます。
歌える声が増えたからこそ、もう一度選べるようになった「かわいい」。
その歩みをたどると、明るいポップスの中にも、一曲ごとに違う三森すずこが見えてきます。
2013〜2014年|明るい恋の歌から、控えめな気持ちへ
2013年のソロデビュー曲は「会いたいよ…会いたいよ!」。
それまでユニットで歌う機会の多かった三森には、互いに補っていた役割を、一人で引き受ける不安もありました。
目指していたのは、子どものころから好きだったYUKIのように、かわいらしさと独特な個性を併せ持つ歌手です。
ただ、自分の思う姿と周囲のイメージには違いがあり、最初の見せ方は制作陣に委ねています。
デビュー曲では、普段以上に女の子らしさを前に出すことに照れを感じながらも、その明るい世界を楽しんでいました。
踊ると自然に表情がほころぶとも語っており、歌とダンスは初めからつながっています。
舞台で身につけてきた表現を、ソロのポップスへ持ち込む出発点でした。
翌2014年の『好きっ』では、恋の相手だけでなく、家族や友人、ファンへと歌の向かう先が広がります。
中でも「恋のキモチは5%」は、それまでのはつらつとした恋愛曲とは違い、控えめな気持ちを扱った曲でした。
本人が望んでいた、少し懐かしく落ち着いた曲調でもあります。
まだ最初のアルバムの段階で、好きという気持ちを大きく押し出す歌と、そっとしまっておくような歌の両方を試していたのです。
2015〜2016年|歌の中で、別の人物にもなれる

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2015年の『Fantasic Funfair』は、遊園地を舞台にしたアルバムです。
初作で伝えた親しみやすい姿から、ロックや電子音を使った曲へと世界を広げました。
「Heart Collection」で三森が演じるのは、お化け屋敷にいる孤独な女性の霊。
本人にとっても未経験の曲調でしたが、悪役になったような気持ちで歌うことを楽しんでいます。
これは、明るい声を暗い曲へそのまま持っていくという話ではありません。
歌の主人公が変われば、その人物の目線へ入っていく。
三森は、一つの姿に自分を固定せず、違う人物に変われることを心地よく感じていました。
声優としての演じる感覚が、ソロでも曲の表情を増やしていきます。
この広がりを支えたのが、アルバムに一つの舞台を設定したことでした。
三森は、普段と違う曲でも、遊園地という世界の中なら自然に歌えると考えていました。
作家には細かな筋書きまで指定せず、アトラクションなどのイメージを伝え、自分が歌うことで一つの物語へまとめる。
作品の枠があることで、むしろ自由に表現できるという発見です。
歌手自身のイメージを守ることから、作品の中でいくつもの姿を見せることへ、発想が広がっていました。
もっとも、そこから一直線に大人っぽい路線へ向かったわけではありません。
2016年の『Toyful Basket』では、格好よい曲が続いたあと、かわいらしい側面も楽しめる作品を考えていました。
三森には、まず作品の世界やテーマがあったほうが、表現を組み立てやすい感覚があります。
幼いころから親しんだミュージカルのように、その世界の中で何をするかを想像する。
歌の幅は、ひとつの声色を磨くだけでなく、居場所の違う歌を経験することで広がっていました。
2018年|低い声と、きれいに整えない歌への挑戦
『tone.』を発表した2018年には、本人が低い音を出せるようになり、歌える幅が広がったと感じています。
この時期に格好よい曲が増えた背景には、『ラブライブ!』の園田海未の歌を通して、そうした三森も見たいというファンの気持ちを受け取ったことがありました。
キャラクターとして試した声の魅力が、ソロで求められる表現にもつながっていったのです。
三森自身も、そのころには格好よい曲を歌う爽快さを実感していました。
初期の明るさに、低い音を扱える手応えが加わる。
『tone.』にさまざまな作家が参加したのは、その広がりを違う色の曲で見せる機会にもなりました。
HISASHIが手がけた「比翼の鳥」では、さらに歌い方そのものを選び直しています。
サビを裏声で歌おうとした三森に求められたのは、地声のまま、苦しさが残るように表すことでした。
高い音をきれいに処理するだけでは伝わらない感情がある。
その経験は、普段の自分が歌いやすい方向から離れる挑戦でした。
2019年|声の厚みと、力を抜いて聴ける作品
2019年の「チャンス!」は、2014年の「グローリー!」と並べると、本人の変化の捉え方がよく分かります。
三森は昔の声を細く感じる一方、現在は厚みと落ち着きが増したと話していました。
高音を保ちながら、低い声の役も増えていました。
同じ2019年のミニアルバム『holiday mode』では、忙しい日々の合間にほっとできる作品を目指しています。
音を詰め込みすぎない曲を選びましたが、録音は細部まで気を配る作業だったと振り返っています。
元気を届けるだけでなく、聴き手が休める時間も作る。
作品を通して届けたい気分の幅が広がった時期です。
2021年|周囲の作り手も、違う表情を求めるように
2021年、tokuの作品に参加した「君影草」では、作り手の側から違う三森像が示されました。
tokuは彼女のライブを見て、元気なポップスの印象を持ちながらも、和の旋律で悲しげな曲を歌えば魅力が出ると考えていたのです。
そこから生まれたのが、はかなさを帯びたこの曲でした。
歌手自身が新しい曲を求めるだけでなく、その声を知る作り手からも、別の役割が託されるようになっています。
2023〜2024年|昔の声へ戻るのではなく、今の自分で選ぶ

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2023年のベストアルバム『RPB』に加わった「大きな愛で君を抱きしめよう」は、その歩みを考えるうえで大切な曲です。
デビュー曲も手がけた畑亜貴と太田雅友の組み合わせで、三森が求めたのは、初期を思わせる明るく弾む曲でした。
近年は地声に近い歌い方が多くなっていましたが、この曲では、高いところでも張りのある声を選んでいます。
録音で思い出したのは、初期にもっとかわいらしく歌うよう求められた経験でした。
10年を経て、同じ方向をあらためて試す。
落ち着いた声も使える今の自分が、明るい表情をもう一度選ぶのです。
初期の歌い方が、過去のものにならず、現在の選択肢として残っています。
同年10月の10周年ライブも、歩みを順番に並べるだけの公演ではありませんでした。
ダンスを交えたポップな場面から、アコースティックの演奏へと切り替わり、「星屑のカーテン」では優しい歌唱を、「アレコレ」では語りかける声を届けています。
これまでに増えた表現が、ひとつのステージの中で行き来できるようになっていました。
2024年のバースデーイベント「みもパ!ハピバ!」でも、アコースティックで「サキワフハナ」を披露しています。
原曲よりゆったりしたテンポの中で、歌声の伸びやかさを生かす場面になりました。
同じ歌でも、演奏の形を変えれば、声を受け取る距離も変わります。
三森すずこの変遷には、明るい声を卒業するような区切りがありません。
低い声の厚み、物語に入る表情、語りかける歌、そして張りのあるかわいらしさ。
それぞれが残り、次に歌う曲によって選ばれていく。
デビュー曲の明るさも、今ではその豊かな選択肢のひとつとして続いています。
曲ごとの地声と裏声の選び方は、三森すずこの歌い方で詳しく扱っています。

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