カミラ・カベロの歌い方|軽やかな声と荒い声を、感情で使い分ける

『C,XOXO』について語ったカミラ・カベロ(2024年、写真:Rahul Bhatt) カミラ・カベロ
『C,XOXO』について語ったカミラ・カベロ(2024年、写真:Rahul Bhatt)

カミラ・カベロの歌は、軽く浮かぶような声だけでは終わりません。
「Consequences」の繊細さと、「Cry for Me」のざらつきは、同じ歌手の違う表情です。
声をきれいにそろえることより、曲の中にある気持ちへ質感を合わせるところに、歌い方の面白さがあります。

高音を支えたのは、力を入れることだけではなかった

本人が発声の見直しを具体的に話しているのが、フィフス・ハーモニー時代の「Work from Home」の終盤の高音です。
録音では出せても、本番では不安があり、声が裏返ることもあったと振り返っています。
ボーカルコーチのエリック・ヴェトロと、口を開けることや喉の緊張を減らすことを確認し、再現しやすい歌い方を探りました。

カミラが重視した感覚は、力を抜きながら集中することでした。
また、影響を受けた歌手をまねる中で身についた鼻にかかる響きも、より澄んだ声へ近づけたいと思って調整したといいます。
特徴のある声を持ちながら、その出し方を本人も選び直しているのです。

「Never Be the Same」は、声の高さと強さで景色が変わる

「Never Be the Same」では、高い声と低い声の対照が、歌を動かします。
ずっと同じ厚みで押すより、声の高さが変わることで、軽さと重みが入れ替わる。
明るく上へ抜ける声だけを取り出すと、この曲の動きの半分を見落としてしまいます。

2025年7月のダブリン公演には、抑えたヴァースから、十分に声を張るサビへ進む流れがありました。
ここでの強さは、高い音そのものだけでなく、その前の控えめな歌との落差から生まれています。
最初から同じ勢いで歌い続けるのではなく、サビへ向かう余地を残すことが、曲の大きさにつながるのです。

静かな曲では、伴奏の少なさが声の表情を近づける

「All These Years」は、少ないアコースティックギターの音と、柔らかな歌が向き合う曲です。
「Consequences」では、ピアノのそばに空気を含むような細やかな声が置かれます。
同じ歌手の声でも、音を厚く囲まないことで、わずかな揺れや弱さが曲の中心になるのです。

『Romance』の「Used to This」や「Easy」にも、静かで内側へ向く表情があります。
一方で、同じアルバムの「This Love」には昔のロックを思わせる響きがある。
カミラのバラードは、一つの穏やかな声だけで統一されていません。
伴奏が持つ時代感や重さも、歌の親密さの感じ方を変えます。

「Used to This」の制作でカミラが求めたのは、よく知る相手との関係が変わり、何もかもが新しく感じられる瞬間でした。
目立つ高音を置くことだけが、感情を伝える方法ではない。
細かな感覚を歌に残したいという発想が、親密な曲の背景にあります。

この曲で組んだフィニアスには、彼の作品にある独特な音にひかれて連絡しました。
大きく劇的な曲を求めた『Romance』の中でも、こうした細部を生かす共作を選んでいます。
強く歌えることと、すべての曲を強く歌うことは、別の選択なのです。

ソロ初アルバムについて取材を受けたカミラ・カベロ(2018年、写真:Meg Meyer)
ソロ初アルバムについて取材を受けたカミラ・カベロ(2018年、写真:Meg Meyer)。
画像出典:画像掲載元

「Cry for Me」では、ざらつきも感情の輪郭になる

「Cry for Me」の歌は、磨き上げた滑らかさより、荒い手触りが前へ出ます。
ギターを軸にした音の中で、声の引っかかりが感情の切迫感を強める。
この曲を考えるときは、声量だけでなく、声がどのくらい滑らかに流れ、どこに荒さを残すかも大切になります。

「Shameless」にある暗いギターの勢いも、カミラの違う強さを引き出します。
明るく軽快なポップの印象をいったん離れ、張り詰めた響きを曲の表へ出す。
声の強さを、陽気さ以外の感情へ使っている例です。

言葉と旋律を、その場で探す歌もある

「psychofreak」では、最初から完成した歌詞を持ち込む方法を取りませんでした。
リッキー・リードのトラックを受けて、マイクの前で思いつくままに歌い、後から曲へ絞り込んでいます。
本人は、レミ・ウルフとの制作をきっかけに、この即興的な方法を使うようになったと説明しています。

カミラが語ったのは、長い即興から短い曲を作る過程でした。
最初の一声から整った表現を目指すより、その場で出た言葉や旋律の中に、残すべきものを探す。
歌詞を読むことと声を出すことが、別々の工程になりすぎない作り方です。

『Familia』には、スペイン語で歌う「Celia」や、マリア・ベセーラと組む「Hasta los Dientes」もあります。
英語の曲だけで一枚を統一せず、言葉と共演者が変わることで、歌の表情も広げています。

マリアを選んだ理由として、カミラは声の感じや旋律の作り方に近いものを感じたと話しています。
違う声をぶつけるだけでなく、似た感覚の歌い手と並ぶことも、共演の選び方になっているのです。

加工した声では、響きそのものを遊んでいる

『C,XOXO』での声の扱いには、T-Painからの影響があります。
カミラがひかれたのは、加工された声にある遊び心でした。
素の声の美しさを示すだけでなく、響きを変えた声をポップの材料として使う。
この作品を聴くときは、電子的な響きも曲の表情として捉えると、その狙いが見えてきます。

「Chanel No.5」は、速い言葉の運びと、普段の自分を少し大きくしたような人物像が結びつく曲です。
カミラは、この曲で新しい方向への手応えを得たと話しています。
声を長く伸ばす美しさより、次々に言葉が動く感触が前へ出ます。

本人が描くこの人物には、自由に振る舞う軽さと、簡単には揺らがない強さがあります。
経験したことを説明する声から、人物になって振る舞う声へ。
歌の中の話し手を変えることで、同じ声にも別の態度を与えられるのです。

「B.O.A.T.」では、加工された嘆きの声が、鋭い怒りの響きへ移る対照があります。
電子的に整った質感と、感情の強さは両立する。
加工の有無だけで生々しさを判断できないところに、この曲の面白さがあります。

2024年の取材記事に掲載されたカミラ・カベロ(写真:Rahul Bhatt)
2024年の取材記事に掲載されたカミラ・カベロ(写真:Rahul Bhatt)。
画像出典:画像掲載元

声の強さを、鳴っている音との関係で考える

『C,XOXO』では、少ない音の層で作る空間と、強いドラムの組み合わせを求めました。
声の周りを何で満たすかによって、軽い歌い回しも、鋭い言葉も、前へ出る形が変わります。
カミラの歌い方は、声だけを切り離すより、曲全体の音と一緒に考えると分かりやすくなります。

本人と二人の作り手が、互いに予想しなかった方向を試したという制作の話も、その関係を示しています。
いつも同じ声を完成形にするのではなく、新しい音を受けて、歌の姿も動かしていく。
静かなバラードと、声を加工した曲が同じ歌手の表現としてつながる理由は、ここにあります。

声の選択が広がってきた歩みは、カミラ・カベロの歌唱変遷をご覧ください。

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