ポピー(Poppy)の歌声の変遷|甘いポップスと叫びの衝突から、舞台で育つ歌へ

ポピー/2019年のインタビュー掲載写真(撮影:Jenn Five) シンガー
ポピー/2019年のインタビュー掲載写真(撮影:Jenn Five)

甘いポップソングを歌っていた人が、いつの間にか激しく叫んでいる。
ポピーの歩みは、そうした驚きとともに語られがちです。
ただ、作品を時期ごとに追うと、変わってきたのは音楽のジャンルだけではありません。
声を急に切り替えて聴き手を驚かせる作り、バンドの演奏を受けて歌う作り、声の細かな質感まで前に出す録音。
その試みが重なって、現在の歌へとつながっています。

甘い声の世界に、異質な音を持ち込む

2017年の『Poppy.Computer』から続く初期の世界では、人工的な人物像と、甘く整ったポップスが結び付いていました。
2018年の『Am I a Girl?』は、その先へ踏み出した作品です。
とりわけ「X」では、無邪気な歌の場面とメタルの激しさを、なだらかに混ぜずに切り替えています。

この方向転換には、本人の好みとのずれもありました。
『Am I a Girl?』の制作中、スタジオへ向かう車では重い音楽を聴いているのに、着くと明るい曲を書いている。
その食い違いを感じたと、ポピーは振り返っています。

ここで面白いのは、初期の甘さが役目を終えたわけではないことです。
可愛らしい場面があるから、次の激しい場面が唐突に迫ってくる。
「X」の対比は、二種類の音楽を知っていることの紹介ではなく、一曲を不安定に動かす仕掛けになっています。
声が持つ親しみやすさも、その不穏な展開に必要だったのでしょう。

ポピー/2019年のインタビュー掲載写真(撮影:Jenn Five)
ポピー/2019年のインタビュー掲載写真(撮影:Jenn Five)。
画像出典:画像掲載元

『I Disagree』では、変化の激しさを一曲に詰め込む

2019年に先行公開された「Concrete」は、甘いポップスと重い音が次々に顔を出す曲でした。
翌2020年1月のアルバム『I Disagree』では、可愛らしく耳に残る歌と、ヘヴィな音楽との衝突がさらに作品の中心へ進みます。

ポピーは『I Disagree』を、次に何が起こるか分からないように作ったと説明しています。
対して、次の『Flux』では、曲を書くこと自体を中心に据えました。

「Concrete」のような曲では、ある声に耳が慣れたところで、別の場面へ投げ出されます。
柔らかい歌を聞かせたあとに激しさを置けば、最初の柔らかさの意味まで変わってくる。
初期から続く声の甘さを、安心して聴ける要素としてだけでは使わない。
この時期には、その組み合わせ自体が強い個性になっていました。

『Flux』で、バンドの演奏に歌を重ねる

2021年の『Flux』では、録音の進め方も変わりました。
楽器はバンドで演奏して録り、歌はそのあとに重ねています。
同じ場所で生まれた演奏の勢いを受け取りながら、自分の声を入れていく方法でした。

制作を担ったジャスティン・メルダル=ジョンセンは、歌を試すよう励ましていました。
ただし「Hysteria」は、楽器を彼が演奏し、ポピーが遠隔で歌を録った曲です。

バンドと同時に一発録りした歌、という理解では、この作品の変化を捉え損ねます。
先にできた演奏を受けて、どんな声を重ねるかを試す。
その順番によって、伴奏の動きと歌の反応を組み立てられるのです。
場面を細かく切り替える前作から、演奏と歌で一曲の流れを育てる方法へ。
ポピーの表現には、別の広がり方が加わりました。

『Zig』で、声の質感を前へ出す

2023年の『Zig』は、アリ・パヤミと組み、電子音やダンス音楽へ重心を移した作品です。
ポピーは、『Flux』やEP『Stagger』の温かさ、粗い輪郭に対して、今回はくっきりとした音を求めたと説明しています。

声についても、ミックスの中でもっと前へ出し、質感を伝えたいと考えていました。
「Flicker」は、その細かな表情がむき出しになる例です。
ただし、歌への取り組み方を変えたというより、歌う経験が増える中で声が成熟したのだと本人は捉えています。

