BIBIの歌声の変遷|激しい声と柔らかな声が、一つの物語になるまで

『EVE: ROMANCE』期のBIBI(2025年、写真提供:Feel Ghood Music) BIBI
『EVE: ROMANCE』期のBIBI(2025年、写真提供:Feel Ghood Music)

「BIBI Vengeance」と「Bam Yang Gang」が、同じ歌手の曲だと知って驚いた人もいるでしょう。
BIBIは、激しさと柔らかさの間で、どんな歌を選んできたのでしょうか。
作品の中で演じる人物と、歌声の関係から、その歩みをたどります。

2019年|自分の居場所を、歌の中に作る

BIBIは、SoundCloudへ投稿した曲がユン・ミレの目に留まり、音楽活動の道を開きました。
2019年には「BINU」でデビュー。
韓国語で石けんを表す題名には、新しい自分になるという意味も重ねられていました。

もともとは、ロックとヒップホップに親しみ、ラッパーを目指していたといいます。
ただ、自分のラップには納得できず、ラップの曲で歌う方向へ進みました。
歌とラップを行き来する現在の表現には、どちらか一方だけに収まらなかった、この出発点があります。

「BINU」に込めたのは、周囲のうわさや、自分の中にある不安を洗い流すような感覚でした。
デビュー曲から、明るい自己紹介だけで終わらない。
他人にどう見られるかという問題を、自分の言葉で歌にする姿勢が表れています。

2021年|短い歌の中で、言葉と人物を動かす

EP『Life Is a Bi…』には、2018年頃から書いていた曲も含まれています。
曲を発表しようと準備する中で、自分自身と、それまでの人生を振り返るようになったといいます。
曲を作る以上に、歌詞を書くことへ時間をかけた作品でした。

この作品では、韓国語だと強く響きすぎると感じた言葉を、英語で表す選択もしています。
ユン・ミレに見てもらいながら、文法だけでは割り切れない詩的な表現も残しました。
言語を変えることが、曲の中で感情をどの距離から見せるかという選択になっていたのです。

表題曲「Life Is a Bi…」には、ローファイなR&Bとトラップのリズムを背景に、歌とラップを交える表現があります。
BIBIは作詞・作曲だけでなく、作品の構想や衣装にも参加。
どんな人物が、どんな世界で歌うのかまで、声と一緒に考えていました。

同年、アメリカのフェス「Head in the Clouds」では、「The Weekend」を披露します。
一曲を通して英語で歌うステージは、本人にとって初めての経験でした。
準備を重ね、新しい自分を見せたいと話していたBIBI。
自分の中で作ってきた人物を、大きな海外の客席へ届ける段階に進んだのです。

この曲との出会いは、仲間と英語のデモを聴いていた夜でした。
曲が流れると皆が踊り始め、BIBIもすぐにブースへ入って録音したといいます。
2022年のコーチェラでは、自分を見いだしたユン・ミレと特別版を披露。
個人で投稿していた歌が、仲間と一緒に大きな舞台を動かす歌へと広がりました。

2022年|一人の人物を、アルバム全体で演じる

『Lowlife Princess: Noir』では、歌の世界がさらに大きくなります。
中心にいるのは、架空の人物オ・グムジ。
BIBIは、愛されたい気持ちや、自分の弱さを出発点に、この人物を作りました。
怒りだけを借りた強い主人公ではなく、愛を求める心が奥にある人物です。

前半では、外から見た人物の激しい行動を描き、後半では内面や愛情へ近づく。
本人が説明するこの構成は、同じ激しさを最後まで押し通さない理由にもなっています。
強い言葉の後ろに弱さが見えるから、歌声の表情を変える意味が生まれます。

実際の曲でも、声の役割は大きく違います。
「Animal Farm」の旋律を歌う声、「Lowlife Princess」のラップ、「BIBI Vengeance」の鋭い叫び。
一つの声質を磨いて全曲に当てはめるより、人物の違う面を、別々の歌い方で示した作品でした。

この構想を守るため、BIBIは作品に自分の資金も投じています。
音楽と映像を結びつけた世界を、途中で妥協したくなかったからです。
作風が以前と変わることを自覚しながら、自分にとって誠実な成長として受け止めていました。

2022年の取材記事に掲載されたBIBIの写真作品(写真:Ruo Bing Li/Saint Luke Artists)
2022年の取材記事に掲載されたBIBIの写真作品(写真:Ruo Bing Li/Saint Luke Artists)。
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2024年|「Bam Yang Gang」で、柔らかな声が前へ出る

2024年の「Bam Yang Gang」は、チャン・ギハが作詞・作曲・編曲を手がけた曲です。
柔らかなサビと、親しみやすい小さな物語。
大がかりな復讐劇とは違う歌が、BIBIの代表曲に加わりました。
ただし、同時に発表したもう一曲は「Sugar Rush」です。
激しい表現をやめて、穏やかな歌手へ転向したわけではありません。

「Bam Yang Gang」には、少ない楽器と簡潔な旋律で、言い残した気持ちを浮かばせる良さがあります。
繊細に旋律を運ぶ部分から、ピアノとともに言葉を短く切る部分へ。
大声で訴えなくても、相手へ言い返す気持ちは伝えられる。
それまでの強烈な印象の隣に、この小さな表情が広く届きました。

2025年|二つの人物像で、違う声を一枚につなぐ

次のアルバム『EVE: ROMANCE』は、突然思いついた方向転換ではありません。
物語は2022年から考えており、以前に書いた未発表曲と新しい曲を組み合わせて作りました。
BIBIは、前作では人物の怒りに深く入り込んでいた一方、今回は少し離れた場所から人物を見る感覚があったと話しています。

制作に関わる人も広がりました。
以前の少人数のプロデューサーとの作業から、より多くの人と作る形へ。
一人の激しい感情を追い続ける作品から、いくつもの角度で人物を描く作品へ進む中で、制作の環境も変わっています。

中心にいるのは、歌手のEVEと、そのクローンであるEVE-1です。
「Midnight Cruise」や「Bam Yang Gang」にある憧れや切なさと、「Hongdae R&B」「Sugar Rush」の大胆さ。
以前なら別々の顔に見えた歌を、二人の人物の視点として、一枚の中につなげました。

「Midnight Cruise」は、2024年のコーチェラ出演前に、亡くなった祖父の夢を見たことから生まれた曲でもあります。
架空の人物を描く作品の中へ、自分の記憶から生まれた歌も入る。
物語と本人の感情は、完全に切り離されているわけではありません。

BIBIにとって、人物を作ることには、自分自身をすべてさらさずに表現できる面もありました。
しかし、この時期には、次はもっと自分自身を見せたいという気持ちも語っています。
誰かを演じる方法で表現を広げた後、その方法とどこまで距離を取るかも、次の問いになっていました。

2025年のシカゴ公演に立つBIBI(写真:Paddy Murphy)
2025年のシカゴ公演に立つBIBI(写真:Paddy Murphy)。
画像出典:画像掲載元

初のワールドツアーでは、その幅を舞台の流れにしています。
シカゴ公演は「Midnight Cruise」から物語を始め、「Sugar Rush」「Meat」の大胆な世界へ進み、終盤にはアコースティックな「Bluebird」「Winter」へ。
さらに以前の人気曲も歌い、一晩の中で、違う時期の声と人物を行き来する構成でした。

2026年|物語を背負わせず、一緒に楽しむ歌へ

2026年5月に発表した「BUMPA」は、2023年の単独公演で先に披露していた曲です。
音源化を待つ声を受け、アフロビーツを軸にした舞台版から、バンドの音を加えた録音へ作り直しました。
発表年だけを見れば新曲でも、ステージで育ててきた歌が、別の形になった作品です。

この曲についてBIBIが伝えたのは、人目を気にせず、軽く体を動かして楽しんでほしいという思いでした。
制作にはベース、ドラム、ギターに加え、サックスやトランペットなども参加しています。
複雑な人物の物語へ引き込む歌から、同じ場所で楽しく過ごすための歌へ。
歌声が担う役割は、今も少しずつ広がっています。

曲ごとの発声と声の使い分けは、BIBIの歌い方で掘り下げています。

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