前の作品より声が近く、はっきりと感じられても、その違いをすべて発声の変化に結び付けることはできません。
本人が育ててきた声を、録音でどこまで前に出すかも変わっているからです。
『Zig』は、ポピーが激しい歌のほかに持っている、声の肌触りを考えるうえでも大切な時期になります。

共演によって変わる、歌の仕上げ方

2024年のBad Omensとの「V.A.N.」では、ノア・セバスチャンと同じ場で録音に臨みました。
自分で録った歌を送ることが多かったポピーにとって、新鮮な経験でした。
相手の狙いをその場で確かめながら、歌を詰めていったのです。

一人で仕上げて渡す場合と、作り手の反応を受けながら録る場合では、判断の進め方が変わります。
共同制作の広がりは、共演相手の名前が増えたことだけを意味しません。
曲に求められている声を、人と相談しながら具体化する機会にもなっていました。

『Negative Spaces』で、急転する歌から突き進む歌へ

ポピー/2024年『Negative Spaces』期の掲載写真
ポピー/2024年『Negative Spaces』期の掲載写真。
画像出典:画像掲載元

2024年の『Negative Spaces』では、ジョーダン・フィッシュが制作を担います。
彼が取り組んだのは、ポピーの歌詞や個性を、より馴染みのある曲の構成へ載せることでした。
絶えずテンポや展開を変える作りとは、別の方向です。

本人も、制作の入り口で複数の実験を考えていました。
最後まで容赦なく進む曲、1980年代のシンセポップを思わせるダンス曲など、欲しい曲の姿を描いています。
フィッシュについては、歌唱を録る力と、激しい音楽から甘いポップスまでを好む感覚を高く評価していました。

最初に一緒に録ったのは「New Way Out」でした。
また、アルバム全体には、ステージを意識し、まだ録音で見せていなかった歌を試す狙いもありました。
「Crystallized」のようなポップな曲と、強烈なスクリームを前面に出す曲が並びます。

同じ作品に甘さと激しさが共存していても、その配置は以前と同じではありません。
一曲の途中で景色を急に変える方法に加え、一つの方向へ歌い切る曲同士を並べる方法が生まれています。
声を切り替える瞬間の驚きから、その声でどこまで曲を押し進められるかへ。
ポピーの表現を受け止める曲の形も、変わってきたのです。

三人の声を組み合わせた「End Of You」

2025年には、エイミー・リー、コートニー・ラプラントと「End Of You」を発表します。
発端はポピーとフィッシュの構想でした。
エイミーによれば、自分が歌う言葉をポピーが書き、ポピーの言葉は自分が書いています。
さらに、互いの仕事を受けて次の要素を重ねる形で曲を仕上げました。

この共同制作では、自分の歌だけを完成させればよいわけではありません。
相手の声で届く言葉を考え、自分も相手から受け取った言葉を歌う。
独特な一人の声で世界を作ってきたポピーが、別の個性とどう組み合わさるかを考える機会になっています。

『Empty Hands』では、舞台の経験を次の録音へ戻す

2026年の『Empty Hands』でも、フィッシュとの制作は続きました。
作品ごとに協力者を変えてきた時期を経て、理由を一つずつ説明しなくても意図が伝わる関係が育っています。
以前の『Flux』での曲の組み立てや、『Zig』での制作とは、作業の進み方も異なるといいます。

本人は『Empty Hands』を、前作よりも歌に重心のある作品だと捉えています。
その背景にあったのはツアーでした。
舞台で新しいことを試し、その経験をスタジオへ持ち帰る。
客席も一緒に歌いたくなるサビを作りたいという思いも語っています。

「Guardian」のメロディーは、書いたあとも本人の頭から離れなかったといいます。
激しさを増す作品の中に、愛情を含んだ歌も息づいていました。

初期には、人物像や曲の急展開と結び付いていた声が、演奏との関係、録音の質感、客席とのやり取りまで含む表現へ広がってきました。
しかも、その歩みは甘い声を捨てて激しい声に置き換える一本道ではありません。
どんな曲の形なら、今の自分の歌がいちばん生きるのか。
ポピーは、声と作品の両方を組み替えながら、その答えを探してきた歌手です。

曲ごとの声の選び方は、ポピー(Poppy)の歌い方で掘り下げています。

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